カフェイン代謝が遅い人は「コーヒー1日3杯以上」で高血圧リスク増加
カナダのトロント大学の研究グループは、「カフェイン代謝が遅い遺伝子型の患者がコーヒーを1日に3杯以上摂取すると、1日1杯未満と比べて高血圧進行のリスクなどが有意に上昇した」ということを明らかにしました。このニュースについて甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
研究グループが発表した内容とは?
カナダのトロント大学の研究グループが発表した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回紹介する研究は、トロント大学の研究グループがコーヒーの摂取と腎機能障害マーカーとの関連を検討した内容になります。研究では治療をしていない18~45歳のステージ1の高血圧患者604例が解析対象とされました。コーヒーの摂取量は、1日1杯未満のグループが全体の26.2%の158例、1~3杯のグループが62.7%の379例、3杯以上のグループは11.1%で67例でした。
解析の結果、カフェイン代謝が速いタイプの遺伝子を持つ患者では、アルブミン尿、過剰濾過、高血圧の進行リスクとコーヒー摂取量との関連は認められませんでした。ところが、カフェイン代謝が遅いタイプの遺伝子を持つ患者は、コーヒーを1日1杯未満のグループに対して1日3杯以上摂取するグループでは、アルブミン尿、過剰濾過、高血圧の進行のリスクが有意に上昇し、アルブミン尿の発症が2.8年、過剰濾過の発症が4.9年、高血圧の発症が1.5年早まることが示されました。
研究グループは「カフェイン代謝が遅い遺伝子型を持つ人のみ、コーヒーの大量摂取によりアルブミン尿、高濾過、高血圧の進行リスクが上昇し、カフェインの感受性が高い人の腎臓病発症に関与する可能性を示唆した」と結論付けています。
カフェイン摂取についての注意点は?
カフェインを摂取する際の注意点について教えてください。
甲斐沼先生
カフェインの摂取の注意喚起について、WHO(世界保健機関)が2001年に公表した内容では、カフェインの胎児への影響はまだ確定はしていないとしつつも、妊婦に対してコーヒーを1日3から4杯までにすることを呼びかけています。 また、FSA(英国食品基準庁)が2008年に公表した内容では、妊婦がカフェインを摂り過ぎると子どもが出生時に低体重となり、将来の健康リスクが高くなる可能性があるとして、妊娠した女性に対して、1日あたりのカフェイン摂取量を、WHOよりも厳しく定めて、コーヒーをマグカップで2杯弱程度の200mgに制限するよう求めています。
さらにHC(カナダ保健省)では、2010年に1日あたりのカフェイン摂取量として、健康な成人はコーヒーをマグカップで約3杯飲んだ分量に相当する400mgまで、カフェインの影響がより大きい妊婦や授乳中、あるいは妊娠を予定している女性はコーヒーをマグカップで約2杯飲んだ分量300mgまでとしています。
発表内容への受け止めは?
トロント大学らの研究グループが今回発表した内容についての受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
今回、カナダのトロント大学の研究チームは、未治療のステージ1相当の高血圧患者604例を対象に、カフェイン代謝酵素シトクロムP450(CYP)1A2の遺伝子多型と腎機能障害や高血圧の進行リスクに関連する疫学調査結果を発表しました。当該研究によると、カフェイン代謝が遅いAC/CC型遺伝子の保有者がコーヒーを大量摂取すると、少量摂取の場合と比べて高血圧の発症などが早まることが示唆されました。
これらの研究結果より、カフェイン代謝酵素の遺伝子型に基づく個人の体質や健康状態に応じて食事を提案する個別化栄養などを介入することで、腎疾患の発症リスクを抑制する効果が期待できるという観点で重要な意味を持つ調査報告であったと考えます。
まとめ
カナダのトロント大学の研究グループは、カフェイン代謝が遅い遺伝子型の患者が、コーヒーを1日3杯以上摂取すると、1日1杯未満と比べて高血圧進行のリスクなどが有意に上昇したことを明らかにしました。カフェインは身近な飲み物にも含まれているので、今回の研究結果は注目を集めそうです。