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12cm以上の“高い枕”は脳卒中リスクに、気をつけたい「殿様枕症候群」とは?

 公開日:2024/03/05

国立循環器病研究センターらの研究グループは、「脳卒中の原因の1つである特発性椎骨動脈解離の発症割合は枕が高いほど高くなり、さらに硬い枕では関連が顕著である」と発表しました。また、「殿様枕症候群」という新たな疾患概念を提唱しています。この内容について、中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

国立循環器病研究センターらが発表した研究内容とは?

国立循環器病研究センターらによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回紹介する研究は、国立循環器病研究センターらの研究グループが実施したもので、国際学術誌「European Stroke Journal」に掲載されています。

研究グループは、2018~23年に脳卒中で入院した人の中で、特発性椎骨動脈解離と診断された53人と、それ以外の要因で脳卒中になって入院した53人を対象に、脳卒中が発症した時に使っていた枕の高さを調べました。研究の結果、高い枕を使用すると、特発性椎骨動脈解離と診断された症例群が対照群より多くなったことがわかりました。具体的には12cm以上の枕では症例群が34%、対象群が15%で、オッズ比は22.89倍でした。また、15cm以上の枕では症例群が17%、対象群が1.9%で、オッズ比は10.6倍となりました。

今回の研究結果から、「高い枕の使用と特発性椎骨動脈解離の発症には関連がみられた」と研究グループは考察しています。枕が高ければ高いほど、特発性椎骨動脈解離の発症割合が高いことも示唆されました。また、こうした関連性は枕が硬いほど顕著で、柔らかい枕では緩和されていました。高い枕と特発性椎骨動脈解離の関連について、首の屈曲が媒介する効果は全体の3割程度で、寝返りなどの際の頸部の回旋が合わさることで、発症に関連する可能性が示唆されたとのことです。

研究グループは、今回明らかにした内容について、新しい疾患概念として「殿様枕症候群」を提唱しています。

殿様枕症候群とは?

国立循環器病研究センターらの研究グループは、今回の研究で殿様枕症候群というユニークな疾患概念を提唱しています。なぜ、このようなネーミングになったのでしょうか?

中路 幸之助 医師中路先生

17~19世紀の日本では、「殿様枕」と呼ばれる高くて硬い枕が実際に使われていました。高い枕は髪型を維持するのに有効だったとされています。なお、殿様という名前がついていますが、庶民にも使われていたそうです。

研究グループによると、1800年代の複数の随筆には「寿命三寸楽四寸」という言葉が広がっていたという記載もあったそうです。「12cm程度の高い枕は髪型が崩れず楽だが、9cm程度が早死にしなくて済む」という意味です。当時の人々も、高い枕と脳卒中の隠れた関連性を認識していた可能性があると研究グループは考察しています。

研究グループは「何気ない睡眠習慣が脳卒中の重要危険因子になることが世に広く認識され、脳卒中で困る患者が少しでも減ることを期待している」とコメントしています。

今回の研究内容への受け止めは?

国立循環器病研究センターによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

身近なことが脳卒中の予防につながることを証明した大変興味深い研究であると言えます。症例数が少なく後ろ向きの研究であるため、さらなる検証は必要と思われます。ただ、「首が大きく曲がった姿勢がリスクになり得る」ため、この姿勢を避けることで特発性椎骨動脈解離を予防し、それが脳卒中の予防につながる可能性があります。もしかすると、殿様枕症候群という用語が海外の論文でも引用されるかもしれません。今後、この分野でのさらなる研究を期待します。

まとめ

国立循環器病研究センターらの研究グループは、「脳卒中の原因の1つである特発性椎骨動脈解離の発症割合は枕が高いほど高くなり、さらに硬い枕では関連が顕著である」と発表しました。殿様枕症候群という新たな疾患概念を提唱しました。こうした観点から枕を選ぶ際には、高さと硬さも考えて選ぶ必要がありそうです。

この記事の監修医師