「脳梗塞」の予後、ウエストが太いほど良好 脂肪が機能回復に関与の可能性
製鉄記念八幡病院らの研究グループは、ウエスト周囲長と脳梗塞後の関連性を検討したところ、ウエスト周囲長の長さは良好な機能転帰と独立した関連が見られたということを明らかにしました。この内容について甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
発表した研究内容とは?
今回、製鉄記念八幡病院らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。
甲斐沼先生
製鉄記念八幡病院らの研究グループは、肥満が脳卒中の危険因子であるにも関わらず、脳卒中患者では肥満の方が予後が良いという状況が複数の研究から示唆されていることに注目しました。具体的には、腹部脂肪の指標となるウエスト周囲長と急性虚血性脳卒中、いわゆる脳梗塞後の短期機能転帰および死亡との関連を検討しています。
対象となったのは、福岡県の脳卒中基幹病院7施設による福岡脳卒中データベース研究に2007年6月~2019年9月に登録された急性脳梗塞患者のうち、データが欠けている人などを除いた1万1989人です。対象者は、男女別に入院時に測定したウエスト周囲長で4つのグループに分けています。解析の結果、機能転帰不良の割合はウエスト周囲長が大きいほど減少し、交絡因子を調整後の機能転帰不良のオッズ比は、ウエスト周囲長が2~4番目に長いグループで低くなりました。死亡との関連はBMIを除く交絡因子調整後は有意な関連が見られましたが、BMIを調整後は有意な差が消失したとのことです。
研究グループは「急性脳梗塞患者において、ウエスト周囲長(WC)と短期機能転帰との独立した非線形の関連が示唆された一方で、死亡との関連はなかった。両者の関連は体重やインスリン作用と無関係であり、糖尿病のない患者でのみ認められた。今回の知見は、急性脳梗塞後の機能転帰における脂肪の潜在的役割を検討する上で、腹部脂肪が重要な因子である可能性を示すものである」と結論付けています。また、「腹部脂肪は重症患者において貯蔵エネルギーとして作用し、異化作用に傾いた代謝状態の改善に必要な可能性や、脂肪細胞から分泌される種々のサイトカインが脳梗塞後の炎症に作用し、機能回復に関与する可能性などが報告されており、これらにより説明できるかもしれない」とも指摘しています。
ウエスト周囲長とは?
ウエスト周囲長ついて教えてください。
甲斐沼先生
ウエスト周囲長とは、へその高さで測った腹囲です。ウエスト周囲長を測ることで、内臓脂肪が蓄積しているかがある程度予測することができます。ウエスト周囲長が男性で85cm以上、女性で90cm以上の場合、内臓脂肪の蓄積が疑われます。みなさんも聞いたことがあるメタボリックシンドローム、いわゆるメタボとは、まさにこの状態のことです。ちなみに、肥満は、肥満に伴って生じる糖尿病や高血圧症、脂肪肝、痛風などの改善のために治療の対象となることがありますが、メタボは明確な病気ではなく、病気の予備軍としての意味合いが強くなります。
今回の研究内容への受け止めは?
製鉄記念八幡病院らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
肥満が脳卒中を発症させる危険因子であることは数々の研究で明らかになっていますが、脳卒中患者に限定する中では肥満の方が予後が良好であるという「肥満パラドックス」が過去に示唆されてきました。
これまでに脳卒中発症後の機能的な転帰を鋭敏に反映する肥満関連指標は確立されていませんでしたが、製鉄記念八幡病院の研究グループは、腹部脂肪の指標となるウエスト周囲長(WC)と急性虚血性脳卒中(脳梗塞)発症後の短期機能転帰や死亡率との関連性を検討しました。ウエスト周囲長は、良好な機能転帰と独立した関連がみられたという研究結果から、急性期脳梗塞を発症した後において、腹部の脂肪成分が神経学的な機能予後に影響する重要な因子である可能性が示唆されます。また、腹部の脂肪細胞由来から分泌される数々のサイトカイン性代謝物質が脳梗塞発症後の細胞炎症に作用して、神経学的な機能予後の回復に寄与するとも考えられており、今後さらなる詳細な研究成果が待たれるところです。
まとめ
製鉄記念八幡病院らの研究グループは、ウエスト周囲長と脳梗塞後の関連性を検討したところ、ウエスト周囲長の長さは良好な機能転帰と独立した関連が見られたことを明らかにしました。今後の研究にも注目が集まりそうです。