60歳以上がワサビを毎日食べると記憶力が向上 東北大研究グループ発表
東北大学らの研究グループは、「60歳以上の健康な成人が毎日ワサビを食べると、記憶力が向上する結果が出た」と発表しました。このニュースについて中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが明らかにした内容とは?
今回、東北大学らの研究グループが明らかにした内容について教えてください。
中路先生
今回紹介するのは、東北大学らの研究グループによる調査です、ワサビに含まれる健康成分である「ヘキサラファン」が、健康な高齢者の認知機能に及ぼす効果を調べた調査で、研究成果は学術誌「Nutrients」に掲載されています。
研究の対象となったのは、60~80歳の日本人72名で、就寝前に毎日、ワサビの錠剤を服用するグループと、プラセボ(偽薬)を与えるグループに分け、3カ月間の試験をおこないました。試験期間が終わってから、認知機能検査によって被験者の精神的処理速度、注意力、短期記憶、作業記憶、エピソード記憶、実行機能、視空間認知能力を調べました。その結果、ワサビを与えられたグループは、プラセボを与えられたグループと比べて、エピソード記憶と作業記憶が有意に向上していました。ただし、ほかの認知分野において有意な改善はみられませんでした。その一方、プラセボを与えられたグループは、どの分野でも改善がみられませんでした。ワサビに含まれているヘキサラファンには、抗酸化・抗炎症作用があることが既に研究で示されており、今回対象となった人が服用した錠剤にはワサビエキスの粉末100mgが含まれ、これは0.8mgのヘキサラファンに相当します。
研究グループは論文の中で、「本研究は、ヘキサラファンが高齢者のワーキングメモリとエピソード記憶を増強するという科学的証拠を示した。また、ヘキサラファン摂取後に認知機能が改善する潜在的メカニズムについても考察した」とコメントしています。
今回の発表内容への受け止めは?
東北大学らの研究グループの発表への受け止めを教えてください。
中路先生
今回の研究は症例数が少ないことに加えて、対象が60歳以上の比較的健康な成人に限られており、基礎疾患のある人などは除外されているため限界はあります。他方、認知力が低下する可能性のある高齢者に対して、今回のワサビのような食品によって記憶力が向上するなどの脳の機能を改善できる可能性を示唆したものとして、大変興味深い研究であると考えられます。
食品が持つ認知能力の改善効果への期待感は?
ブルーベリーやナッツ類などでも認知能力の改善効果に確認されているようです。こうした食品を摂取することによる認知能力改善について、どれくらい期待できるものなのでしょうか?
中路先生
認知機能には様々な要素が関与します。今回の研究結果のような毎日ワサビを食べると記憶力が向上し、認知症患者にも有効であるという可能性は考えられますが、一般化は困難であると考えます。現時点では、認知症発症の1つの原因である動脈硬化を防ぐため、バランスの良い食生活や適度な運動を心がけることが重要と考えられます。今後、今回の研究がきっかけとなり、高齢者の認知能力を改善していくための具体的な栄養計画がなされていくことを期待します。
まとめ
東北大学らの研究グループは、「60歳以上の健康な成人が毎日ワサビを食べると、記憶力が向上する結果が出た」と発表しました。高齢化社会が進む中、こうした認知力に関する研究は大きな注目を集めそうです。