目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. NEWS
  3. 1滴の涙から「乳がん」検出、世界初の検査技術 神戸大学発ベンチャーが開発

1滴の涙から「乳がん」検出、世界初の検査技術 神戸大学発ベンチャーが開発

 公開日:2023/10/13
涙から乳がん検出を目指すベンチャーに注目集まる

涙から乳がんを検出する世界初の検査技術を開発する、神戸大学発ベンチャー「TearExo」が注目を集めています。こうした新しい技術について甲斐沼医師に伺いました。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

涙から乳がんを検出する技術とは?

神戸大学発ベンチャーのTearExoが開発する、涙から乳がんを検出する方法について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

今回紹介する涙から乳がんを検出する技術は、TearExoという神戸大学発ベンチャーが開発しているものです。そもそも乳がん検診は、主にマンモグラフィによっておこなわれていますが、痛みを伴うケースも少なくないことと、日本人に多い高濃度乳房がマンモグラフィの読影を困難にするケースがあるという問題が指摘されています。実際に、がん検診・健診・人間ドックからの乳がんの発見率は24.7%に留まっている現状があります。

TearExoでは、ドライアイの検査に用いられる「シルマー試験紙」と呼ばれる、ろ紙片を目じりに置いて数分目を閉じて涙を染み込ませます。その後、ろ紙片をエクソソーム回収溶液に浸し、涙に含まれるエクソソームを回収します。エクソソームとは、細胞から分泌される直径50~150nmの顆粒状の物質で、その表面は細胞膜由来の脂質、タンパク質を含み、内部にはマイクロRNAやメッセンジャーRNA、DNAなどの核酸やタンパク質など細胞内の物質を含んでいます。

このエクソソームを自動分析装置で分析することで、乳がんを検出するという仕組みです。実際にTearExoが、測定装置のプロトタイプを使って、涙を検体としてエクソソームを測定すると、涙の中のエクソソームを正常に測定でき、乳がん患者とそうではない人のエクソソームの違いも判別することに成功したとのことです。

TearExoは「あくまで予備実験の範囲」とした上で、涙で乳がんが検出できる可能性があるとしています。また、乳がんの治療後には、がんでない人と同様のエクソソームが検出されたため、薬物療法の効果、術後の管理、再発リスクのチェックなどの役割でも使用できる可能性が高いとしています。

乳がんとは?

今回のテーマとなった乳がんについて教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

乳がんは乳腺に発生するがんで、女性がかかるがんの中で最も多いとされています。日本人では40~50代女性の発症が多く、全体の半数近くが乳首を中心として外側の上部分にできるという調査結果があります。がん細胞の広がり方によって、乳がんは非浸潤がんと浸潤がんに分類されます。非浸潤がんは、母乳を作成して乳頭まで届ける小葉と乳管内にがんが留まっているものです。

今回紹介した論文でも扱っている浸潤がんは、乳管の外側に存在する基底膜を超えて、がん細胞が乳管の外の間質に広がっているものを指します。間質には血管やリンパ管が存在するため、浸潤がんでは乳房を超えてほかの臓器にがん細胞が移動する可能性が出てきます。非浸潤がんの段階で適切な治療を受ければ治ることが見込まれ、浸潤がんも浸潤が小さいうちに治療を受ければ、ほとんどの場合で治ることが期待されています。

涙から乳がん検出する技術への期待感は?

TearExoは将来的に検査キットを自宅で使用して検体を採取し、検査機関に送るということも視野に入れているそうですが、こうした涙から乳がんを検出するという取り組みについての期待感を教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、中高年齢層の乳がん検診の受診率は5割に満たない状況の中で、現在の国内の乳がんの罹患(りかん)者数や死者数はともに増加傾向を認めています。つまり、国内の受診率は国際的にみても低い水準であるという問題意識が前提として存在しており、簡便な検査で乳がんを早期発見して救える命があると考えることができます。

今回開発された検査技術については、ドライアイの検査で使われるろ紙片であるシルマー試験紙を目尻に挟んで涙が染み込むまで短時間待てば採取が完了して、簡便に検査することができる代物です。一般的に、人体の細胞からは、臓器から別の臓器へのメッセージを伝達する1万分の1mm程度の小さなカプセル(小胞)であるエクソソームが出されていることが知られています。今回の研究では、採取された涙に含まれるエクソソームを抽出し、専用の分析装置でカプセル内の物質を調べれば、1検体につき5分前後で乳がんの有無が判定できます。

令和9~10年頃には、検査キットを購入した人が自宅で採取して検査機関に送るといった方法が可能となり、検査のハードルが下がって乳がんの早期発見や迅速な治療介入につなげる画期的な検査技術として注目を集めています。さらに、今回の検査技術を活用することによって、乳がん自体の早期発見だけでなく、治療薬の効果検証や治療結果の確認、再発の予兆を掴むことに関しても今後役立てられる期待感を持っています。

まとめ

涙から乳がんを検出する世界初の検査技術を開発する、神戸大学発ベンチャーのTearExoが注目を集めていることが今回のニュースでわかりました。TearExoは将来的には乳がん以外の疾患への応用も目指しているとのことで、今後も注目を集めそうです。

この記事の監修医師