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国産「次世代mRNAワクチン」免疫1年維持で接種期間を延ばせる可能性

 公開日:2023/06/05
新技術活用の新型コロナワクチン 免疫1年維持

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所らの研究グループは、新技術を使った新型コロナウイルスワクチンについて、「動物実験の結果、感染を防ぐ中和抗体の量が1年間維持された」と学術誌に報告しました。今回は、この内容について甲斐沼医師に伺いました。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

研究グループが発表した内容とは?

今回、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所らの研究グループが発表した研究内容について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

今回の研究は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所らによる研究グループが開発した、細胞膜表面に新型コロナウイルスの受容体結合ドメイン(RBD)を発現する「レプリコン」と呼ばれる次世代mRNAワクチンについての内容です。研究内容は、科学誌「Nature Communications」で公開されています。

研究グループは、レプリコンワクチンの免疫が霊長類モデルにおいて効率的にT細胞およびB細胞の応答を誘導することがわかりました。新型コロナウイルスの武漢株またはガンマ株でRBD免疫を持つハムスターと霊長類では、新型コロナウイルス武漢株に対しての防御効果が示されました。また、変異株に対するRBDの特異的な抗体が、霊長類モデルで少なくとも12カ月間維持されたとのことです。

研究グループは今後の研究の展望について、「レプリコンワクチンのさらなる開発には臨床試験での評価が必要であり、プライムワクチンとしての評価とブースターワクチンとしての評価の両方が現在進行中です。ほかの研究グループからも、いくつかレプリコン技術を用いた新型コロナウイルスワクチン臨床試験が報告されています。このレプリコンのアプローチは、今後の新型コロナウイルス変異株に対するワクチン開発戦略としてだけでなく、ほかのパンデミック病原性ウイルスに対するプラットフォームとしても有用となることが期待されます」とコメントしています。

レプリコンワクチンとは?

今回の研究対象となったレプリコンワクチンについて教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

レプリコンワクチンは自己増殖型のmRNAワクチンのことで、現在活用されているmRNAワクチンと比べて接種量が10~100分の1程度になるとされています。接種量を少なくすることで、より多くの人に届けることが容易になることや副反応が低減されることが期待されています。新型コロナウイルスの表面にある突起状のSタンパク質全体を抗原とする現在のmRNAワクチンとは異なり、レプリコンワクチンはSタンパク質のうちウイルスが人の細胞に結合して感染するRBD(受容体結合部位)と呼ばれる部分のみを抗原にしています。

発表内容への受け止めは?

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所らの研究グループによる発表内容への受け止めについて教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

レプリコンワクチンの免疫は霊長類モデルにおいて、効率的にT細胞やB細胞の応答を誘導し、とくに新型コロナウイルス武漢株に対する防御効果を示すとともに、変異株に対するRBD特異的な抗体が少なくとも1年間維持されることが判明しました。今回の研究結果から、レプリコンワクチンを用いた免疫に関するプラットフォームは、今後のコロナウイルス変異株に対して持続的な免疫を誘導する有用なワクチン候補となり得ますし、今後の変異株に対するワクチン開発における戦略的役割を発揮できると考えられます。また、将来的にパンデミックを引き起こし得る病原性ウイルスに対する基盤的な技術として、応用研究が広がることが期待されます。

まとめ

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所らの研究グループが、新技術を使った新型コロナウイルスワクチンについて、「動物実験の結果、感染を防ぐ中和抗体の量が1年間維持された」と学術誌に報告したことが今回のニュースでわかりました。レプリコンワクチンが実用化すれば、従来よりも少ない量でワクチン接種が可能になるということで、今後の研究にも注目が集まりそうです。

この記事の監修医師