「パーキンソン病」の新たな発症メカニズムを発見 富山大学ら研究グループ発表
富山大学らの研究グループは、手足が震えたり体が動かなくなったりする症状が表れる難病「パーキンソン病」の発症メカニズムを発見したと発表しました。このニュースについて甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
研究グループが発表した内容とは?
今回、富山大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回紹介する研究は富山大学らの研究グループによるもので、英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に内容が掲載されています。研究グループは、パーキンソン病患者に数多く変異が報告されている病因分子の1つである「PARK9」が、細胞内外から運ばれてきた不要な分子を分解する細胞内小器官であるリソソームに存在し、水素イオンとカリウムイオンを輸送するタンパク質として機能することを発見しました。そして、パーキンソン病患者で報告されている変異によって、これらのイオンを輸送する機能が著しく低下することがわかったとのことです。このことからパーキンソン病患者の脳内では PARK9による水素イオンとカリウムイオンの輸送機能が低下していると考えられると指摘しています。
また、PARK9の輸送機能が阻害されると、リソソームの分解能力が低下して、正常では神経機能の調節に関わる分子である「α-シヌクレイン」の異常な蓄積が引き起こされたとのことです。これらのことからPARK9による水素イオンとカリウムイオンの輸送機能は、α-シヌクレインが脳内に蓄積することを防ぐ重要な役割を担っており、パーキンソン病患者はこの輸送機能が低下することでα-シヌクレインの異常な蓄積が引き起こされることが示唆されるということを研究グループは明らかにしました。
研究グループは「本成果はパーキンソン病の発症メカニズムや治療方法の解明に向け、新たな道を切り開くものと期待できます」とコメントしています。
パーキンソン病とは?
今回、富山大学らの研究グループが新たな発症メカニズムを発見したパーキンソン病がどのような病気なのか教えてください。
甲斐沼先生
パーキンソン病は厚生労働省の指定難病で、神経難病の中で最も患者数が多い疾患です。人口10万人あたり100~120人の患者がいると言われており、発症年齢は50~60歳代で、日本では男性よりも女性の方が多いとされています。パーキンソン病の大半は非遺伝性で、遺伝性は5~10%です。
パーキンソン病の4大症状として、体が震える「振戦」、筋肉の緊張が強くなって手足の動きがぎごちなくなる「固縮」、動作が遅くなる「寡動・無動」、転びやすくなる「姿勢反射障害」が挙げられます。運動障害にあたる4大症状以外の非運動症状としては、嗅覚低下、便秘、頻尿や排尿困難、立ちくらみ、起立性低血圧、睡眠障害、記憶障害、うつ、幻覚・妄想などがあります。
発表内容への受け止めは?
富山大学らの研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
富山大学らの研究グループは、脳の神経細胞の中にあるPARK9というタンパク質に着目してその機能を分析し、パーキンソン病の原因となるα-シヌクレインの分解を進める役割を果たしていることを明らかにしました。また、薬剤を使ってPARK9の働きを阻害する実験を実施し、α-シヌクレインが通常の4倍以上も蓄積したことも判明し、当該グループではPARK9の機能異常がパーキンソン病の発症につながることを新たに指摘できたとしています。
従来のパーキンソン病の治療では、随伴する症状を緩和する、あるいは病状の悪化を遅らせる治療法はあったものの根本的な治療法は開発されていません。富山大学らの研究グループが今回提唱したパーキンソン病の発症メカニズムに着目することで、根治的な治療につながる新薬の開発などを含めた医療貢献もできる可能性があると期待します。
まとめ
富山大学らの研究グループは、手足が震えたり体が動かなくなったりする症状が表れる難病「パーキンソン病」の発症メカニズムを発見したと発表したことが今回のニュースでわかりました。今回の成果によって、新たな治療法が明らかになることに期待が集まります。