目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. NEWS
  3. 早期パーキンソン病の進行を腸内フローラで予測、名古屋大学らが報告

早期パーキンソン病の進行を腸内フローラで予測、名古屋大学らが報告

 更新日:2024/03/08
腸内細菌フローラでパーキンソン病の早期進行を予測

名古屋大学らの研究グループは、パーキンソン病患者の腸内フローラから2年後の症状進行を予測するモデルを作成した結果、早期患者では短鎖脂肪酸産生菌が少ない、またはムチン分解菌が多いことが進行を予測する因子であると報告しました。このニュースについて甲斐沼先生にお話を伺います。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

研究グループの報告内容とは?

今回、名古屋大学らの研究グループが報告した内容について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

今回の研究は、名古屋大学大学院神経遺伝情報学分野の研究グループによって発表されました。研究グループはパーキンソン病患者165例を2年間追跡するとともに、登録時の腸内フローラや臨床症状から2年後の症状進行を予測するランダムフォレストモデルを作り、重症度別に予測モデルの精度を評価しました。その結果、重症度分類Ⅰ期の早期パーキンソン病患者では、2年後のパーキンソン病症状進行を腸内フローラは79.2%の精度で予測できました。腸内フローラによる予測モデルの精度はパーキンソン病の重症化とともに低下し、Ⅲ期の患者では予測精度は66.1%でした。属レベルでの菌種の検討では、ベースライン時の重症度が高いグループでは、短鎖脂肪酸産生菌であるFusicatenibacter属、Faecalibacterium属、Blautia属の減少と、ムチン分解菌であるAkkermansia属の増加が認められたということです。これらの細菌数は2年間の追跡期間中に変化しなかったことから、腸内フローラの変化はパーキンソン病の進行によるものではなく、パーキンソン病の早期進行の予測因子であることが示唆されました。

パーキンソン病とは?

今回の研究対象になったパーキンソン病について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

パーキンソン病は、大脳の下にある中脳の黒質のドパミン神経細胞が減少して発症します。一般的な症状としては、ふるえや筋強剛、動作緩慢、姿勢保持障害などを中心とする運動症状だけでなく、便秘や頻尿、発汗、嗅覚低下、立ちくらみなどの自律神経関連症状も認められることがあります。

パーキンソン病の患者は1000人に1人~1.5人の割合でいるとされており、とくに60歳以上では100人に約1人と割合が高くなり、高齢化に伴い患者は増加しています。40歳以下で発症する場合は若年性パーキンソン病と呼ばれます。治療の基本は、薬物療法となります。また、最近普及している手術による治療(脳深部刺激療法)では、左右両方の脳に植え込んだ電極で脳の深部に位置する視床下核や淡蒼球内節部といった特定部位を電気刺激して、パーキンソン病の症状を抑えます。

報告内容への受け止めは?

名古屋大学らの研究グループによる報告内容についての受け止めを教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

これまで、パーキンソン病患者における腸内細菌に関する多数の研究報告が公表されています。今回の研究の主要テーマであるパーキンソン病患者の症状進行と個別の菌種の関係を調べる縦断的研究が過去にフィンランドで実践されており、その際にはPrevotella属の減少とパーキンソン病の症状進行との関連性が示唆されました。今回の研究グループが実施したパーキンソン病患者165人を対象とした研究結果によれば、腸内環境下において短鎖脂肪酸産生菌であるFusicatenibacter属、Faecalibacterium属、Blautia属が少ない患者、あるいは多くのムチン分解菌であるAkkermansia属が存在する異常な腸内細菌叢を有する患者ではパーキンソン病の症状進行が早いことが判明しました。

研究の結果から、早期パーキンソン病患者に対して腸内細菌叢を正常化する、もしくは不足している腸内代謝産物を補給する治療介入を実践することによってパーキンソン病の症状進行を遅らせることが期待できると考えられ、今後のパーキンソン病に対する治療手段として一役を担う可能性が示唆されました。

まとめ

名古屋大学らの研究グループが、パーキンソン病患者の腸内フローラから2年後の症状進行を予測するモデルを作成した結果、早期患者では短鎖脂肪酸産生菌が少ない、またはムチン分解菌が多いことが進行を予測する因子であると報告したことが今回のニュースで明らかになりました。今後の治療に活かされることに期待が集まります。

この記事の監修医師