赤ちゃんの原因不明の病気、ゲノム解析で約半数特定
慶應義塾大学らのグループは、従来の検査法では原因をつきとめることができなかった重症の赤ちゃん85人をゲノム解析した結果、41人が生まれつきの遺伝性疾患と判明したと発表しました。このニュースについて武井医師に伺いました。
監修医師:
武井 智昭(医師)
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
慶應義塾大学らの発表内容とは?
慶應義塾大学らのグループによる今回の発表の内容について教えてください。
武井先生
今回の研究は、新生児科医とゲノム研究者からなる全国チームが8都府県にある17の高度周産期医療センターからなるネットワークを作り上げて実施されました。対象になったのは2019年4月~2021年3月までの2年間で、新生児集中治療室に入院するほど具合が悪く、熟練した新生児科医のチームをもってしても従来の検査法では原因をつきとめることができなかった重症の赤ちゃん85人になります。研究では、赤ちゃんから1ccほど採取した血液からDNAを取り出して解析がおこなわれました。
その結果、対象85人のうち41人の病気の原因を特定することができたとのことです。その大半は、約30億個あるDNAの塩基のうち、1~2つの塩基が、別の塩基に書き換わったことが原因だったそうです。原因が特定できた41人のうち20人では、診断結果をもとに検査や治療方針が変更されました。筋肉や皮膚の一部を切り取って調べる筋生検や皮膚生検を受けずに済んだり、効果の高い薬を使うことができたり、臓器移植によって救命できる可能性がわかったということです。今回の研究で実際に診断のついた中に、嚢胞性線維症という希少疾患があり、消化を助ける薬を始めたところ、体重が増えるようになったそうです。
今回の発表内容の受け止めは?
今回発表された内容の受け止めを教えてください。
武井先生
これまで診断名が不詳であった原因不明の多重障害に関して、原因が遺伝子レベルや内分泌疾患などであれば、これから生まれてくるお子さんへの発生確率や影響など遺伝相談に対応がしやすいことがメリットとしてあります。診断名がつくことで、親御さんを含めた家族にも客観性の高い情報提供ができ、適切な治療など患者と医師・医療チームとの信頼関係や今後の方針が組みやすくなります。
赤ちゃんの疾患特定の難しさとは?
赤ちゃんの疾患を特定することの難しさについて教えてください。
武井先生
特殊な疾患では遺伝子変異による疾患、内分泌疾患などまだ解明されていないものが多数あるとされています。こうした疾患は頻度が低く、疾患のデータベースがまだ不足しているために、希少疾患に関しての究明が今後も重要となるでしょう。
まとめ
従来の検査法では原因を決めることができなかった重症の赤ちゃん85人をゲノム解析した結果、41人が生まれつきの遺伝性疾患と判明したことが今回のニュースで明らかになりました。実際に治療法の変更などに生かされているということで、今後も新しい技術によって1人でも多くの命が救われることに期待が集まります。