来年4月から、不妊治療への着床前検査対象を限定して実施へ
日本産婦人科学会は来年4月から、着床前検査の不妊治療としての実施対象を2回以上流産した経験がある夫婦などを対象に学会の認定施設でおこなう方針を決めました。このニュースについて前田医師に伺いました。
監修医師:
前田 裕斗 医師
今回の発表の内容とは?
まず、日本産婦人科学会の理事会が承認した内容について教えてください。
前田先生
今回、日本産婦人科学会の理事会で議論されたのは、体外受精によってできた受精卵から細胞を一部取り出し、遺伝子が集まってできている染色体の数に異常がないかを調べる着床前検査(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy:PGT-A)の不妊治療をしている一部患者への実施についてです。
来年4月から体外受精を2回以上連続しておこなっても妊娠に至らない夫婦や流産や死産の経験が2回以上ある夫婦を対象に、年齢制限は設けず、全国に100施設余りある学会の認定施設でおこなうとする方針が了承されました。日本産科婦人科学会はこれまで、成人になる前に日常生活を著しく損なう状態が出たり、生存が危ぶまれる状態になったりする疾患や、習慣流産を着床前検査の対象として認めてきました。
その一方で、特定の病気や障害のある子どもが生まれないようにすることにつながりかねないとの強い懸念を持たれている検査でもあり、不妊治療として実施するかどうかについてはこれまで慎重に議論されてきた経緯があります。
不妊治療の患者にとってどのようなメリットが?
今回示された新たな方針は、不妊治療をしている患者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?
前田先生
今回承認されたPGT-Aという検査は、染色体の数に異常があるかどうか調べ、異常のない受精卵の移植を目指すことで流産率を下げ、出産につなげることを目的にしています。そもそも、妊娠初期の流産は、ほとんどが染色体数の異常によるものです。PGT-Aは、受精卵を胚盤胞と呼ばれる段階まで育て、一部の細胞を採取して染色体の数を調べることで流産になりやすいと考えられる胚を見つけます。
日本産科婦人科学会がおこなった研究によると、PGT-Aによって1回の胚移植あたりでの流産率低下、生児獲得率上昇が得られたとのことでした。つまり、PGT-Aを利用することで、不妊治療による流産を経験する確率を減らす効果があると考えられています。
流産は女性の身体・精神の両面に大きな負担がかかります。また、流産の経過中は治療を中断する必要があることから、大きな焦りを感じる人もいらっしゃいます。PGT-Aを利用することで、これらの負担を軽減することができるメリットがあると考えられます。
検査を利用するにあたって留意すべき点は?
検査を利用するにあたって、留意すべき点はどのようなことがあるのでしょうか?
前田先生
PGT-Aを利用しても、トータルでは妊娠・出産しやすくなるわけではない点には気をつけていただきたいです。PGT-Aは1回の移植あたりの流産率が低下・生児獲得率が上昇しても、1回の採卵あたりの生児獲得率は上昇させません。これは、できた受精卵がそもそも胚盤胞まで育たないことや、育った全ての受精卵に染色体数の異常がある場合などのためです。
また、PGT-Aをおこなう上でも追加の費用がかかりますので、費用負担がむしろ増える可能性があります。そのため、ご自身の年齢や、ほかに不妊の原因があるかどうか、そして自分自身の倫理観を踏まえて、利用について医師とよく相談し、最終的に決断する必要があります。
まとめ
来年4月から、これまで議論されてきた不妊治療への着床前検査が、2回以上流産した経験がある夫婦などを対象に学会の認定施設で行われる方針が決まったことが今回のニュースで明らかになりました。日本産科婦人科学会の木村正理事長が「子どもを望む人たちにとって、決して夢の技術ではないが、流産で苦しむ人たちにとっては福音になる可能性がある」と話しているように、今後も注目を集めそうです。