「転移性非小細胞肺がん」の生存期間が6カ月延びた研究成果 “長く生きる”肺がん治療の選択肢とは
スイスのローザンヌ大学病院らの研究グループは、「ニボルマブ(商品名:オプジーボ)とイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用療法は、PD-L1発現率が1%未満の転移性非小細胞肺がん患者に対して、長期にわたって臨床的メリットがあった」と発表しました。この内容について松本医師に伺いました。
監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
スイスのローザンヌ大学病院らの研究グループが発表した内容を教えてください。
松本先生
今回紹介する研究報告は、スイスのローザンヌ大学病院らの研究グループによるもので、研究成果は学術誌「Journal of Thoracic Oncology」に掲載されています。
この研究は、「転移性非小細胞肺がん」と呼ばれる進行した肺がん患者を対象におこなわれました。特に、これまでの検査で特定の遺伝子(EGFRやALK)の異常が見つからなかった患者が対象です。研究対象者は、ニボルマブとイピリムマブの併用療法群322人と、従来の化学療法群315人に振り分けられました。肺がんの治療では「PD-L1」と呼ばれるタンパク質の量が、治療の効果を予測する指標の1つと考えられています。今回の研究は、PD-L1の量が少ない(1%未満)患者に注目しました。
研究の結果、全体の生存期間(がんの治療を始めてから生存している期間)は、免疫療法のグループが17.4カ月、化学療法のグループが11.3カ月と、免疫療法の方が約6カ月長い結果となりました。また、無増悪生存期間(がんが進行せずに過ごせた期間)は、免疫療法のグループが5.4カ月、化学療法のグループが4.9カ月と、こちらも免疫療法の方がやや長い結果となりました。効果が続いた期間は、免疫療法のグループが18.0カ月、化学療法のグループが4.6カ月で、免疫療法では長期間の効果持続が確認されました。治療に伴う新たな副作用は特に確認されませんでした。つまり、これまでに知られている免疫療法の副作用を超えるような新しい問題は起きなかったということです。
研究グループは、今回得られた結果について「ニボルマブとイピリムマブの併用療法は、化学療法の併用の有無に関わらず、腫瘍のPD-L1発現率が1%未満の転移性非小細胞肺がん患者において、長期にわたる持続的な臨床有益性をもたらした。アンメットニーズの高いこの患者集団における一次治療の選択肢として、この戦略の使用を支持するものである」とコメントしています。
転移性肺がんとは?
今回紹介した研究で取り上げられた転移性非小細胞肺がんは、ほかの臓器で発生したがんが肺に転移したものですが、転移性の肺がんと原発性の肺がんは何が違うのでしょうか?
松本先生
転移性肺がんは、大腸がんや腎がんなどの肺以外の場所で発生したがん細胞が、血液を通じて肺に転移したがんです。転移性肺がんで重要なことは、肺に転移したがんだとしても、肺がん細胞にはならないことです。
転移性肺がんの確定診断には、痰の細胞診をおこないます。また、気管支鏡検査や針生検、胸腔穿刺による胸水の病理検査を実施することもあります。場合によっては、胸腔鏡や開胸手術で検査をおこなうこともあります。
研究内容への受け止めは?
スイスのローザンヌ大学病院らの研究グループが発表した内容について、受け止めを教えてください。
松本先生
近年、非小細胞肺がんの薬物治療や化学放射線療法の領域は、免疫チェックポイント阻害薬の出現により目まぐるしい進歩を遂げています。従来の治療方法とは大幅に変化してきている領域であるため、本研究は肺がん治療において非常に重要な意味を持つと思われます。
本研究のようにニボルマブ+イピリムマブの併用療法は、非発現の症例で日本でも主に用いられています。今後も、治療効果を示唆する本研究と同様の臨床試験結果が増え、治療方法の確立へ向けて前進することを期待します。
まとめ
スイスのローザンヌ大学病院らの研究グループは、「ニボルマブ(商品名:オプジーボ)とイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)の併用療法は、PD-L1発現率が1%未満の転移性非小細胞肺がん患者に対して、長期に渡って臨床的メリットがあった」と発表しました。肺がんは日本でも多くの人が亡くなる疾患であるため、こうした研究結果が役立つことに期待が集まります。
※提供元:「日本がん対策図鑑」【肺がん(PD-L1陰性):一次治療(OS)】「オプジーボ+ヤーボイ±化学療法」vs「化学療法」
https://gantaisaku.net/checkmate227_checkmate9la_pd-l1_1/