1億円超え! 超高額新薬「ゾルゲンスマ」が承認へ
「ゾルゲンスマ」とは、脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう/SMA)という難病に対する治療薬のこと。対象は2歳未満の乳幼児とされており、これまでの治療法では病気の進行や悪化を防ぐことができなかった患児にも効果が期待できるとして注目を集めています。
しかし、最も注目を引いているのは薬効ではなく、1億円超えになることが予想される薬価です。2019年に承認された高額白血病治療薬「キムリア」の、1回投与当たりの薬価は約3000万円。今回さらに上を行く超高額新薬が承認されることとなったのです。
そこで今回は、「ゾルゲンスマ」の特徴と超高額治療薬の今後の課題について詳しく解説します。
監修医師:
成田 亜希子 医師
「ゾルゲンスマ」とはどんな新薬?
ゾルゲンスマは脊髄性筋萎縮症に対する「遺伝子治療薬」です。ノバルティス・ファーマ社によって開発され、すでにアメリカでは2019年に承認を受けています。そして2020年2月、日本でも厚生労働省の審議会にて承認が決定されました。
では、ゾルゲンスマの作用機序などについて詳しく見てみましょう。
そもそも「遺伝子治療薬」とは?
成田先生
遺伝子治療薬とは、特定の遺伝子を投与し、その遺伝子が作り出す種々のタンパク質の働きによって病気を改善に導く薬のことです。
非常に先進的な治療に思えるかもしれませんが、遺伝子治療は1990年にアメリカでADA欠損症(先天的な免疫不全症)患者に対して行われたのを皮切りに、国内でも1995年から30を超えるさまざまな遺伝子治療の治験が行われています。
「ゾルゲンスマ」はこう作用する!
成田先生
脊髄性筋萎縮症は運動に携わる神経の変性によって筋肉が萎縮し、筋力が低下していく病気です。常染色体劣性遺伝によって子に伝わる遺伝性の病気であり、原因は「SMN1遺伝子」の変異によるものであることが分かっています。
ゾルゲンスマは「アデノ随伴ウイルス9(AAV9)」と呼ばれるウイルスの毒性を排除し、「人工的なSMN1遺伝子」を組み込んだ薬です。このため、体内にゾルゲンスマを注入すると「人工的なSMN1遺伝子」が細胞の中へ入り込み、変異しているSMN1遺伝子の代わりに働くのです。さらに、遺伝子が入り込む神経細胞は細胞分裂をしないため、1回の投与のみで永続的な効果を期待できると考えられています。
成田先生
脊髄性筋萎縮症の多くは生後6か月頃までに発症し、2歳までに人工呼吸器が必要になるとされています。一方、治験では15名の脊髄性筋萎縮症患者にゾルゲンスマを投与したところ、全員が2年経過後も人工呼吸器を必要とせずに生存しているという高い効果を示唆するデータが得られています。
「ゾルゲンスマ」の価格…医療財政への影響は?
治験からも、ゾルゲンスマは脊髄性筋萎縮症の進行を予防する効果が期待されます。今回の承認は脊髄性筋萎縮症の子を持つご家庭にとっては非常に喜ばしいことでしょう。
しかし、ゾルゲンスマの薬価は現在のところ1億円を上回る設定になることが予想されています。すでに承認が下りているアメリカでは2億円超えとのこと。治療費用は非常に高額となります。
一方で、ゾルゲンスマによる治療は「高額療養費制度」の対象となるため、患者に実際かかる負担は薬価と比べればごく少額となり、その不足分は医療財源から支出されることになります。ノバルティス社は年間15~20名への投与を想定しているとのこと。医療財源への負担は少なくありません。
成田先生
ゾルゲンスマのように、今後もさまざまな技術を駆使した超高額新薬は続々と開発されることが予想されます。もちろん、これまで確立した治療法がなく諦めるしかなかった難病に対する薬が生まれることは喜ばしいことです。しかし、その背景には、全国民を支えなければならない医療財源への圧迫もあり、決して見過ごすことはできないものです。
ゾルゲンスマをはじめとした超高額新薬の使用に当たっては厳密な適応患者の選別、医療財源全体の抜本的見直しが必要になることでしょう。