抗インフル薬「ゾフルーザ」のシェア激減! 耐性ウイルス問題で
2018年3月から新たに販売開始された抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ®(一般名:バロキサビル)」。当初は大きな注目を集めていましたが、耐性ウイルスの出現が問題に。日本感染症学会も、「12歳未満の子どもへの投与は慎重に」と提言を出すなど、投与慎重論が多く出ていました。本格的な導入となった昨シーズン(2018-2019)、一気に4割を超えるシェアを獲得したゾフルーザですが、今シーズンはどうなのか。塩野義製薬の決算発表からみえる「ゾフルーザ」の現状について詳しく解説します。
監修医師:
成田 亜希子 医師
目次 -INDEX-
ゾフルーザってどんな薬?
成田先生
ゾフルーザは2018年に販売が開始された新たな抗インフルエンザ薬です。従来の抗インフルエンザ薬と作用機序が異なるため、高い効果があるのでは…?と期待されました。また、服用回数は1回のみと飲み忘れなどのリスクはなく、多くの年代の方に投与できると考えられていたのです。
そんなゾフルーザの特徴について見てみましょう。
ゾフルーザの作用機序は?従来の特効薬との違いは?
成田先生
2001年に販売開始された「タミフル®(一般名:オセルタミビル)」を皮切りに、現在では5種類の抗インフルエンザ薬が販売されています。そのうち4つはヒトの細胞の中で増殖したインフルエンザウイルスが細胞内へ飛び出すのを防ぐ作用を持つ薬です。具体的には、細胞外へ飛び出す際に必要な「ノイラミニダーゼ」という酵素の働きを阻害することで、ウイルスの更なる増殖を防ぐ効果を発揮します。
一方、ゾフルーザは、細胞内でウイルスが増殖すること自体を抑える作用を持つ薬です。従来の特効薬と全く異なる作用機序であるため、タミフルなどに耐性のあるウイルスに対しても効果があると大きな期待が寄せられました。
(※)日本感染症学会による2019年10月の提言を反映
ところが…耐性ウイルスの出現が問題に!
ゾフルーザの販売が開始された2018年度、528.3万人分が医療機関へ供給され、そのシェアは39.3%※と一躍トップに躍り出ました。さらに順調にシェアが拡大していくと予想でしたが、耐性ウイルスが出現しやすいことが判明。さらに、ゾフルーザによって生み出された耐性ウイルスは、通常のウイルスと同程度の病原性と増殖性をキープしながら感染が拡大していくことも明らかになったのです。
このため2019年10月、日本感染症学会は、特に耐性ウイルスの出現率が高い12歳未満の小児に対してゾフルーザの「慎重投与を検討すべき」との声明を発表しました。また、重症化する可能性のある基礎疾患のある方などは「ゾフルーザ単独での積極的な投与を推奨しない」とのこと。
基礎疾患のない12歳以上の方に対しては「現時点で単独投与の推奨か非推奨かを決められない」と結論は先送りされましたが、ゾフルーザに対する疑念が高まる結果となりました。
※参照:日本感染症学会「~抗インフルエンザ薬の使用について~」
http://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=37#02
ゾフルーザの現状…シェアは激減?
日本感染症学会からゾフルーザに関する注意喚起がなされたことにより、ゾフルーザ単独での治療に躊躇する医師が増えたのは事実です。
では、今シーズンのゾフルーザの使用状況は実際どうであったのか見てみましょう。
販売元「塩野義製薬」は大幅減収!
ゾフルーザの販売元「塩野義製薬」が公表した2019年度第3四半期決算の概要によれば、前年と比較して117億円の大幅減収であったとのこと。ゾフルーザの影響が強いことが伺えます。
2019年4~12月におけるゾフルーザの売り上げはわずか3.8億円にとどまり、前年対比は96.2%減となっています。
新薬の開発には莫大な費用と時間が必要であり、世間に売り出すにあたっては多くの宣伝費がかかります。このため、ゾフルーザの思わぬ失速は塩野義製薬に大打撃を与えているのが現状です。なお2019年12月のゾフルーザのシェアは全年齢で12.9%、小児は3.6%に止まるとのこと。今後もさらにシェアが縮小していく可能性があります。
「イナビル」は新剤形を開発!
昨年度、トップの座を奪われた「イナビル®(一般名:ラニナミビル)」(2018年度シェア20.0%)はゾフルーザに対抗すべく新たな剤型を開発しました。
成田先生
イナビルはノイラミニダーゼを阻害する従来の抗インフルエンザ薬と同じ作用機序を持ちます。しかし、1回の吸入のみで投与が完了するため、ゾフルーザと同じく飲み忘れのリスクがないとして高いシェアを誇っています。
しかし、吸入がうまくできない小児や高齢者には使用することができないケースもあったため、この度販売元の「第一三共株式会社」はネブライザーで吸入できる新たな剤型を開発。さらなる市場規模拡大を図っています。
このように、今後も新たな剤型、作用機序のインフルエンザ特効薬が生み出されていくことでしょう。
正しい投与方法、投与回数を守ろう!
現在、日本国内で販売されている抗インフルエンザ薬は5種類。それぞれ剤型や服用回数、投与方法などが異なります。
基本的には、診察した医師の判断によってどの種類の抗インフルエンザ薬を使用するか決定されます。医師の好みや見解によって使用する種類が異なるのが現状です。
どの種類のものを使用するのであれ、大切なのは正しい投与方法や投与回数を守ること。誤った使用をすると、効果が薄くなるばかりか耐性ウイルス出現の原因になることも…。
成田先生
抗インフルエンザ薬には飲み薬、吸入、点滴があります。処方を受けるときは、医師に自身の好みを伝えることも大切です。
医師の判断には従わなければ……。そう思いこんでいる方も多いですが、正しい服用をするには患者さんの好みやライフスタイルに合ったものを選択する必要があります。遠慮せず、しっかり医師に伝えるようにしましょう。