認知症の自宅介護の注意点|よくある困りごとと対処法、利用できるサービスも解説します

認知症の方を自宅で支える生活は、記憶や判断の変化が行動に影響しやすく、ご家族は日々の対応に戸惑うことがあります。生活の流れが乱れやすく、同じ説明を繰り返す必要が生じたり、食事や入浴がスムーズに進まなかったりするなど、身近な場面で負担を感じやすいです。
また、認知症は進行によって必要な支援が変わるため、その都度介護の方法を調整することが避けられません。ご家族が無理なく介護を続けるには、症状の特徴を理解し、生活との両立を意識した関わり方を選ぶことが大切です。
本記事は、認知症の方に生じやすい困りごと、自宅介護で意識したいポイント、日常生活で取り入れられる対策、さらに利用できる支援サービスを解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科
目次 -INDEX-
自宅介護をする際に知っておきたい認知症のこと

認知症は、記憶や判断の変化に加えて、気持ちや行動にも多様な症状が現れます。自宅で支えるうえで、どのような変化が生じるのかを理解しておくことが、状況に合わせた関わり方を選ぶための土台になります。
認知症の中核症状
認知症の中核症状は、脳の働きが弱まることで生じる基本的な変化で、記憶・見当識・判断力などに影響します。目立ちやすいのは記憶の変化で、新しい情報を覚えにくくなり、直前の出来事を思い出せない状態がみられます。昔の記憶は残りやすい一方、日常の細かな内容は失われやすいです。
見当識の変化は、時間の流れや場所の把握が難しくなり、朝夕の区別がつかない、家のなかで位置を確認しづらいなどの状態が起こります。判断力も弱まり、金銭管理や家事の手順がわかりにくくなるほか、火や水道の扱い、外出時の状況判断が難しくなることがあります。
さらに、計画して行動を進める力が弱まることで、作業の途中で目的を忘れることがあります。失語・失行・失認がある場合には、物の使い方がわからなくなる、見えている物を正しく認識しにくいなどの症状として現れます。
認知症に伴う行動と心理症状
認知症は中核症状に加えて、行動や気持ちの変化がみられることがあります。不安や落ち着きのなさが強まり、家のなかを歩き回る様子が生じることがあります。物を置いた場所を忘れた際に、誰かに盗られたと感じる妄想が現れる場合もあります。
気持ちの面としては、以前興味があったことに関心を持ちにくくなる意欲低下が特徴的です。反対に、些細な刺激に過敏になり、怒りやすくなることがあります。睡眠リズムが乱れやすく、夜間に覚醒しやすくなる状態もよくみられます。また、実際には存在しない人影や音を感じる幻覚が生じることがあり、本人にとっては現実と区別しにくい場合があります。
認知症の治療・ケアの選択肢
認知症の治療やケアには、いくつかの選択肢があります。まず、抗認知症薬などを用いた薬物療法があり、中核症状の進行をゆるやかにする目的で使用します。行動や気持ちの変化が強い場合には、症状に合わせて薬を追加することもあります。
薬による治療と並行して、生活環境を整えることも大切な選択肢です。物の配置をわかりやすくする、生活リズムを一定にするなど、環境を整えることで日常の混乱が少なくなります。さらに、必要に応じて介護サービスや相談窓口を活用し、支援体制を整える方法もあります。認知症は進行につれて症状が変化するため、薬物療法・環境調整・生活支援を組み合わせながら、段階に合った選択肢を用いていきます。
認知症の方がよく抱える困りごとと対応方法

認知症は、日常生活のさまざまな場面で困りごとが起こりやすいです。食事、入浴、外出、金銭・手続き、室内環境など、生活全体に影響するため、ご家族は対応に迷う場面が多くなります。ここでは、場面ごとにどのような状況が生じやすいのかと、その背景にある症状の特徴を解説します。
食事に関する困りごと
認知症は、食事に関する変化がよくみられます。食事の開始がうまくいかない場合や、同じ物ばかり選ぶ、食べたことを忘れて追加で食べようとするなど、記憶の変化が影響して起こる状況があります。また、味覚の変化により好みが偏ることもあります。食事中に集中が続きにくく、食器の使い方がわからなくなることがあるのは、理解力や実行機能の変化が背景にあります。
入浴に関する困りごと
入浴時には、順序を思い出しにくくなる、湯加減の調整が難しい、脱衣や洗身の段取りがつかないといった状態が生じることがあります。脱衣所や浴室の環境が複雑に感じられ、場所の認識が弱まると不安につながることもあります。入浴そのものに対する抵抗がみられる場合もあり、これは本人にとって状況の理解が難しいことが背景にあると考えられます。
外出に関する困りごと
認知症の方は、地理的な見当識の変化から、外出先で道がわからなくなる、目的地を思い出せないなどの状況が生じやすくなります。慣れた地域であっても、方向の判断が難しくなることがあります。また、外出中に焦りや不安が高まり、周囲に助けを求める行動が見られる場合もあります。これらは、場所や状況を把握する力の変化と関連しています。
買い物や手続きに関する困りごと
金銭の扱いや手続きは、判断や理解が必要な場面が多い傾向があるため、認知症の方は特に影響が出やすい領域です。支払いの手順がわからなくなる、金額の理解が難しくなる、必要のない物を繰り返し購入してしまうなど、判断力や記憶の変化が関与します。また、書類手続きの際は内容を把握しにくくなり、説明を受けても混乱が続く場合があります。
室内環境に関する困りごと
室内環境に関する困りごとは、見当識や実行機能の変化が背景にあります。自宅のなかで部屋を間違える、電気やガスの操作が難しくなる、片付けの途中で目的を忘れてしまうなどが典型的な例です。また、照明の影や音の変化を誤って受け止め、落ち着かなくなることがあります。睡眠リズムの乱れが加わると、夜間に動き回ってしまうなどの行動がみられることもあります。
認知症の自宅介護を行う際の注意点

自宅で認知症の方を支えるには、症状の変化だけでなく、ご家族自身の健康や生活との両立も含めて考える必要があります。ここでは、介護に関わるうえで特に意識しておきたいポイントを、医学的に整理されている視点を踏まえて解説します。
患者さん・介護者本人の両方の健康管理に気を配る
認知症は、生活全体のペースが変化しやすく、介護に関わる方は日常的に心身の負担を感じやすくなります。介護が長期化することを考えると、介護者の睡眠、食事、休息の確保は欠かせません。また、患者さん側も慢性疾患を併せ持つことが多く、通院や薬の管理が生活の一部になります。認知症の症状によって体調の変化に気付きにくくなる場合があるため、普段の様子や生活リズムを観察し、変化に気付ける環境を整えることが重要です。両者の健康を切り分けて考えるのではなく、生活全体のバランスとしてとらえる視点が求められます。
患者さんの自尊心に配慮する
認知症が進行すると、できることが徐々に変化していきますが、本人はその変化を完全に自覚できない場合があります。自分の行動に自信を持ちにくくなる一方で、周囲からの言葉や態度には敏感になることがあります。些細なミスを指摘されると落ち込んだり感情が揺れたりすることは、医学的にもよくみられる反応です。このため、できている部分を保ちながら、できる範囲の役割を維持できる過ごし方が、結果として生活の安定につながります。自尊心への配慮は、介護のしやすさだけでなく、生活全体の落ち着きにも影響します。
仕組み化で負担を分散する
認知症は、物事を順序立てる力や記憶の保持が難しくなるため、生活の流れが乱れやすくなります。介護者がすべてを個別に対応しようとすると負担が大きくなりやすいため、日課を一定に保つ、物の置き場所を固定するなど、生活動作が自然と進みやすい環境をつくることが役立ちます。これにより、患者さんが混乱しにくくなるだけでなく、ご家族が確認や説明に費やす時間も減り、結果として介護全体の負担が分散されやすくなります。
社会とのつながりを持つ
認知症の介護は、ご家族が悩みを抱え込みやすくなる傾向があります。家のなかで完結した介護が続くと、困りごとを相談する機会が減り、孤立感につながる場合があります。地域包括支援センターや自治体の相談窓口、医療・介護スタッフとの定期的な連携は、生活全体の視点で支援を受けるうえで大切な役割を果たします。また、認知症カフェや家族会など、同じ立場の方と関わる機会は、情報交換と心理的な支えの両方を得ることができます。
認知症の自宅介護で活用できるサービス

認知症の方を自宅で支えるには、医療・介護の専門職による継続的な支援が大切です。生活動作のサポートから体調管理、相談窓口まで、自宅で利用できるサービスは多岐にわたります。ここでは、代表的なサービスの種類と、それぞれが果たす役割を解説します。
訪問介護・訪問看護・訪問リハビリ
訪問介護は、食事・排泄・入浴の介助、掃除や洗濯など生活を維持するための支援が提供されます。認知症の方は日によって状態が変わりやすく、継続的な見守りが役立ちます。訪問看護は、看護師が自宅を訪れ、病気の観察、薬の管理、皮膚トラブルや体調変化の確認を行います。慢性疾患を抱える方が多い傾向があるため、医療的視点で状態を把握できます。訪問リハビリは、体力維持や動作の練習を通じて、自宅生活を続ける力を保つことを目指します。
デイサービス・デイケア
デイサービスは、食事・入浴・レクリエーションなどの日帰りの支援を受けられ、生活リズムを整えるきっかけが得られます。ご家族が介護から離れる時間を確保できるメリットもあります。デイケアはリハビリに重点を置いた施設で、医療職による専門的な訓練や機能維持のためのプログラムが行われます。人との関わりが減ると認知症の症状が揺れやすくなる場合があるため、外出機会や社会的な刺激を得られる環境として活用されています。
ショートステイ
ショートステイは、施設に短期間宿泊しながら生活支援を受けられるサービスです。ご家族の休息や冠婚葬祭、急な予定など、介護が難しい期間に利用できます。また、生活の流れを保ちながら過ごせるため、自宅介護と施設介護を柔軟に組み合わせる選択肢として活用されます。一定期間を施設で過ごすことで、状態の変化に気付きやすくなる側面もあります。
相談窓口
地域包括支援センターは、認知症の方やご家族が相談できる中心的な窓口です。サービスの紹介、生活の課題整理、医療・介護の調整などを総合的に行います。自治体には、認知症地域支援推進員が配置されている場合があり、本人の状況に合わせた支援計画や相談対応を行う役割があります。認知症初期集中支援チームは、早期の段階から専門職が自宅を訪れ、生活状況の整理や必要な制度の調整を行います。
配食サービス
配食サービスは、栄養バランスの整った食事を定期的に自宅へ届ける仕組みです。認知症の方は食事の準備が難しくなることがあるため、調理や買い物の負担を軽減し、生活リズムを保つうえでも役立ちます。見守り機能を兼ねたサービスは、配達時に安否確認を行うこともあり、単身の方や日中独居の方にとって安心感につながります。
福祉用具のレンタル・購入
福祉用具には、歩行を補助する用具や手すり、ベッド、車いすなどが含まれます。認知症の方は判断の変化によって転倒のリスクが高まりやすく、福祉用具を使用することで、過ごしやすい環境を整えることができます。状態に応じて必要な用具を選ぶため、専門職によるアセスメントが行われます。
介護医療院などの施設
自宅での生活が難しくなった場合、介護医療院や介護老人保健施設などの入所施設が選択肢です。医療と生活支援の両方を受けられるため、身体の状態が変化しやすい認知症の方にとって、継続的なケアを受けられる点が特徴です。家族の介護能力と本人の状態を総合的に判断し、必要に応じて入所を検討します。
まとめ

認知症の自宅介護は、記憶や判断の変化だけでなく、行動や気持ちの揺れが生活全体に影響するため、ご家族は多くの場面で負担を感じやすいです。食事、入浴、外出、金銭管理などの日常動作に予期しないトラブルが起こることもあり、介護者が一人で抱え込まない工夫が欠かせません。
訪問介護・訪問看護、デイサービス、ショートステイ、相談窓口など、利用できる支援は幅広く、自宅での生活を続けるための大きな支えとなります。状況に合わせてサービスを組み合わせることで、患者さんとご家族の生活を安定させ、無理なく介護を続けやすい環境を整えることができます。
参考文献




