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介護職の36協定とは?対象者や残業の上限時間について知っておくべきポイントを解説します

 公開日:2025/12/26
介護職の36協定とは?対象者や残業の上限時間について知っておくべきポイントを解説します

介護職は利用者のケアが優先される仕事ですが、その働く環境、特に残業と36協定について理解しておくことが大切です。介護業界では人手不足が叫ばれるなか、勤務時間が長くなりがちとのイメージもありますが、実際の残業時間は必ずしも他業界より突出して長いわけではありません。一方で、法定労働時間を超える残業や休日出勤をさせる場合には労使間で36協定(さぶろく協定)を結び、労働基準監督署へ届け出ることが法律で義務付けられています。本記事では、介護職の残業の実態と残業が発生しやすい理由、36協定の内容や対象者、残業時間の上限規制、介護現場で起こりうる不当な労務管理の例、そして万一労働基準法を逸脱するような状況への対処法まで、順を追って解説します。

小田村 悠希

監修社会福祉士
小田村 悠希(社会福祉士)

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・資格:社会福祉士、研修認定精神保健福祉士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。

介護業界における時間外労働の実態

介護業界における時間外労働の実態
介護の現場では、利用者へのケアが中心となるため、業務が時間どおりに終わらないことも少なくありません。一方で、実際の残業時間は職場や体制によって大きく異なります。本章では、介護職の時間外労働の実態と、残業が発生しやすい背景について解説します。

介護業界の平均的な残業時間

介護の仕事は肉体的にもハードな印象があり、「残業が多そう」と不安に感じる方もいるかもしれません。しかし、実際の残業時間の平均は、他業界と比べて極端に多いわけではありません。介護労働安定センターの調査(令和6年度)では、介護職員の1週間あたりの残業時間の平均は約1.7時間で、約半数の職員(56.6%)が「残業なし」と回答しています。
また、厚生労働省の毎月勤労統計調査(2025年9月分)によれば、医療・福祉業界の月間残業時間(一般労働者)は平均6.4時間で、製造業(14.6時間)や情報通信業(16.3時間)などより少ない水準です。

これはあくまで平均値であり、施設の規模や人員体制によっては月に20〜30時間以上の残業が発生するケースもあります。また、正規職員と非正規職員では残業時間に差があります。このように、介護業界全体としては残業時間は他業界より多くはありませんが、残業時間は勤務先によってばらつきがあります。

参照:
『介護労働安定センターの調査』(公益財団法人介護労働安定センター)
『毎月勤労統計調査 2025(令和7)年9月分結果速報等』(厚生労働省)

介護業界で残業が発生しやすい理由

では、なぜ介護現場では残業が発生するのでしょうか。主な原因として以下のようなポイントが挙げられます。

  • 介護記録の入力や申し送り
  • 職員ミーティングや研修
  • 利用者や家族対応による延長
  • 業務量と人員配置のミスマッチ

以上のような理由から発生する残業のなかには、勤務時間として扱われていないものもあります。例えば、早出しての清掃や朝礼、業務後の申し送りや研修が自主的な活動とみなされている場合です。しかし、実態として業務上必要な指示であれば、その時間は労働時間に該当し、賃金支払いの義務が生じます。本来支払われるべき残業代が支払われていないケース(サービス残業)は労働基準法違反になりえます。

介護業界の36協定とは

介護業界の36協定とは
介護業界であっても労働基準法の適用は当然になされます。ここでは法定労働時間や残業の法律上の扱い、労働基準法第36条に基づく36協定について解説します。

法定労働時間とは

法定労働時間とは、労働基準法で定められた労働時間の上限のことです。日本では原則として1日8時間、週40時間が法定労働時間の上限とされています。この時間を超えて労働させること(時間外労働)や、法定休日(週1回の休日)に労働させることは、本来法律で禁止されています。労働基準法第36条に基づき労使協定(=36協定)を締結して行政に届出を行えば、協定で定めた範囲内で法定時間を超える労働や休日労働が可能になります。裏を返せば、36協定なしに法定時間を超える残業や休日労働を命じることはできないということです。

労働基準法第36条の内容

労働基準法第36条には、上記の時間外労働および休日労働に関する規定が定められています。同条では、「使用者(会社)は労働者との間で時間外・休日労働の協定(36協定)を締結し、これを労働基準監督署長に届け出た場合でなければ、法定労働時間を超えて労働させ、または法定休日に労働させてはならない」旨が規定されています。つまり、36協定の締結・届出が残業や休日出勤の前提条件であり、逆にいえば36協定がない残業・休日労働は違法です。介護業界でも他業種と同様、この法律が適用されます。

36協定の内容

36協定では、時間外・休日労働をさせるための具体的な条件を労使で取り決めます。協定書には通常、残業や休日労働をさせる業務の種類、労働者の範囲、協定の及ぶ期間、そして時間外労働の上限時間や休日労働の上限回数などを明記します。また、後述する特別条項を設ける場合には、臨時的に残業上限を延長できる特別な理由も具体的に記載する必要があります。

さらに、労働者代表の署名も必要で、この代表者は従業員の過半数による信任で選出された者でなければなりません。協定書を作成しただけでは不十分で、労基署へ届出を行って初めて効力を発揮します。36協定の届出は事業場ごとに毎年行う必要があり、更新を怠ると期限切れ以降は残業が一切できなくなります。

36協定の対象者

36協定の対象者とは、協定によって残業・休日労働をさせることができる従業員の範囲を指します。基本的には、その事業場で労働時間の適用を受けるすべての労働者が対象です。正社員だけでなく、パートやアルバイトであっても法定労働時間を超えて働かせる可能性があるなら協定に含める必要があります。

ただし、労働基準法上の管理監督者に該当する者は労働時間規制の対象外となっており、残業代支払義務もないため36協定の適用範囲から除かれます。また、ほかにも高度専門職や裁量労働制の適用者など一部例外職種もありますが、一般的な介護施設では該当者は少ないでしょう。

したがって、通常は介護職員全員について協定を結びます。協定を締結する労働者側の当事者は労働者の過半数代表です。労働組合がある場合はその代表者、ない場合は従業員の投票などで選ばれた代表者が、従業員を代表して協定書に署名します。

36協定の締結・届出がない場合の扱い

36協定を締結していない、あるいは締結していても労基署に届け出ていない状態で従業員に残業や休日勤務をさせた場合、それは労働基準法違反です。1日1時間の残業であっても36協定なしでは法律違反になるため、短時間の残業も許されません。

このような違法残業が発覚する場面として、介護事業所の場合は行政の実地指導や労働基準監督署の調査、あるいは従業員からの申告などが考えられます。後から慌てて届出を出しても、届出前にさかのぼって合法にはできず、届出日以前の残業はすべて違法扱いです。

違反が発覚した場合、まずは労基署からの是正指導が行われ、是正勧告に従わない悪質なケースでは書類送検・罰則適用もありえます。事業者は法令遵守の観点からも必ず36協定を締結・届出のうえで時間外労働を命じるようにしなければなりません。

36協定の締結・届出がされている場合の上限労働時間

36協定の締結・届出がされている場合の上限労働時間
36協定を結べば青天井に残業させてよいわけではなく、法律で残業時間の上限が定められています。ここでは、36協定で定める残業時間の上限と、特別条項付き協定の場合の上限規制、そして介護業界の夜勤や休日勤務の扱いについて解説します。

36協定における上限労働時間

通常の36協定(特別条項なし)の場合、時間外労働の上限は1ヶ月につき45時間、1年につき360時間と法律で定められています。この45時間・360時間という上限は絶対的な基準であり、たとえ労使が合意してもこれを超える時間数を協定に定めることはできません。

したがって、通常月は月45時間以内の残業に収める必要があります。また、この月45時間を超えて残業できるのは年間6ヶ月までとされています。例えば、繁忙期など特定の月に45時間を超える残業をさせた場合、1年のうちそうした月は6回が限度で、それを超える月数での超過は違法です。介護業界では他業種に比べ残業は少ない傾向とはいえ、慢性的な人手不足の職場では45時間近い残業が発生する可能性もあります。

特別条項付きの上限労働時間

とはいえ、介護現場でも年度末や職員の急欠員対応など一時的にどうしても残業が増えてしまう場面はありえます。そこで労働基準法では、臨時的な特別の事情がある場合に限り上記の原則上限を超えて残業させることができる特別条項付き36協定を認めています。特別条項を設けた場合でも無制限に残業できるわけではなく、以下の絶対的な上限が定められています。

  • 年間の時間外労働720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が1ヶ月あたり100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計2〜6ヶ月平均で80時間以内

この特別条項付き36協定はあくまで臨時的な措置であり、常態的な長時間労働を認めるものではありません。介護業界でも、例えば、利用者の急変や看取り対応が重なった月などは一時的に残業が増えることも考えられますが、そうしたケースでも上記の法律上限を超えることは許されず、企業には人員配置の見直しなどで対応する責任があります。

参照:『時間外労働の上限規制』(厚生労働省)

夜勤(深夜労働)・休日労働の取扱い

介護職では夜勤が発生する職場も多いですが、夜勤についても労働時間管理上注意すべき点があります。まず、夜勤は一般に夕方から翌朝までの勤務となりがちで、勤務時間が1日8時間の法定労働時間を超える部分が出ることがあります。その法定時間を超える部分は36協定の対象となり、協定で定めた範囲内でなければ違法な残業になってしまいます。

また、深夜労働についても労働基準法上、深夜割増賃金(25%増し)の支払いが必要です。深夜帯であっても法定労働時間を超える部分であれば36協定が必要です。

そして、休日労働についても、労働基準法第35条では、使用者は労働者に毎週少なくとも1回の休日(または4週を通じ4日以上の休日)を与えなければならないと定めています。この法定休日に労働させる場合も、36協定で休日労働をさせる旨の定めが必要です。休日労働には休日割増賃金(35%増し)が必要なうえ、36協定で休日労働の上限回数も定めておく必要があります。

参照:
『時間外、休日及び深夜の割増賃金』(厚生労働省徳島労働局)
『休憩・休日』(厚生労働省徳島労働局)

介護業界で起こる可能性がある労働時間に関する不当な取扱い

介護業界で起こる可能性がある労働時間に関する不当な取扱い
以上のように法律上は労働時間や残業代のルールが厳格に決まっていますが、介護業界では残念ながら労務管理上の不適切な取扱いがみられる事例もあります。ここでは、介護施設で起こりがちな労働時間に関する問題として、残業代の未払い、勤務時間の不適切な算入除外、36協定未締結・未届出の3つを取り上げます。

割増賃金の未払い

まずは時間外労働に対する割増賃金の未払い、いわゆるサービス残業の問題です。時間外労働をさせた場合、本来は法定の割増率で計算した残業代を支払う義務があります。しかし、実際には「予算が厳しい」「みなし残業代込みの給与だ」などの理由で適正な残業代が支払われていないケースがあります。

業務開始前の清掃・朝礼・引継ぎなどの勤務時間への不算入

次に、実際には業務として行っている時間が労働時間にカウントされていない問題です。介護施設によっては、始業前の清掃や朝礼、終業後の申し送りや片付けなどが勤務時間外のボランティアのような扱いをされ、タイムカードを押す前後に行われていることがあります。一見わずかな時間かもしれませんが、毎日のように積み重なれば月数時間分の未払い残業に相当します。

36協定の未締結・未届出

3つ目は36協定自体が結ばれていない、または届け出られていないケースです。中小規模の介護事業所などでまれにありますが、「残業は少ないから必要ないだろう」と誤解していたり、手続きの怠慢で協定書を作成していなかったりする場合です。しかし、前述のとおり36協定がない残業は時間の長短に関わらず違法です。たとえ残業は月数時間程度でも、協定未締結であれば法律違反となり、行政指導や罰則のリスクがあります。

労働時間・条件が労働基準法を逸脱している場合の対処法

労働時間・条件が労働基準法を逸脱している場合の対処法
では、もし自分の職場で法定を逸脱するような働かせ方が行われていた場合、労働者としてどのように対処すればよいのでしょうか。考えられる対応策をいくつか挙げます。

  • まずは職場内で相談・改善を要望する
  • 労働組合や外部の相談窓口に相談する
  • 法的措置を検討する
  • 転職も選択肢に入れる

いずれにしても、自身の労働時間や働き方に疑問がある場合は泣き寝入りせず、しかるべき手段で改善を求めることが重要です。近年は厚生労働省も働き方改革推進支援センターなど無料相談窓口を用意しており、介護業界向けの労務相談会なども開催されています。適切な働きやすい環境でこそ、質の高い介護サービス提供につながるという意識を持って行動しましょう。

まとめ

まとめ
介護業界は一般に思われているほど残業時間が突出して長いわけではありませんが、一部の職場では人手不足などからサービス残業が常態化していたり、労務管理が不十分だったりするケースもみられます。介護職の皆さんも、自分の勤務状況が労基法の基準を逸脱していないか関心を持ち、必要であれば然るべき対応を取るようにしましょう。お互いに健全な職場環境を整え、利用者さんに向き合えるゆとりを持って介護に取り組めることが理想です。

この記事の監修社会福祉士