介護保険制度とは?仕組みや対象者、サービス内容と手続きの流れを解説

介護保険制度は、介護が必要となった高齢の方が住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、2000年に創設された公的保険制度です。高齢化が進むなか、家族だけで介護を担うことが難しくなり、社会全体で支え合う仕組みが求められました。介護保険制度は、65歳以上の方や、特定の病気によって40歳以上65歳未満で介護が必要になった方が、要介護認定を受けることで各種サービスを利用できます。介護を受ける方だけでなく、その家族の生活も支える仕組みです。
本記事では、介護保険制度の目的や成り立ちから、利用できるサービスの種類、申請から利用開始までの流れを解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
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眼科(角膜外来)
目次 -INDEX-
介護保険制度の目的と役割

高齢化が進む日本では、介護が必要になってもできるだけ自宅や地域で生活を続けられるよう支えることが社会の課題です。介護保険制度は、その課題に応えるために生まれた仕組みです。ご家族や個人だけに負担を強いるのではなく、社会全体で介護を支え合うことを目的としています。
介護保険制度創設の背景
介護保険制度が始まったのは2000年です。それ以前の日本では、介護は主にご家族が担うものとされていました。しかし、核家族化の進行や女性の社会進出、高齢化の加速などにより、ご家族だけで介護を続けることが難しくなりました。また、従来の福祉制度は、所得や世帯構成などに応じて行政が援助を決める措置制度と呼ばれる仕組みが中心で、ご本人の希望や選択が十分に尊重されにくいという課題もありました。
こうした背景から、介護を社会全体の課題として位置づけ、利用者が自ら必要な支援を選べる仕組みとして創設されたのが介護保険制度です。年齢や要介護度に応じて公平にサービスを受けられるようにすることで、介護を理由に生活が崩れることを防ぎ、尊厳を保ちながら暮らせる社会を目指しました。
介護保険制度の目的と果たす役割
介護保険制度の目的は、介護が必要な方とその家族を社会全体で支えることです。誰もが加齢や病気により介護を必要とする可能性があるため、保険料を負担し合うことで支援を受ける互助の仕組みとして運営されています。
この制度は、介護を受ける方の自立支援を重視しています。単に介護を提供するのではなく、できる限り自分の力で生活を続けられるよう、リハビリテーションや生活支援を組み合わせたサービスが整備されています。また、介護を担うご家族への負担軽減も重要な役割の一つです。訪問介護や通所介護、ショートステイなどを利用することで、ご家族が休息を取ったり仕事を続けたりできる環境が整えられています。
さらに、介護保険制度は地域社会の支え合いを強化するという役割も担っています。地域包括支援センターを中心に、医療機関や介護事業者、行政が連携し、地域ぐるみで高齢者の生活を支える体制が整備されています。このように、介護保険制度は単なる介護の仕組みではなく、誰もが住み慣れた地域で暮らし続けられる社会を実現するための基盤といえます。
介護保険制度の仕組み

介護保険制度は、介護が必要になったときに支援を受けられるよう、保険料と公費によって成り立つ公的な仕組みです。高齢の方が住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、市区町村が中心となりサービス全体を運営しています。この仕組みを理解しておくと、制度を利用する際の流れがつかみやすいです。
介護保険制度の保険者
介護保険制度の運営主体は市区町村です。市区町村は保険料の徴収、要介護認定の実施、サービス利用量の管理、ケアマネジメントに関する指導など制度運営全般を担います。また、広域連合が運営主体となる地域もあり、地域の実情に合わせて適切な運営方法が選択されています。
保険者は、地域の高齢の方の生活を支える基盤を整え、介護サービスが安定して提供されるよう調整します。さらに、地域包括支援センターと連携し、介護予防や相談支援にも関わることで、暮らし全体を支える役割も果たしています。
介護保険制度の被保険者
介護保険制度は、40歳以上の方が被保険者です。65歳以上の方は第1号被保険者とされ、加齢による心身の変化で介護が必要になった場合にサービスを利用できます。40歳以上65歳未満の方は第2号被保険者に区分され、特定の病気によって介護が必要となった場合に対象となります。
被保険者は保険料を納める義務があり、年金からの天引きや個別の納付によって支え合う仕組みが整えられています。介護が必要になったときは、要介護認定を受けることでサービスの利用が可能となり、自立支援に向けた支援の入り口となります。
介護保険制度のサービス事業者
介護サービスを実際に提供するのは民間企業・社会福祉法人・医療法人などが運営する事業者です。訪問介護、訪問看護、通所介護、ショートステイなど幅広いサービスが整備されており、それぞれ専門の職種が支援にあたります。
サービス事業者は市区町村の指定を受けることで制度に参入でき、運営状況は定期的に確認されています。また、ケアマネジャーが中心となり、利用者の状態に応じた支援計画を作成し、複数の事業者が協力しながらサービス提供を行います。この体制により、医療・介護・生活支援が連携した切れ目のない支援が実現されています。
介護保険制度で利用できるサービス

介護保険制度は、介護が必要になった方が自宅や地域で生活を続けられるよう、多様なサービスが整備されています。日常生活の支援から専門的なケア、介護予防まで幅広く、利用者の状態に合わせて組み合わせることができます。ここでは分類ごとに、どのような支援が受けられるのかを解説します。
居宅介護サービス
自宅で生活を続けたい方が利用しやすいのが居宅介護サービスです。訪問介護は、身体介護や生活援助を通じて日常生活を支えます。訪問看護は、主治医の指示に基づき看護師が健康管理や療養上の支援を行います。ほかにも、訪問リハビリテーション、通所介護(デイサービス)、福祉用具貸与や住宅改修など、自宅での暮らしを継続しやすくする支援が揃っています。利用者の心身の状態や生活環境に応じて選択できるため、在宅生活の維持に役立つ点が特徴です。
施設サービス
自宅での生活が難しくなった場合に利用しやすいのが施設サービスです。介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は、生活全般の介護が提供され、介護老人保健施設はリハビリテーションを中心とした支援が行われます。さらに、医療的管理が必要な方には介護医療院が設けられており、長期的な療養と生活支援を同時に受けられる体制が整っています。これらの施設は、生活の場とケアの提供を両立させる役割を担っています。
地域密着型介護サービス
地域に根ざした小規模なサービスとして整備されているのが地域密着型介護サービスです。小規模多機能型居宅介護は、通い・訪問・宿泊を柔軟に組み合わせることができ、認知機能の低下がある方でも慣れた地域での生活を続けやすくなります。グループホームは、家庭に近い環境で共同生活が行われ、日常生活の支援を受けられます。地域での暮らしを大切にしたい方に適したサービスです。
居宅介護支援
介護サービスを適切に利用するためには、ケアマネジャーによる支援計画が欠かせません。居宅介護支援は、利用者の心身の状態や生活環境を踏まえたケアプランを作り、サービス事業者との連絡調整を行います。サービスを上手に活用するための要となる存在で、利用者とご家族の希望を踏まえた支援内容の調整を行います。
介護予防サービス
要支援と認定された方や、心身の状態が低下し始めた方を対象に、介護が必要な状態への進行をできるだけ遅らせるための取り組みが介護予防サービスです。運動機能の向上や栄養管理、生活機能の維持を目的としたプログラムが用意されており、地域での活動参加も重視されています。自立した生活を維持するための支援が中心です。
地域密着型介護予防サービス
介護予防を地域の現場で行う取り組みとして、地域密着型介護予防サービスがあります。住み慣れた地域で活動を続けることを支えるために、小規模多機能型居宅介護や認知機能の低下がある方への支援が含まれ、地域とのつながりを保ちながら生活機能の維持を目指します。
介護予防支援
介護予防支援は、地域包括支援センターが中心となり、要支援の方に対してケアプランを作成し、必要なサービスにつなげる仕組みです。介護予防サービスを継続的に利用できるよう調整し、生活機能の改善を目指す点が特徴です。
介護保険サービスを利用するまでの流れ

介護保険サービスを利用するためには、いくつかの手続きを順に進める必要があります。初めて相談する方にとっては少し複雑にみえるかもしれませんが、流れを知っておくと落ち着いて手続きを進められます。ここでは、市区町村への相談から要介護認定、サービス開始までの一連の流れを順を追って解説します。
市区町村の窓口に相談する
介護が必要かもしれないと感じたときは、まず市区町村の担当窓口に相談します。近年は地域包括支援センターが中心的な相談窓口となっており、心身の状態や生活で困っていることを丁寧に聞き取り、必要な手続きや支援の方向性を整理します。相談段階では、どのサービスを使うべきかまだ決まっていなくても問題ありません。現在の困りごとを言葉にすることが、適切な支援につながる第一歩になります。
要介護認定を申請する
サービスを利用するには、要介護認定を受ける必要があります。申請先は市区町村で、ご本人またはご家族が窓口で手続きを行います。医療機関での受診歴や現在の生活状況を申請書にまとめ、必要書類とともに提出します。申請手続きは市区町村がサポートしてくれるため、負担なく進めやすい仕組みになっています。
認定調査を受ける
申請後、市区町村の担当者が自宅などを訪問し、認定調査を行います。身体の動き、日常生活の様子、認知機能の状態などが標準化された項目に沿って確認されます。また、主治医にも意見書を作成してもらうため、医療的な視点からみた心身状態も評価に反映されます。調査はあくまで普段の生活の様子を知るために行われるものであり、特別な準備は必要ありません。
要介護認定を受ける
調査結果と主治医意見書をもとに、専門職による審査会が介護の必要度を判定します。結果は要支援1・2、要介護1〜5、もしくは非該当のいずれかとして通知されます。この区分によって利用できるサービス内容や支給限度額が決まります。認定結果に納得できない場合は、申し立てにより再審査を受けることもできます。
介護保険サービスの利用を開始する
要介護・要支援と認定された方は、ケアマネジャーと相談しながらケアプランを作成し、サービス利用を始めます。ケアマネジャーは生活や健康状態を踏まえて、訪問介護や通所介護、福祉用具の活用など、その方に合った支援内容を整理します。サービス開始後も、状態の変化に応じて内容を調整しながら生活を支えていきます。自立度を保ち、住み慣れた地域で生活を続けられるよう継続的にサポートする体制が整えられています。
まとめ

介護保険制度は、介護が必要になった高齢の方やご家族を、地域全体で支えるために整えられた公的な仕組みです。市区町村が運営の中心となり、40歳以上の方が保険料を負担し合うことで成り立っています。自宅での生活を続けたい方のための居宅介護サービスや、専門的なケアを受けられる施設サービス、地域に密着した支援など、多様なサービスが利用できます。
サービスを受けるには市区町村への相談から始まり、要介護認定、ケアプラン作成を経て利用が開始されます。制度の流れを知っておくことで、生活の困りごとが生じたときに早い段階で必要な支援につながりやすくなります。介護保険制度は、住み慣れた地域で自分らしい生活を続けるための大切な基盤として、多くの方の暮らしを支えています。




