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高齢者が入浴しないとどうなる?注意点や入浴が難しいときの対処法を解説

 公開日:2025/12/13
高齢者が入浴しないとどうなる?注意点や入浴が難しいときの対処法を解説

高齢の方にとって入浴は、身体を清潔に保つだけでなく、温熱や水圧、浮力の作用により血行を促し、気分転換や睡眠の質の向上につながる大切な生活習慣です。一方で、加齢に伴う体力低下や関節の痛み、めまい、認知機能の変化などにより、入浴が負担になったり怖く感じたりする場合があります。ご本人の尊厳を守りながら清潔を保つために、入浴を続ける工夫や、入浴が難しいときの代替手段を知っておくことが役立ちます。本記事では、家族介護者の方がすぐに実践できるポイントを解説します。

高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

高齢者が入浴しないとどうなる?

高齢者が入浴しないとどうなる?

入浴しないと皮膚トラブルが起こりますか?

皮膚表面に汗や皮脂、垢などの汚れが蓄積しやすくなり、かゆみや赤みなどの皮膚炎を起こすきっかけになります。高齢の方は皮脂分泌が減って乾燥しやすい傾向があるため、汚れを落としてから保湿を行う流れを習慣にするとお肌のバリア機能を守りやすくなります。蒸しタオルでの拭き取りや短時間のシャワーでも清潔保持に役立つため、入浴が難しいときは代替手段を組み合わせます。

高齢者が長く入浴しないことで、どのような影響がありますか?

入浴をしない期間が続くと、生活リズムが乱れて睡眠の質が下がることがあります。湯に浸かる動作や浴室内の移動は軽い全身運動になりますが、入浴機会が減ると日常の活動量が減りやすく、関節のこわばりや体力低下を感じる方がいます。特に寒い季節に浴室と脱衣所の温度差が大きい家では、入浴中の体調変化が心配で入浴を控える方が増え、結果として清潔保持が不十分になることがあります。

入浴しないことは、健康面以外にも影響を与えますか?

清潔感は周囲との関係やご本人の自尊心に直結します。不潔な状態が続くと他者との交流を避けがちになり、気分が沈みやすくなる場合があります。清潔を保つと表情が明るくなり、外出や会話の機会が増えて気分転換にもつながります。着替えや整髪などの身だしなみも併せて行うとよりリフレッシュすることができます。

【高齢者の入浴】注意点

【高齢者の入浴】注意点

高齢者にとって適切な入浴頻度を教えてください

在宅生活では一律の回数基準はありません。体調、皮膚の乾燥の程度、季節、介護体制に合わせて決めます。可能なら毎日または1日おきの入浴が目安になりますが、お肌が乾燥しやすい方はお湯の温度や洗浄剤、入浴時間を調整し、頻度を減らす代わりに保湿を徹底します。介護施設では週2回以上の入浴または清拭を提供する運用が一般的です。入浴が難しい日は清拭で汚れや汗を落とし、においや不快感をためないようにしましょう。

入浴する際の注意点を教えてください

高齢の方の入浴では、特に注意すべきはヒートショックです。ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が大きく上下に変動し、心臓や血管に負担がかかることで起こる健康被害のことです。

失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こし、命に関わることもあります。高齢の方は、加齢により血圧を正常に保つ機能が低下していたり、動脈硬化が進んでいたりするため、特にヒートショックを起こしやすい状態にあります。

入浴前は血圧や体温を測定し、普段と変わりないか確認しましょう。体調がすぐれないときや、食後すぐ、飲酒後、睡眠薬などを服用した後の入浴は避けてください。脱衣所と浴室を暖めるのも必要です。入浴前に暖房器具を使ったり、浴槽の蓋を開けたり、シャワーで湯気を出したりして、脱衣所と浴室の温度差をなくしましょう。室温は22〜25度程度が目安です。

入浴中の注意点としては、お湯の温度は41度以下、湯船に浸かる時間は10分までを目安にしましょう。長湯や熱いお湯は身体への負担が大きくなります。心臓から遠い足先や手先から順に、十分にお湯をかけて身体を慣らしましょう。血圧の急激な変動を和らげることができます。ゆっくりとした動作も心がけてください。特に、湯船から急に立ち上がると、血圧が急低下して立ちくらみを起こしやすいため大変危険です。
入浴後の注意点としては再度、水分補給を忘れないようにしてください。入浴で失われた水分を補うためです。

お風呂場を安全に使うための工夫はありますか?

浴室の環境を整えることで、転倒などの事故のリスクを大幅に減らすことができます。住宅改修には介護保険の補助金制度を利用できる場合もあるため、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみるのもよいでしょう。
具体的な工夫としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 手すりの設置
  • 滑り止めマットの使用
  • シャワーチェア(入浴用いす)の活用
  • 浴槽台(バスボード)や浴槽内いすの利用
  • 浴室暖房乾燥機の設置
  • レバーハンドル式の水栓への交換
  • 脱衣所にも椅子

これらの福祉用具や改修は、単に安全性を高めるだけでなく、ご本人が自分でも入浴できるという自信につながり、入浴への心理的なハードルを下げる効果も期待できます。

【高齢者の入浴】入浴が難しいときの対処法

【高齢者の入浴】入浴が難しいときの対処法

入浴が難しい場合はどうすればよいですか?

入浴の代わりとなる方法として、清拭(せいしき)部分浴があります。清拭とはお湯で温めたタオルで全身を拭く方法です。身体への負担が少なく、ベッドに寝たままの状態でも行うことができます。

部分浴とは足だけをお湯につける足浴(そくよく)や、手だけを洗う手浴(しゅよく)陰部だけを洗い流す陰部洗浄など、身体の一部だけを洗う方法です。特に汚れやすい部分や、ご本人が気にしている部分をきれいにすることで、爽快感を得られます。

これらの方法は、全身浴と比べて体力的な負担が少ないため、日々のケアに柔軟に取り入れることができます。例えば、月・水・金は入浴、それ以外の日は清拭といったように、ご本人の体調やご家族の都合に合わせて計画を立てるとよいでしょう。

清拭(せいしき)はどのくらいの頻度で行うのがよいですか?

清拭の頻度は、その方の状態によって調整するのが基本です。おむつを使用している方の場合、排泄物で汚れやすい陰部は、おむつ交換のたびにきれいに拭き、1日に1回は洗浄することが理想的です。

全身の清拭については、毎日行う必要はありません。入浴が週に1〜2回できるのであれば、入浴しない日に汗をかきやすい部分(首、脇の下、足など)を拭く程度で十分な場合もあります。

髪や頭皮のケアのポイントを教えてください

高齢の方の頭皮は乾燥しやすい傾向があるため、洗髪は毎日でなくても構いません。目安として2〜3日に1回を起点に、皮脂量やかゆみ、フケの程度で調整します。お湯は40度未満のぬるめに設定し、指の腹で優しく洗います。洗い残しがあると痒みの原因になるため、根元までしっかりすすぎます。洗髪後は地肌を中心に素早く乾かし、乾燥が強い方は頭皮用の保湿剤を使います。前かがみ姿勢がつらい方は、シャワーチェアや洗髪台、ドライシャンプーを活用します。

自宅での入浴や清拭が難しい場合の対処法を教えてください

ご自宅での入浴介助は、ご家族にとって身体的にも精神的にも大きな負担となることがあります。また、住宅環境やご本人の身体状況によっては、入浴が難しい場合もあるでしょう。介護保険で利用できる専門サービスとしては下記のようなものがあります。

  • 訪問入浴介護
  • 通所介護(デイサービス)
  • 訪問介護(ホームヘルプサービス)

介護保険サービスの入浴支援を受けるためには、要介護(要支援)認定を受け、ケアマネジャーにケアプランを作成してもらう必要があります。どのサービスが適しているかは、ご本人の心身の状態やご家族の状況によって異なります。入浴介助が大変になってきたと感じたら、まずは担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみましょう。

編集部まとめ

編集部まとめ
 高齢の方にとって、入浴は身体の清潔を保つだけでなく、血行促進やリラクゼーション、良質な睡眠など、心身の健康を維持するために多くの利点をもたらす大切な生活習慣です。入浴をしない状態が続くと、皮膚トラブルや感染症のリスクが高まるほか、心身の機能低下や社会的な孤立につながる可能性もあります。

一方で、浴室は転倒やヒートショックなどの危険が伴う場所でもあります。入浴するためには、脱衣所や浴室を事前に暖める、お湯の温度や時間を適切に管理する、手すりなどの福祉用具を活用するといった対策が不可欠です。
もしご自宅での入浴が難しくなったときも、清拭や部分浴といった代替手段があり、さらに介護保険を利用すれば、訪問入浴やデイサービスなど、専門家によるさまざまなサポートを受けることができます。
入浴に関する悩みは、ご本人やご家族だけで抱え込まず、ぜひケアマネジャーなどの専門家に相談してください。

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