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寝たきりによる筋力低下がもたらすリスクと予防法、リハビリ法を解説

 公開日:2025/12/13
寝たきりによる筋力低下がもたらすリスクと予防法、リハビリ法を解説

長期間寝たきりが続くと、身体を支える筋肉が使われないまま萎縮し、動作が難しくなる廃用症候群を起こすことがあります。筋力は数日から数週間の安静でも低下するとされ、特に下肢の筋肉が減ると寝返りや起き上がり、立ち上がりが困難になり、介助が必要な時間が増えていきます。さらに筋力低下は血流や呼吸機能を弱め、褥瘡(床ずれ)や誤嚥性肺炎などの合併症をまねくこともあります。また、動かない生活が続くと食欲や意欲も落ち、心身の悪循環におちいることがあります。筋力を保つことは、寝たきりの方が生活の質(QOL)を維持し、健康を保つうえで欠かせません。

本記事では、寝たきりによる筋力低下の仕組みやリスク、日常生活のなかでできる予防・回復の方法を解説します。

林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

寝たきりになると筋力が低下する理由

寝たきりになると筋力が低下する理由

寝たきりになると筋力が落ちるのは、身体を動かさないことで筋肉が使われず、萎縮してしまうためです。筋肉は普段の生活のなかで伸び縮みをくり返すことで保たれていますが、安静状態が続くとその刺激がなくなり、筋肉を構成するたんぱく質が分解されていきます。絶対安静で1週間過ごすと筋力が約10〜15%低下し、高齢の方では2週間で下肢の筋肉が約2割減少すると報告されています。つまり、短期間の寝たきりでも筋肉は急速に衰えるのです。

特に下肢や体幹の筋肉は、立位や歩行、姿勢保持に欠かせない部位です。これらが使われない状態が続くと、身体を支える力が弱まり、寝返りや起き上がりといった基本的な動作さえも難しくなります。動かさないことで関節や筋肉が硬くなり、さらに動きづらくなるため、安静が長引くほど活動量は減り、筋肉がいっそう弱っていくという悪循環におちいります。

参照:
『廃用症候群』(健康長寿ネット)
『健康長寿診療ハンドブック』(日本老年医学会)

寝たきりによる筋力低下の影響とリスク

寝たきりによる筋力低下の影響とリスク

寝たきりによる筋力低下は、動作が難しくなるだけでなく、全身の機能にも大きな影響を及ぼします。筋肉が弱ることで血流や代謝が低下し、免疫力の低下や関節のこわばりなど、さまざまな不調を引き起こします。さらに、身体を動かさない状態が続くと、合併症や介護負担の増加にもつながります。ここでは、筋力低下がもたらす影響とリスクについて解説します。

寝返りや起き上がりなどの動作が難しくなる

寝たきりの状態が続くと、身体を支えるための筋肉が使われなくなり、次第に力が入らなくなります。寝返りや起き上がりには、腹筋や背筋、太ももなどの大きな筋肉が協調して働くことが必要です。これらの筋肉が衰えると、姿勢を変えようとしても身体を起こす反動がつけられず、上体を支えることさえ難しくなります。その結果、ベッド上で身体の向きを変えるだけでも介助が必要になることがあります。

さらに、動かない時間が増えると関節が硬くなり、筋肉の柔軟性も失われ、わずかな動作にも痛みや疲れを感じやすくなります。こうして動く機会が減ることで、筋力の低下がさらに進行していきます。

褥瘡(床ずれ)や肺炎などの合併症リスクがある

長時間同じ姿勢で過ごすと、身体の一部に圧力が集中し、血液の流れが滞ります。血流が悪くなると皮膚や筋肉に酸素や栄養が行き渡らず、細胞が損傷して褥瘡(床ずれ)が発生します。皮膚が赤くなる程度の初期段階でも、放置すると壊死が進み、感染を伴う深い傷になることがあります。

また、寝たきりで動かない状態が続くと呼吸が浅くなり、痰を排出する力が弱まります。さらに、筋力低下によって咳や飲み込みの力が衰え、唾液や食べ物が気管に入りやすくなり、誤嚥性肺炎を起こす危険が高まります。こうした合併症は、筋力や体力の低下によって身体を動かす力が失われることが根本的な原因です。

食欲・意欲の低下につながる可能性がある

筋力が落ちると、自分の力で身体を動かすことが難しくなり、自信や達成感を得にくくなります。その結果、気分が沈みやすくなり、何をするにも意欲が湧かなくなることがあります。活動量が減るとエネルギーの消費が少なくなり、空腹を感じにくくなって食欲も低下します。食事量が減ると栄養が不足し、筋肉の回復や体力の維持が難しくなります。

こうした心身の変化が重なることで、動かない時間が増え、さらに意欲が下がるという悪循環が続きやすくなります。特に高齢の方では、この状態がフレイル(虚弱)へと進みやすく、心身の機能がいっそう低下する原因となります。

介護負担が増加しやすくなる

筋力の低下で自力での動作が難しくなると、介助が必要な場面が増えていきます。身体を支えたり、移動を補助したりするたびに大きな力が必要となり、介護者の腰や腕に負担がかかります。特に入浴や排泄など、全身を支える場面では、介護者が無理な体勢を取ることも多く、腰痛や筋肉の痛みを引き起こすことがあります。

介護の時間や頻度が増えることで、肉体的な疲労に加えて精神的なストレスも蓄積しやすくなります。本人の筋力低下は、生活の質の低下だけでなく、支える家族の健康や介護継続の意欲にも影響を与える重要な要因といえます。

寝たきりの方の筋力低下を予防するポイント

寝たきりの方の筋力低下を予防するポイント

寝たきりによる筋力低下を防ぐには、日常生活のなかで少しでも身体を動かすことが大切です。長く同じ姿勢で過ごすと筋肉が使われず、弱りやすくなります。完全に安静を続けるよりも、姿勢を変えたり軽い動作を取り入れたりすることで、筋肉や関節の働きを保ちやすくなります。

2時間ごとの体位変換は、褥瘡(床ずれ)の予防に加えて血流を促し、筋肉のこわばりを防ぐのに効果的です。寝たままでも、腕や足の曲げ伸ばし、足首回しなどの運動を行うことで筋肉の動きを維持できます。上体を少し起こして座る姿勢を取ると、体幹や背筋が自然に使われ、姿勢保持の力を保ちやすくなります。

また、食事や会話などの日常動作も筋力維持に役立ちます。自分の手で食器を持つ、姿勢を整えて食べるといった動作は、生活のなかでのリハビリとして有効です。ベッド周りを整え、必要な物を手の届く範囲に置くなど、本人が自分で動ける環境づくりもポイントです。介護者は、本人の体調や疲労を確認しながら、できる範囲で動作を続けられるよう支援していきましょう。

すでに低下した筋力を取り戻すための自宅でできるリハビリ法

すでに低下した筋力を取り戻すための自宅でできるリハビリ法

寝たきりの方で筋力が低下してしまっても、適切なリハビリを続けることで、少しずつ回復を目指すことができます。大切なのは、無理をせず、今できる範囲の動きを継続することです。筋肉や関節は使わなければ衰えますが、刺激を与え続けることで再び活性化します。ここでは、自宅で実践できるリハビリの基本と、安全性を確保しながら始めるための準備について解説します。

リハビリを実践する前のチェックポイント

リハビリを始める前には、まず体調や身体の状態を確認します。発熱や強い痛み、息苦しさがあるときは無理に運動を行わず、医師や理学療法士へ相談します。長期間寝たきりだった方は、血圧や心拍数の変動が大きいことがあるため、いきなり起き上がらず、ベッドの角度を少しずつ上げて身体を慣らすようにします。特に、急な体位変換は血圧低下(起立性低血圧)やめまいを起こすことがあるため、段階的に姿勢を変えるようにしましょう。呼吸の乱れや顔色の変化にも注意し、異常があればすぐに中止します。

環境面の整備も重要です。リハビリを行うスペースは周囲に障害物がないように整理し、転倒の危険がないかを確認します。ベッド柵や手すりを活用して安定した動作ができる環境を整えましょう。衣類は動きやすく、汗を吸いやすい素材を選び、足元は滑りにくい靴下や靴を使用します。

筋力を取り戻すためのリハビリ法

筋力を回復させるためには、無理のない範囲で小さな動きを毎日くり返すことが基本です。寝たままでも行える運動として、足首を上下に動かす足首運動、膝を曲げ伸ばしする膝伸展運動があります。これらの動きは下肢の血流を促進し、筋肉のこわばりを防ぎます。腕を軽く持ち上げたり、肩を回したりする上肢の運動も取り入れると、全身の筋肉をまんべんなく刺激できます。少しずつ慣れてきたら、ベッドの端に座って上体を起こす練習や、タオルを使って腕を引く・押すといった軽い抵抗運動に進むとよいでしょう。

また、呼吸筋を鍛える深呼吸発声練習も効果的です。これらは肺の働きを保ち、痰の排出を助けることで誤嚥性肺炎の予防にも役立ちます。リハビリは継続することが大切なため、本人が楽しく取り組める工夫も必要です。音楽を聴きながら行う、家族と一緒に回数を数えるなど、前向きな気持ちで続けられるような環境づくりを行いましょう。

専門家による寝たきりの方へのリハビリとその効果

専門家による寝たきりの方へのリハビリとその効果

寝たきりの方の筋力回復には、自宅でできる運動に加え、専門家によるリハビリを取り入れることが効果的です。特に、医師や理学療法士などによる専門的な支援は、筋力を効率的に向上させ、関節の動きを保つうえで重要な役割を担います。介護保険制度を利用すれば、自宅にいながらリハビリを受けることも可能であり、本人の状態に合わせた計画的な訓練を続けることができます。ここでは、介護保険サービスを通じたリハビリの内容と、継続することで得られる効果について解説します。

介護保険サービスのリハビリとは

介護保険を利用したリハビリには、訪問リハビリテーション通所リハビリテーション(デイケア)があります。訪問リハビリでは、理学療法士や作業療法士が自宅を訪問し、寝たきりの方でも行える運動や日常生活動作の練習を行います。ベッド上での体位変換や座位保持の練習、関節の可動域を広げるためのストレッチなどが中心で、家庭環境に合わせたアドバイスが受けられる点が特徴です。通所リハビリでは、施設に通ってほかの利用者と一緒に運動を行い、社会的な交流を保つ効果も期待できます。

これらのサービスは、医師の指示書に基づいて実施されるため、心臓病や骨粗鬆症などの持病がある方でも、無理のない範囲でリハビリを継続できます。また、介護保険の認定を受けていれば、1~3割の自己負担で利用できるため、経済的な負担を抑えながら継続できます。

介護保険サービスのリハビリを受けることで得られる効果

専門家によるリハビリを継続すると、寝たきりの方でも少しずつ筋力や関節の柔軟性が改善し、身体を動かしやすくなります。理学療法士や作業療法士が一人ひとりの状態に合わせて運動量や方法を調整するため、無理のない範囲で機能回復を目指すことができます。寝返りができるようになる、上体を起こせるようになるといった小さな変化でも、本人にとっては大きな達成感となり、自信や意欲の回復につながります。

さらに、リハビリで身体を動かすことで血流が促され、食欲の改善や睡眠の質の向上など、全身の調子が整いやすくなります。身体を動かすことは、筋肉や関節の働きを保つだけでなく、脳への刺激にもなり、気分の安定や認知機能の維持にもよい影響を与えます。定期的な専門的リハビリは、寝たきりの方の生活を支えるうえで、身体面・精神面の両方に効果をもたらす重要な支援といえます。

まとめ

まとめ

寝たきりの状態が続くと、筋肉が使われないまま衰え、動作能力だけでなく全身の機能にも影響がおよびます。筋力の低下は、寝返りや起き上がりなどの基本動作を難しくするだけでなく、褥瘡(床ずれ)や誤嚥性肺炎といった合併症の原因にもなります。さらに、活動量の減少は意欲や食欲の低下を招き、生活の質を下げる悪循環につながります。そのため、寝たきりの方の筋力を守ることは、本人の身体的・心理的な健康を保つうえで欠かせません。

予防の基本は動かさない時間を減らすことです。寝たままの関節運動や体位変換、上体を起こす姿勢など、小さな動きを日常のなかで積み重ねることが筋力維持につながります。筋力が低下している場合でも、理学療法士による訪問リハビリや通所リハビリを取り入れることで、安全性に配慮しながら少しずつ回復を目指せます。介護者も、正しい介助の方法を学ぶことで身体への負担を軽減でき、無理なくケアを続けられます。

この記事の監修医師