介護リハビリの内容や効果、継続のコツとは?必要な手続きも解説します

高齢の方の自立した生活を支えるために欠かせないのが介護リハビリです。医療保険で行われる病院でのリハビリ(医療リハビリ)とは異なり、介護リハビリは自宅や介護施設で長期的に取り組める点が特徴です。本記事では、介護リハビリの概要や種類から介護保険でリハビリを利用するための手続きまでを幅広く解説します。

監修医師:
小田村 悠希(医師)
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
目次 -INDEX-
介護リハビリの概要

介護リハビリは、要介護認定を受けた高齢の方などを対象に介護保険サービスとして提供されるリハビリテーションです。まず介護リハビリで行われることや医療リハビリとの違いなどを確認しておきましょう。
介護リハビリとは
介護リハビリとは、日常生活の自立や心身機能の維持回復を目指して行われるリハビリテーションです。医療機関での治療後、症状が安定した高齢の方が住み慣れた地域や自宅で暮らし続けるために、身体機能や生活機能を維持・向上させることを目指します。
介護リハビリは基本的に利用期間の制限がなく、必要な限り長期にわたり継続できる点も特徴です。医療保険によるリハビリ(医療リハビリ)が発症後一定期間内の集中的な機能回復を目的とするのに対し、介護リハビリは介護が必要な状態でも可能な限り能力を維持し、その人らしい生活を送ることに焦点を当てています。
介護リハビリと医療リハビリの違い
介護保険下のリハビリ(介護リハビリ)と医療保険下のリハビリ(医療リハビリ)とには、目的や提供体制にいくつかの違いがあります。主な違いは以下のとおりです。
| 項目 | 介護リハビリ | 医療リハビリ |
|---|---|---|
| 適用される保険制度 | 介護保険が適用 | 健康保険が適用 |
| 提供期間 | 日数制限がなく長期利用が可能 | 疾患ごとに提供日数の制限あり |
| リハビリの目的 | 残存機能の維持・向上と日常生活動作(ADL)の自立が目的 | 病気やケガの治療と並行し、身体機能の回復・寝たきり予防・社会復帰が目的 |
以上のように、医療リハビリは一時的で集中的な機能回復訓練、介護リハビリは生活維持のための長期的サポートという違いがあります。それぞれの目的と役割を理解し、段階に応じて適切なリハビリを受けることが重要です。
介護リハビリと機能訓練の違い
介護の現場では、リハビリのほかに機能訓練という言葉もよく使われます。特にデイサービス(通所介護)や特養など介護施設では、提供されるリハビリに相当するプログラムを機能訓練と呼ぶことがあります。両者は目的こそ身体機能の維持・改善という点で共通しますが、以下のような違いがあります。
| 項目 | 介護リハビリ | 機能訓練 |
|---|---|---|
| 実施の前提 | ・医師の指示に基づく ・PT、OT、STなどリハビリ専門職が担当 |
・介護保険法で定められた機能訓練指導員が実施 ・医師の直接指示がなくても提供可能 ・機能訓練指導員には、看護師・准看護師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師・PT・OT・STなどが該当 |
| 目的 | 病気やけがなどにより低下した身体機能や生活動作を専門的に回復・改善すること | 加齢や介護によって低下しがちな体力・バランス・嚥下機能などを維持・改善すること |
| 実施場所 | ・病院 ・介護老人保健施設 ・訪問リハビリとして自宅 |
・主にデイサービス(通所介護)などの介護施設 |
このように、介護保険下では提供者の資格要件や指示系統によってリハビリと機能訓練が使い分けられている点を押さえておきましょう。
介護リハビリの種類
介護リハビリには、利用するサービス形態によっていくつかの種類があります。代表的なものは以下のとおりです。
- 通所リハビリ(デイケア)
- 訪問リハビリ
- 入所リハビリ
- リハビリ特化型デイサービス
こうした種類ごとに利用できるサービス内容や頻度が異なります。ご本人の体調や生活環境、希望に応じて、適切なリハビリサービスを組み合わせて利用するとよいでしょう。
利用費用と自己負担の目安
介護リハビリの費用は介護保険から給付され、利用者の自己負担は基本的に1割(一定以上所得者は2~3割)です。具体的な自己負担額は利用するサービスや時間によって異なりますが、おおよその目安は次のとおりです。
- 通所リハビリ(デイケア):1回あたり500~1,500円程度
- 訪問リハビリ:1回あたり150~1200円程度
- 入所リハビリ:1日あたり1,000~2,500円程度
なお、介護保険の認定区分ごとに1ヶ月あたりのサービス利用限度額が定められており、リハビリも含めた総利用額が上限を超えると超過分は全額自己負担です。ただし通常の範囲で週数回リハビリを受ける程度であれば、限度額内に収まることが多いでしょう。
一方で、介護保険が適用されないリハビリ(自費でトレーニング施設を利用など)は全額自己負担です。その場合、1回1時間で5,000円以上の費用がかかることもあり、経済的負担は大きくなります。介護保険を利用できる場合は上手に活用し、費用を抑えながら必要なリハビリを継続するとよいでしょう。
介護リハビリで行われる主な内容

介護リハビリでは、利用者の心身の状態に合わせてさまざまなアプローチが取られます。ここでは各療法で主に行われる内容を解説します。
身体機能の維持・改善を目的とする理学療法
理学療法(PT)では、身体の基本的な運動機能の回復および維持を図ります。具体的には起き上がる、座る・立つ・歩くといった日常生活で欠かせない動作の練習が中心です。理学療法士は利用者の筋力や関節可動域、バランス能力などを評価し、以下のようなアプローチを行います。
- 運動療法:筋力トレーニングやストレッチ、関節運動など
- 物理療法:電気刺激や温熱療法など
- バランス訓練:バランスボールや平行棒など
- 歩行訓練:杖や歩行器など
理学療法の効果としては、筋力や柔軟性の向上、移動能力の改善、痛みの緩和などが期待できます。身体機能が改善すると生活の自信につながり、活動意欲も高まるでしょう。
日常生活動作の向上を目指す作業療法
作業療法(OT)では、日常生活で行うさまざまな作業を通じて心身機能の維持および改善を図ります。理学療法が基本動作の訓練であるのに対し、作業療法はより応用的な動作を扱います。
- 着替え、食事、排泄、入浴といった日常生活動作(ADL)の訓練
- 調理や洗濯、掃除といった家事動作の練習
- 趣味活動を通じたリハビリ
- 福祉用具の導入・環境調整
作業療法の目標は、その人らしい生活を取り戻すことにあります。日常生活動作の改善により、トイレや食事など基本的なことが自分でできるようになると、生活に対する満足感や自信が高まります。また趣味活動を通じて生きがいを感じられるようになることで、心の健康維持にもつながります。
嚥下・会話サポートのための言語聴覚療法
言語聴覚療法(ST)では、話す・聞く・食べるといった機能に障害を持つ方に対するリハビリを行います。対象となるのは、例えば脳卒中の後遺症で言語がうまく出てこない方、難聴により会話に支障がある方、加齢や病気で飲み込み機能が低下した方などです。言語聴覚士による主なリハビリ内容は以下のとおりです。
- 発語・発声練習
- 注意力や日時や季節の見当識を確認する訓練
- 嚥下訓練
言語聴覚療法の成果として、コミュニケーション能力の向上や誤嚥防止が期待できます。会話や食事は生活の質に直結する部分ですので、言語聴覚士のリハビリによって、会話ができる喜びや安全に食べられる安心感を取り戻すことは、利用者の精神面にも大きなプラスです。
認知機能リハビリ
高齢の方では認知症や軽度認知障害(MCI)を抱える方も多く、認知機能の維持・向上を目的としたリハビリも重視されています。認知機能リハビリでは、脳を積極的に使う活動や日常生活のなかで頭を働かせる訓練を取り入れ、記憶力や判断力の低下を緩やかにすることを目指します。
具体的な方法は下記のとおりです。
- 会話や計算、パズル、手芸、絵画、音楽鑑賞など、五感を刺激する活動
- 昔の写真や愛用品などをきっかけに過去の思い出を語り合う手法(回想法)
- 日付や季節、現在いる場所、自分の氏名などを確認するリアリティ・オリエンテーション
- ゲーム、風船バレー、簡単な工作などのレクリエーション活動
認知機能リハビリは薬を使わない非薬物療法として注目されており、続けることで認知症の進行を遅らせたり意欲の維持に寄与したりすると期待されています。大切なのは無理強いせず本人のペースに合わせることで、楽しみながら取り組める環境を整えることです。心身の刺激と安定した日常生活の両立を図り、笑顔で過ごせる時間を増やすことが認知リハビリの目標といえるでしょう。
介護リハビリの効果と継続のコツ

リハビリは継続してこそ効果が表れます。介護リハビリを続けることで現れる心身のプラスの変化や、途中で挫折しないためのモチベーション維持の工夫、そしてリハビリ専門職との上手な付き合い方を解説します。
リハビリで期待できる心身の変化
継続的にリハビリを行うことで、利用者の身体と心にはさまざまな変化が期待できます。
- 身体機能の向上
- 活動範囲の拡大と自立度の改善
- 心の変化・精神面の安定
- 家族の安心・介護負担の軽減
以上のように、介護リハビリを続けることは心身両面の健康維持とQOL向上に寄与します。効果がすぐに現れにくい場合もありますが、小さな進歩を積み重ねることで半年後、一年後に大きな違いが生まれることもあります。一度衰えた筋力や機能は何もしなければ加速度的に低下してしまうため、リハビリという適度な刺激を与え続けることが大切です。
モチベーションを保つ工夫
リハビリを効果的に続けるには、モチベーションの維持が欠かせません。高齢の方は若年者に比べて回復に時間がかかるため、途中で意欲が萎えてしまうケースもあります。以下にモチベーションを保つための工夫を解説します。
- 具体的な目標を設定する
- できたことに目を向け、成功体験を積み重ねる
- 仲間と一緒に取り組む
- 異なるメニューを取り入れ飽きさせない工夫をする
以上のような工夫を凝らしつつ、楽しく続けることがリハビリ成功には重要です。ご家族や介護者も一緒に目標を考えたり、できたことを認めてあげたりして、精神面のサポートをしていきましょう。モチベーションが高い状態が維持できれば、リハビリの効果もより高まりやすくなります。
理学療法士や作業療法士との連携
介護リハビリを進めるうえで、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)など専門職との良好な連携はとても重要です。彼らは専門知識を持った心強いパートナーでもあります。上手に協力し合ってリハビリ効果を引き出しましょう。
- 現状や希望をしっかり伝える
- 生活上の目標を共有する
- 自主トレ方法を教わる
- 介護職員や看護師ら他職種とも連携を図る
信頼関係を築き、チーム一丸となってリハビリに取り組むことで、生活機能の維持向上という目標に近づきやすくなります。困ったときは専門職に遠慮なく頼りつつ、日々の小さな積み重ねをみんなで応援していきましょう。
介護保険でリハビリを受けるために必要な手続き

介護リハビリを利用するには、介護保険サービスの一つとして位置づける必要があります。具体的には、介護保険の申請からケアプラン作成までの流れのなかでリハビリサービスを組み込んでいくことになります。ここでは、その手続きの大まかなステップを解説します。
医師による診断を受ける
リハビリを希望する場合は、まず主治医に現在の健康状態を診てもらい、リハビリの必要性について相談することが重要です。介護保険で訪問リハビリや通所リハビリを利用するには、医師が発行するリハビリテーション指示書が必要で、内容は定期的に更新されます。また、要介護認定時には主治医の意見書が求められるため、日常生活での困りごとやリハビリの必要性をしっかり伝えておくことが、適切な認定とケアプラン作成につながります。
ケアマネジャーに相談する
介護保険でリハビリなどのサービスを利用するには、ケアマネジャーが作成するケアプラン(居宅サービス計画)が必要です。要介護認定後は、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所を通じてケアマネジャーを紹介してもらえます。面談では「自宅でリハビリしたい」「週2回通所したい」など希望を具体的に伝えましょう。申請前でも相談可能で、申請手続きの代行や調査対応の助言も受けられるため、早めの相談がスムーズなサービス利用につながります。
介護保険の申請とケアプランの作成
介護リハビリを公的に利用するには、まず介護保険の要介護(要支援)認定を受けることが必要です。市区町村の窓口で申請し、認定調査と主治医意見書をもとに要介護度が決定されます。認定後はケアマネジャーがご本人や家族の希望を聞き取りながらケアプランを作成し、訪問リハビリや通所リハビリの回数や内容を計画に盛り込みます。主治医の指示書をもとに適切な頻度を設定し、必要に応じて送迎や福祉用具の利用も検討されます。契約・調整後にサービスが開始され、ケアマネジャーが継続的にプランを見直して支援します。
日々の暮らしのなかで実践できるリハビリ

介護リハビリの効果を高めるには、デイサービスや訪問リハの時間以外でも日常生活のなかで身体と心を動かし続けることが大切です。特別な器具や広いスペースがなくても、自宅でできるリハビリ的な取り組みは数多くあります。
- 生活動作そのものを積極的にリハビリとして取り入れる
- 自宅でできる簡単運動を取り入れる
- ラジオ体操・テレビ体操を行う
- 趣味活動を行う
大切なのは、少しでも毎日身体を動かす、頭を働かせる習慣を途切れさせないことです。日常生活そのものがリハビリという意識で積極的に活動しましょう。
まとめ

介護リハビリは、高齢の方ができる限り自立して生活を続けるための大切な取り組みです。医療リハビリが一定期間の機能回復を目的とするのに対し、介護リハビリは生活期における心身機能の維持・向上とQOL(生活の質)の確保を目指して長期的に行われます。理学療法・作業療法・言語療法などの専門的支援に加え、施設や在宅での機能訓練など内容も幅広いのが特徴です。継続することで筋力やバランスが改善し、転倒防止や介護負担の軽減、精神的な安定にもつながります。介護リハビリはその人らしい生活を支えるための土台であり、焦らず前向きに続けることが大切です。



