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末期がんの自宅介護|方法や活用できる支援の内容を解説

 公開日:2025/10/28
末期がんの自宅介護|方法や活用できる支援の内容を解説
がんが進行し、治療で病気そのものを抑えることが難しい段階になると、日々の生活をどう過ごすかが大きな課題です。病院での治療を続ける方もいれば、住み慣れた自宅で家族と過ごすことを望む方も少なくありません。末期がんの患者さんを自宅で介護することは、身体の変化や症状に対応する必要があるため、家族だけで行うのは大きな負担となる場合があります。

一方で、医療や介護の支援を上手に活用することで、自宅でも落ち着いた時間を持つことができます。本記事では、末期がんの基礎知識や自宅での介護を行う際の準備や支援体制、1日の流れや介護の工夫、さらに在宅での介護が難しくなった場合の選択肢を解説します。
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

末期がんとは

末期がんとは 末期がんとは、がんが進行して根治を目指す治療が難しい段階を指します。医師から末期と伝えられると、本人や家族は強い不安や戸惑いを抱えることが少なくありません。この段階では、がんそのものを治すことよりも、症状を和らげて生活の質を保つことが中心です。ここでは、末期がんの身体で起こる変化、予後の考え方、そして終末期との違いを解説します。

末期がんの方の身体で起きていること

末期がんでは、腫瘍が大きくなったり別の臓器に転移したりすることで、身体に多くの変化が起こります。代表的なのは食欲の低下体重減少で、これはがんが体内で多くのエネルギーを消費し、十分な栄養が吸収できなくなるために生じます。また腫瘍が胃や腸を圧迫すると少量でも満腹感やむかつきが出やすくなり、食事量が減少します。だるさもよくみられる症状で、炎症の持続や貧血によってエネルギーが不足し、安静にしていても疲労感が残ります。さらに肺への転移や胸水の増加、体力低下により呼吸筋が弱ることで、息苦しさを感じやすくなります。

そのほか、腸の動きが悪くなったり腫瘍が消化管をふさいだりすることで吐き気嘔吐が出ることもあります。腫瘍が神経や骨を圧迫すれば痛みが生じ、身体のさまざまな部位に不快な症状が広がります。これらの症状は単に病気が進んだから出てくるのではなく、腫瘍が臓器を圧迫したり、身体の栄養やエネルギーの使われ方を変えてしまったりすることが背景にあります。

末期がんの予後

予後とは、これから病気がどのように進み、どのくらいの時間を過ごせるかという見通しを指します。末期がんの予後は一人ひとり異なり、がんの種類や進行の速さ、転移の有無、さらに体力や合併症の状態によって大きく変わります。

医師から余命は数ヶ月程度といった説明を受けることがありますが、これはあくまで過去の患者さんの経過を参考にした目安にすぎません。実際にはがんの広がり方や身体の抵抗力によって進み方が異なるため、予測より長く生活できる場合もあれば、想定より早く変化が訪れる場合もあります。つまり、末期がんの予後は一律には定められないが、おおよその見通しを示すものと理解することが大切です。

末期と終末期の違い

末期と終末期は似ている言葉ですが、指している範囲が異なります。末期とは、根本的に病気を治すことが難しくなった段階全体を意味します。一方で終末期は、その末期のなかでも特に死が近づいたごく短い時期を指し、おおよそ余命が数週間から1ヶ月程度と考えられる段階です。

終末期には、身体の働きがゆるやかに弱っていくため、飲食の量が極端に減ったり、会話が少なくなったり、眠っている時間が長くなるといった変化が目立ってきます。これらは心臓や消化器、呼吸などの働きが少しずつ低下していく自然な流れの一部であり、死に向かう身体の変化です。

参照:『終末期医療に関するガイドライン 』(厚生労働省)

末期がんは自宅で介護できる?

末期がんは自宅で介護できる? 末期がんの方が自宅で療養できるかどうかは、症状の進み方や重さだけでなく、家族の介護力や地域の支援体制にも左右されます。本人が住み慣れた家で過ごしたいと望んでも、家族の負担が大きければ実現が難しいこともあります。

そのため、在宅介護を考えるときは、医療面での安定と生活を支える仕組みがそろっているかを一緒に確認することが求められます。ここでは、自宅で介護できる場合と難しい場合の違いや、実際にどのくらいの方が自宅で過ごしているのかを解説します。

自宅で介護できるケースとできないケース

自宅で介護が可能なケースとしては、症状が薬である程度安定していることが挙げられます。痛みや吐き気、呼吸困難などが落ち着いていれば、訪問診療や訪問看護を利用しながら家庭での生活を続けられます。また、家族が複数いて介護の役割を分け合える場合や、地域の訪問介護やデイサービスを利用して支援を受けられる場合は、自宅での介護が続けやすいです。

一方で、自宅での介護が難しいケースもあります。例えば、症状が急速に進行し、呼吸苦や強いせん妄が頻繁に起こる場合、家族だけで対応するのは困難です。また、介護する家族が少なく、仕事や子育てと両立しなければならない状況では、在宅介護を続けるのは難しくなります。さらに、患者さん自身が病院で医療者にそばにいてほしいと希望する場合は、在宅よりも入院を選ぶほうが本人の希望をより反映した環境といえます。

自宅で過ごす末期がん患者さんの割合

がんで亡くなった方の死亡場所は、ここ数年で少しずつ変化しています。2019年には自宅で最期を迎えた方は12.3%でしたが、2023年には20.3%にまで増えています。病院で亡くなる方は2023年でも70.1%と多くみられますが、以前より割合は下がってきています。

この変化は、在宅医療や訪問看護を受けられる環境が整い、介護保険サービスを活用しやすくなってきたことを反映しています。地域や家庭で支える仕組みが広がり、自宅で過ごしたいという希望が少しずつ実現しやすくなってきています。

参照:『人口動態調査 / 人口動態統計 確定数 死亡』(厚生労働省)

末期がん患者さんを自宅で介護するための準備

末期がん患者さんを自宅で介護するための準備 在宅介護を始めるにあたっては、医療や介護の支援を受けられる体制を整えること、必要な物品を準備すること、家族で協力しあえる体制を作ることが欠かせません。準備を進めておくことで、急な症状の変化にも落ち着いて対応でき、自宅での生活をより安定した形で続けられます。ここでは具体的な準備の流れを解説します。

医療、介護サービスを受けられる体制にする

まずは在宅医療を支える医師訪問看護師と連携します。訪問診療を行う医師は、定期的な診察や薬の調整を担当し、症状が変化した際にも対応できます。訪問看護では点滴、吸引、褥瘡ケアなどの処置が可能で、24時間対応のサービスを選べば夜間や休日の急変時も連絡がとれます。さらに介護保険制度を利用すれば、ケアマネジャーの調整により訪問介護、福祉用具のレンタル、デイサービスなどを組み合わせ、生活を支えることができます。

在宅医療、在宅介護のために必要な物品を用意する

自宅で介護を行う際には、ベッドや車椅子、ポータブルトイレ、吸引器、体位変換のためのクッションなど、さまざまな物品が必要です。これらは介護保険制度を利用してレンタルできるものが多く、専門事業者が設置や調整を行ってくれるため、家族だけでは準備が難しい機器も導入可能です。物品が整うことで介護の負担が減り、患者さんにとっても快適に過ごせる環境が整います。また、清拭用タオルや口腔ケアの道具、栄養補助食品なども日常的に使うため、切らさないように準備しておくことが望ましいです。

家族や親戚などによる介護体制を整える

在宅介護では、家族がどのように役割を分担するかが欠かせません。1人だけで抱え込むと、介護疲れや体調不良につながりやすいです。食事の準備、清拭や排泄介助、通院の付き添いなどをあらかじめ分担しておくと、負担を減らすことができます。親戚や近所の方が協力できる場合は、短時間でもサポートをお願いすることで介護を続けやすくなります。

また、介護者が休養を取れるようショートステイや訪問介護の利用を検討しましょう。家族が無理なく介護を続けられる環境を整えることが、患者さんにとって穏やかな生活の実現につながっていきます。

【末期がんの介護】1日の流れとルーティン

【末期がんの介護】1日の流れとルーティン 自宅での介護では、毎日の生活にリズムをつくることが患者さんの落ち着きにつながります。決まった流れや繰り返しのケアを行うことで、身体の負担を和らげ、家族にとっても介護を続けやすい環境が整います。ここでは、典型的な1日の過ごし方と、日々繰り返すルーティン作業を解説します。

1日の流れ

朝は体温や脈拍、呼吸の状態を確認し、顔や手を清拭して爽快感を保ちます。食欲がある場合は、消化のよい食事を少量ずつ用意します。食べられない場合でもお口のケアを行うことで、乾燥や感染を防げます。午前中はベッド上で体位を変えたり、会話をしたりする時間を大切にします。日中は訪問看護師の訪問が入ることがあり、症状や薬の確認を行います。午後は安静に過ごす時間を中心にし、短い会話や音楽を聴くなどで心を落ち着けることができます。夜は痛みや呼吸状態を観察し、できるだけ快適に眠れるように環境を整えます。

ルーティン作業

在宅介護では、毎日欠かせない作業がいくつかあります。代表的なものはお口のケア、排泄の介助、体位変換、皮膚の観察です。お口のケアは誤嚥性肺炎を防ぐうえで重要であり、食事を取れない方でも続けることが望ましいとされています。排泄介助は、患者さんの尊厳を守る意味でも丁寧に行うことが大切です。体位変換は2〜3時間ごとを目安に行うと褥瘡の予防につながります。皮膚の観察も欠かせず、赤みやただれを見つけたら早めに医療者に相談します。また、介護日誌をつけて食事量や睡眠時間、症状の変化を記録しておくと、訪問診療や看護の際に役立ちます。

末期がん患者さんの自宅介護が難しくなったときの対処法

末期がん患者さんの自宅介護が難しくなったときの対処法 在宅介護を続けていても、症状の進行や介護者の負担により、自宅での対応が難しくなる場面があります。そのようなときに備えて、どのような選択肢があるかを知っておくことは、本人と家族にとって安心につながります。ここでは、施設への入所や入院といった主な対応方法を解説します。

介護医療院などの施設への入所を検討する

介護医療院は、医療と介護の両方を提供する施設です。医師や看護師が常駐しているため、在宅では対応しにくい医療処置や急な体調変化にも対応できます。また、介護職員による日常生活の支援も受けられるため、家族の負担を軽くできます。短期間だけ利用することも可能で、介護者が休養を取る目的で利用される場合もあります。こうした施設を利用すれば、在宅と施設を状況に応じて使い分けられます。

参照:『介護医療院とは?』(厚生労働省)

入院を検討する

症状が急に悪化した場合や、頻繁に医療的な処置が必要になる場合には、病院への入院を検討します。緩和ケア病棟では、痛みや呼吸困難といったつらい症状を専門的にやわらげるケアを受けられます。一般病棟でも点滴や処置、検査などに対応できる体制があり、病状に応じた医療を受けることができます。

さらに、家族が在宅介護を続けることに強い負担を感じているときにも、入院は家族の心身を休ませる選択肢です。入院中に家族は休養の時間を持つことができ、医療者と一緒に今後の生活や介護の方向性を相談する機会にもつながります。在宅介護を望んでいた場合でも、そのときの状況に合わせて入院という選択肢を考えていくことが望ましいです。

参照:『緩和ケア病棟に入院して緩和ケアを受ける』(日本緩和医療学会)

まとめ

まとめ 末期がんの患者さんを自宅で介護するには多くの工夫が必要ですが、訪問診療や訪問看護、介護保険サービスを活用すれば在宅療養は可能です。症状を和らげるケアを中心に、家族の協力や必要な物品の準備を組み合わせることで、自宅で過ごす時間を支えることができます。

ただし、症状が急に悪化したり、介護を担う家族が疲れてしまったりすることもあります。その際には、医療介護院や緩和ケア病棟などの施設を利用する選択も現実的です。本人と家族の希望を尊重しながら、その時々に合った場所を選びましょう。

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