在宅医療で受けられるサービスとは?対象となる治療法と対象外のサービスを解説

在宅医療は、病気や障害により通院が難しい方が、自宅にいながら必要な医療やケアを受けられる仕組みです。近年は高齢の方や慢性疾患を持つ方、終末期を自宅で過ごしたいと考える方などを中心に利用が広がっています。自宅で医師や看護師が診療や処置を行うほか、歯科医師や薬剤師、管理栄養士など多職種が連携し、生活を支えることが特徴です。医療機関と違い、自宅では受けられない治療や検査も存在しますが、生活の場に合わせたきめ細やかなサポートが整うことで、安心して暮らしを続けることができます。
この記事では、在宅医療で提供されるサービスや対象外となる医療、利用までの手続きを解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
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眼科(角膜外来)
目次 -INDEX-
在宅医療とは

在宅医療とは、医師や看護師などが自宅を訪問し、通院が困難な方に必要な医療を提供する仕組みです。病院に行くのが難しい方でも、自宅にいながら定期的に診察や処置を受けられるため、生活の場と医療がつながる点が大きな特徴です。
対象となるのは、高齢の方や慢性疾患で通院が負担となる方、退院後に療養を継続する方、終末期を自宅で過ごしたい方などです。本人だけでなく、介護を担う家族にとっても支えとなり、医療と生活を結ぶ大切な役割を果たしています。
在宅医療には、医師による訪問診療、看護師による訪問看護をはじめ、歯科医師や薬剤師、管理栄養士など多職種が関わります。それぞれの専門性を活かしながら、病気の治療だけでなく生活の質の維持を目指します。
一方で、在宅医療は病院そのものを置き換えるものではなく、できることとできないことがあります。在宅医療では検査機器を使った精密検査や外科手術は行えないため、そのような場合には病院と連携して適切に対応します。こうした仕組みにより、自宅での療養と病院での医療を組み合わせた柔軟なサポートを受けることができます。
在宅医療で受けられるサービス

在宅医療では、医師や看護師だけでなく歯科医師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士など多職種が協力し、医療と生活の両面を支えます。自宅という環境に合わせた支援が可能であり、患者さん本人の安心感や家族の負担軽減にもつながります。ここでは主なサービス内容を解説します。
看護師による訪問看護
看護師が自宅を訪問し、日常的な健康管理や処置を行います。
- 血圧・脈拍・体温などのバイタルチェック
- 点滴や酸素療法、褥瘡(床ずれ)の処置
- 排泄や清拭など日常生活の支援
- 急な体調変化への対応と医師への報告
訪問看護では医療処置に加え、家族への介護指導や気持ちのサポートも行います。特に終末期の療養では、痛みを和らげるケアや精神的なサポートを行うことで、本人と家族が少しでも穏やかに過ごせるよう後押しします。
医師による訪問診療
医師が定期的に患者さんの自宅を訪問し、診察や薬の処方を行います。必要に応じて血液検査や心電図などの検査も可能です。主な内容は以下のとおりです。
- 病状の確認と治療方針の決定
- 内服薬や注射薬の処方・管理
- 採血・尿検査・心電図などの検査
急変時には往診を行い、病院へ搬送するかどうかの判断も行います。体調が急に悪化したときにすぐ医師が対応できることは、自宅で療養を続けるうえで支えとして機能します。さらに、定期的な関わりを持つことで、わずかな症状の変化にも気付きやすくなり、必要な検査や治療を早めに取り入れることができます。
歯科医師による訪問歯科診療
通院が困難な方に対し、歯科医師が自宅や施設を訪問して診療します。
- むし歯や歯周病の治療
- 入れ歯の調整や作製
- 口腔内の清掃や嚥下機能の評価
お口を清潔に保つことは、栄養状態の改善や感染予防に役立ちます。定期的に口腔ケアを行うことは誤嚥性肺炎の予防につながり、生活の質を守るうえで大切な役割を果たします。さらに、咀嚼や嚥下の状態を整えることで食事を楽しめるようになり、栄養の摂取量も安定しやすくなります。
訪問リハビリテーション
理学療法士や作業療法士が訪問し、身体機能の維持や日常生活動作の改善をサポートします。
- 関節の動きを保つ体操や筋力訓練
- 歩行練習や転倒予防の指導
- 食事や着替えなど生活動作の練習
リハビリに継続して取り組むことで自宅での自立度が高まり、生活の幅を広げる効果が期待できます。さらに、リハビリを続けることは心の落ち着きにも結びつきます。
薬剤師による訪問薬剤管理指導
薬剤師が自宅を訪問し、薬の管理や服薬状況を確認します。
- 薬の飲み間違いを防ぐ整理やセット
- 副作用や飲み合わせの確認
- 薬の効果や服薬方法の説明
薬は種類や量が増えるほど管理が複雑になり、飲み間違いや重複服用のリスクが高まります。薬剤師が訪問して整理や確認を行うことで、服薬を続けやすくなり、患者さんと家族の負担が減ります。
管理栄養士による訪問栄養指導
食事の内容や栄養バランスを確認し、健康状態に応じた食事を提案します。
- 糖尿病や心不全など病気に合わせた献立の工夫
- 嚥下機能に合わせた調理方法の指導
- 栄養不足や低栄養の予防
食事は単なる栄養補給ではなく治療の一部と位置づけられ、病状の安定を支える大切な要素で、適切な栄養管理は体力や免疫力の維持に役立ちます。管理栄養士が関わることで、本人の好みだけでなく嚥下状態に合わせた食形態や生活習慣を踏まえた提案を行うことができます。
在宅医療では受けられないサービスや治療

在宅医療は、自宅で診察や処置を受けられる大きな利点がありますが、病院と同じようにすべての医療を提供できるわけではありません。特に高度な医療機器を必要とする検査や、外科的治療のように専門設備を前提とする医療は、自宅では実施できません。ここでは、その代表的な内容を解説します。
MRIやCTなどの医療機器を用いた検査
MRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)は、身体の内部を描き出し、病気の有無や進行を詳しく調べるための精密検査です。脳梗塞や脳出血、心臓や血管の異常、肺や消化器の病気、骨や関節の損傷など、幅広い診断に欠かせません。しかし、これらの検査には大型の専用機器や強力な電源、特殊な設備が必要で、自宅で検査することはできません。
在宅医療を受けている方がこれらの検査を必要とする場合には、病院に出向く必要があります。移動が難しいときには、医師やケアマネジャーが搬送や日程を調整します。
手術などの外科的治療
外科手術も自宅で行うことができない代表的な医療行為です。手術には無菌状態を維持するための手術室や全身麻酔を管理する設備、出血や合併症に即座に対応できる医療体制が必要であり、これらを自宅で備えることは困難です。さらに、術後には感染や合併症に備えた継続的な管理が求められるため、手術は在宅医療では受けられません。
24時間の医療ケア、介護体制を希望する場合

自宅で療養を続けるうえで、夜間や休日を含めた切れ目のない支援を望む方も少なくありません。病状が進んで体調の変化が起こりやすいときや、介護を担う家族が不安を抱えているときには、24時間対応の医療・介護体制を整えるのが選択肢の一つです。ここでは、具体的にどのような仕組みやサービスを利用できるのかを解説します。
在宅医療を行う医師の多くは、夜間や休日にも連絡を受けられる体制を設けています。日中の定期的な訪問に加え、夜間や早朝に急な変化が起きた場合は電話相談や往診で対応できる場合があります。ただし、医師一人では限界があるため、地域の医療ネットワークや複数の医療機関が協力して支える体制が組まれていることもあります。24時間対応の範囲は医療機関によって異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。
訪問看護については、24時間体制を持つ事業所が多く、夜間や休日にも電話での相談や緊急訪問に対応しています。急な発熱や呼吸苦、点滴や医療機器のトラブル、強い痛みに対するケア、家族への介護指導など幅広い支援を担い、家族が一人で抱え込まないよう支えています。
さらに、介護サービスを組み合わせることで体制はより充実します。訪問介護員が日常生活を助け、食事や排泄、入浴の支援を行うことで家族の負担を減らします。加えて、定期巡回・随時対応型訪問介護看護を導入すれば、夜間を含めた見守りや緊急時の対応も整います。
参照:『定期巡回・随時対応型訪問介護看護の概要』(厚生労働省)
在宅医療を受けるための手続き

在宅医療を始めるには、本人や家族の希望だけでなく、制度やサービスを活用するための手続きが必要です。医療と介護を両立させるために、行政窓口やケアマネジャー、医療機関と連携しながら準備を進めていきます。ここでは、在宅医療を受ける際の主な手続きの流れを解説します。
行政や病院の窓口に相談する
在宅医療を希望する際には、まず地域の行政窓口や病院の地域医療連携室に相談します。行政窓口では、介護保険の利用方法や地域で受けられる支援サービスについて案内を受けられます。病院の連携室では、在宅医療を実施している医療機関や訪問診療医を紹介してもらえることが多いです。
急に体調が悪化して入院中から在宅医療への切り替えを検討する場合には、病院の医療ソーシャルワーカーや退院調整担当者が相談窓口となり、必要な情報を整理してくれます。地域包括支援センターも、医療と介護を結ぶ役割を担っており、どこに相談すればよいか迷ったときの入口として活用できます。
要介護認定を受ける
在宅医療と介護サービスを併用するためには、介護保険制度を利用することが一般的です。そのために必要なのが要介護認定です。市区町村に申請すると訪問調査や主治医の意見書をもとに審査が行われ、要介護度が決定します。
要介護度によって、利用できるサービスの範囲や支給限度額が変わります。例えば軽度であれば生活支援中心、重度であれば訪問介護や訪問看護をより充実して利用できます。退院後すぐに在宅医療を始めたい場合は、入院中に申請しておくことで、退院から自宅療養への移行が円滑に進みます。
訪問診療医を探す
在宅医療の中心となるのは、定期的に自宅を訪問して診察や処方を行う訪問診療医です。かかりつけ医が訪問診療を行っていない場合には、地域包括支援センターや病院に相談して地域で活動している医師を紹介してもらうことができます。
訪問診療医を選ぶときには、以下の点を確認しましょう。
- 24時間対応が可能かどうか
- 緊急往診に対応しているか
- 訪問看護師や薬剤師など多職種と連携しているか
- 必要時に病院とスムーズに連携できる体制があるか
- 自分の病気に詳しい医師かどうか
(例:日本在宅医療連合学会 在宅医療認定専門医や各診療科の専門医)
長期にわたる療養では、医師との信頼関係が欠かせません。病気に応じた知識や経験を持つ医師とつながることで、より適切な対応を受けられ、自宅療養を落ち着いて続けられます。
ケアマネジャーを選定する
介護保険を利用する際には、ケアマネジャーが支援の調整役を務めます。患者さんや家族の希望を聞き取り、訪問看護や訪問介護、デイサービス、リハビリなどを組み合わせたケアプランを作成します。選ぶときは、相談のしやすさや医療機関との連携経験を確認するとよいでしょう。
ケアマネジャーを紹介してもらうには、市区町村の介護保険課や地域包括支援センターに相談します。入院中であれば病院の医療ソーシャルワーカーを通じて紹介を受けられることもあります。
まとめ

在宅医療は、通院が難しい方が自宅で診察や処置を受けられる仕組みです。医師や看護師を中心に、多職種が協力しながら生活を支える点に特徴があります。ただし、自宅では精密検査や手術のような高度な医療は行えず、その場合には病院と連携する必要があります。
さらに、病状や希望に応じて24時間対応の体制を整えることもできます。訪問診療や訪問看護、介護サービスを組み合わせれば、夜間や休日の体調変化にも対応しやすい環境が作れます。在宅医療を利用する際には、行政窓口での相談や要介護認定、訪問診療医やケアマネジャーとの連携が欠かせません。こうした準備を進めることで、自宅という慣れた環境で療養を続けながら生活の質を守ることができます。




