在宅介護におけるトイレ介助の基本と手順、注意すべきポイントを解説！

排泄は、多くの在宅介護の現場において悩ましいテーマです。 トイレ介助は日常的に行われる一方で、本人の尊厳や心理面、介助する側の負担にも大きく関わってきます。この記事では、介護とトイレの関係を整理し、介助に役立つ福祉用具、基本的な考え方、実際の手順、注意点を解説します。

介護とトイレの関係

在宅介護では、トイレに関する困難が、本人と介護者の双方に大きな影響を及ぼすことがあります。排泄介助は日常的な行為であると同時に、身体的・心理的負担が伴いやすく、介護の質や継続性に深く関わってきます。 ここでは、排泄に関する問題が介護生活に与える影響について、全体像とともに、本人と介護者、それぞれの立場から整理します。

トイレ問題が介護生活に与える影響

排泄の問題は、在宅介護を続けられるかどうかを左右する大きな要因の一つです。例えば、夜間の失禁やトイレへの移動が難しくなると、清潔の維持や寝具の管理に手間がかかり、介護者の負担が増大します。介護者が対応に限界を感じたり、本人とのコミュニケーションがうまくいかなくなったりすることで、やむを得ず施設入所を選択する場合もあります。このように、トイレに関する困難は、介護生活全体の質や継続に深く関わる課題です。

本人の尊厳と心理面への影響

排泄が自力で行えなくなることは、多くの方にとって、羞恥心やつらさを伴うものです。介助を受けることに心理的な抵抗感を持つ方も少なくありません。周囲の手を煩わせていると感じることが、自己肯定感や意欲の低下につながることもあります。できるかぎり本人の意志や残存機能を尊重し、プライバシーを保った介助が求められます。

家族や介助者の負担

体位交換やおむつ交換、夜間のトイレ誘導などは、日常的に繰り返されるため、身体的にも精神的にも負担がかかりやすい介助行為です。また、においや衛生面への対応に悩まされることもあります。このような負担を軽減するためには、適切な介護の手順を理解し、必要に応じて福祉用具や介護サービスの活用を検討しましょう。

トイレ介助に必要な福祉用品

介助をする方と受ける方の双方への負担を軽減するためには、生活空間に応じた排泄支援が求められます。 ここでは、トイレ介助に用いる代表的な福祉用具として、おむつ、ポータブルトイレ、尿器や差込便器、手すりや昇降便座などの排泄補助器具について、それぞれの特徴や種類、選び方のポイントを解説します。

おむつ

おむつは、自力でトイレに行くことが難しい方から、軽度の失禁がある方まで、幅広く使用されています。選ぶ際は、動作能力、認知機能の低下の有無、排尿・排便の回数や量、使用者の体格、交換のしやすさなどを総合的に考慮しましょう。

おむつは大きく、アウターとインナータイプに分かれます。アウタータイプは、おむつの外側に装着するもので、単体で使うほか、インナーを固定する役割もあります。インナータイプは、パッド状で、アウターの内側に重ねて使用するのが一般的です。まず、どちらを使用するか（または併用するか）を決めたうえで、サイズや形状、吸収量の合ったものを選ぶのが一般的です。

アウタータイプは、パンツタイプとテープタイプがあります。パンツタイプは、自力で立ったり座ったりできる方に適しており、下着のように履けるため装着や交換がしやすいと感じる傾向にあります。一方、テープタイプは、寝て過ごす時間が多い方や、立ち座りが難しい方に向いており、横になったまま交換できることから、介護者の負担を軽減しやすいという利点があります。サイズを選ぶ際は、パンツタイプはウエスト、テープタイプはヒップの寸法を目安にするとよいでしょう。

これらのアウターに加え、内側に当てて使うインナーパッドを併用することで、排尿のたびにおむつ全体を交換せずに済み、介護や経済的な負担を軽減できます。パッドには、吸収量（排尿◯回分、◯ccなど）や形状の違いがあるため、排尿量や交換頻度を踏まえて選ぶことが大切です。

ポータブルトイレ

居住環境や身体機能の低下によって、トイレまでの移動が困難な場合には、居室内で排泄できるポータブルトイレが有用です。基本的には便座とバケツ、支えるためのフレームから構成され、金属製の脚をもつコモード型、プラスチック製のスツール型、未使用時には家具のようにみえるデザイン性の高いものなどがあります。機種によっては、暖房便座や洗浄機能、消臭機能を備えたタイプもあります。

ポータブルトイレは腰掛便座に分類され、特定福祉用具販売の対象です。介護保険制度の対象となる方であれば、指定事業者から購入することで介護保険による払い戻し（償還払い）を受けることができます。

尿器、差込便器

ベッドからの移動が困難な方や、長時間寝て過ごす方には、尿器や差込便器の活用が考えられます。尿器には男女別の形状があり、さらに自動で吸引や洗浄を行う自動排泄処理装置もあります。装着型や手持ち型などの種類があり、尿だけでなく便の吸引にも対応した製品もあります。

これらの装置は、排泄物による皮膚刺激を軽減し、紙おむつやパッドの使用頻度を軽減できる点がメリットです。さらに、自動装置では介護者がその場にいなくても排泄できるため、介護される方の心理的負担の軽減や、夜間の介助負担の軽減にもつながります。

自動排泄処理装置は、特定福祉用具販売の対象となっており、原則として要介護4または5の認定を受けた方が、介護保険の給付を受けることができます。

手すりや昇降便座などの補助器具

手すりは、トイレ周囲やポータブルトイレの横などに設置して、立ち座り動作を安定させるために使われます。工事を伴わずに設置できる据え置き型の手すりは、介護保険を利用してレンタルが可能です。選ぶ際には、設置場所や本人の身長、握りやすさ、使いやすさに応じて形状や材質を選びましょう。

腰掛便座には、いくつかのタイプがあります。例えば、和式便器の上に置いて洋式化するタイプや、洋式便器に重ねて高さを補い、立ち座りを助ける補高便座などです。 補高便座には、電動式やスプリング式の昇降機能が付いたものもあり、使用する方の身体機能に応じて選ぶことができます。これらはいずれも、洋式の姿勢で排泄ができるため、立ち座りの負担軽減に役立ちます。 腰掛便座は、特定福祉用具販売の対象であり、要介護または要支援の認知を受けた方が、払い戻しを受けて購入できます。

参照： 『快適な排泄をサポートする排泄ケアマニュアル』（名古屋大学 排泄情報センター　名古屋大学大学院医学系研究科病態外科学講座泌尿器科学） 『介護保険の福祉用具』（公益財団法人長寿科学振興財団　健康長寿ネット） 『介護保険制度における福祉用具、居宅介護支援について』（厚生労働省）

在宅介護におけるトイレ介助の基本

在宅でのトイレ介助では、排泄する方のプライバシーと安全を守りながら行う必要があります。ここでは、トイレ介助を行う際の基本的なポイントとして、声かけの工夫やタイミングの見極め、安全面の配慮、転倒や排泄トラブルを防ぐための注意点を解説します。

声かけやタイミングを工夫する

トイレを促す際には、威圧的にならないよう、優しい声かけを心がけましょう。排尿日誌を活用して、時間帯や回数、失禁の有無などを記録しておくことは、排泄リズムを把握することに役立ちます。急なトイレにも対応できるよう、動線を確保し、必要な準備を整えておくとよいでしょう。

安全に配慮して介助する

トイレまでの経路にある段差や滑りやすい箇所、つまずきやすい物はあらかじめ取り除き、必要に応じて手すりの設置も検討しましょう。また、衣類の着脱がしやすいように脱ぎやすい服装を選ぶことや、生活スペースとトイレとの位置関係を見直して移動距離を短くすることも、安全でスムーズな介助につながります。

転倒や排泄トラブルを防ぐ

転倒を防ぐため、夜間の移動時には足元の照明やセンサーライトの設置が役立ちます。また、トイレを無理に我慢することで起こる失禁や便秘、皮膚トラブルを防ぐためには、排泄リズムを把握し、適切なタイミングで声をかけ、おむつやパッドはこまめに交換しましょう。

在宅介護におけるトイレ介助の手順

排泄介助の方法は、排泄する場所や使用する補助器具によって異なります。 この章では、トイレまで移動できる場合、ポータブルトイレを使用する場合、ベッド上で介助する場合に分けての基本的な手順、さらに、おむつを用いた介助の際に注意すべきポイントを解説します。

トイレまで移動できる場合

移動、衣類の着脱、排泄、清拭、再移動という一連の流れに対して、必要に応じた介助が求められます。トイレまでの動線は安全を確保し、排泄を焦らせない落ち着いた声かけを心がけながら、必要に応じて衣類の着脱や清拭を介助しましょう。また、手すりや腰掛便座などの補助器具を活用することで、本人の残存能力を活かしながら、より自立的な排泄を支援することができます。

ポータブルトイレを使用する場合

ポータブルトイレまでの移動時の見守りや、立ち座りの際に身体を支えるサポートが重要です。排泄後は、陰部清拭の介助や、ふたを閉めて消臭剤をいれるといったの衛生面の配慮、バケツの内容物の処理や洗浄、便座の清掃を行いましょう。

ベッド上で介助する場合

尿器を使用する場合は、仰向けで膝を軽く立てた姿勢で、下着をおろして股を開いてもらい、尿がスムーズに流れるように尿器を斜めにして、受尿部に陰部を密着させて排尿してもらいます。その方に合った角度や位置を調整することで、漏れを防ぐことができます。排尿後は尿器を密閉し、陰部の清拭や体位の調整を行いましょう。 便の場合も同様に、必要に応じて膝を立て、差込便器をお尻の下に差し込んで排便してもらいます。終了後は、便器を外して中身を処理し、お尻の清拭、体位の調整、便器の洗浄や消毒を行いましょう。

おむつによる介助の場合

テープ型おむつでは、新しいおむつをベッドに広げて準備し、使用済みのおむつを外してお尻を清拭します。お尻の下に新しいおむつを敷き、前面をお腹に当ててテープで固定します。股下がずれないように整えましょう。

パンツ型おむつでは、片足ずつ通して引き上げます。排泄後はサイドを破っておむつを外し、お尻を拭いてから新しいおむつに交換します。

参照： 『快適な排泄をサポートする排泄ケアマニュアル』（名古屋大学 排泄情報センター　名古屋大学大学院医学系研究科病態外科学講座泌尿器科学） 『福祉用具の選び方・使い方』（公益財団法人テクノエイド協会）

在宅介護におけるトイレ介助で注意すべきポイント

トイレ介助では、本人の能力やプライバシーへの配慮、水分摂取の考え方、皮膚トラブルの予防、健康観察など、注意したいポイントがいくつかあります。

本人ができる範囲を把握し任せる

できることを見極めて本人に任せることで、残存している身体機能や意欲の維持が期待できます。排泄時の姿勢によって、排尿・排便のしやすさが変わることもあり、例えば男性では立位より座位、女性では洋式より和式のほうが排尿しやすいと感じる場合もあります。 このように、排泄のタイミングや方法について、あらかじめ本人と介助者で共有しておくことは、より快適で負担の少ない介助につながります。

水分摂取を制限したり我慢させたりしない

失禁をおそれて水分摂取を控える方もいますが、脱水や便秘の原因になるため、無理な水分制限は危険です。また、排尿や排便を我慢することも、膀胱炎や重度の便秘といったトラブルにつながるおそれがあります。排泄リズムを見極めたうえで、本人が不安やプレッシャーを感じないよう、適切なタイミングで声をかけ、優しく誘導しましょう。

プライバシーを尊重する

排泄はデリケートな行為です。扉やカーテンで空間を仕切る、衣類を必要以上に脱がさない、介助中は丁寧な声かけを行うなど、本人の羞恥心や不快感を軽減する工夫をしましょう。

皮膚トラブルなどを防ぐために清潔にする

排泄後のお手入れが不十分だと、かぶれや褥瘡（じょくそう）の原因になることがあります。特におむつを使っている場合は、尿や便が長時間お肌に触れないよう、こまめに交換し、ぬるま湯やおしりふきでやさしく清潔にしましょう。お手入れの後には、保湿剤や保護クリームを使って、お肌を乾燥や刺激から守るよう心がけましょう。

健康状態を確認する

尿や便の色、量、におい、形状などを日頃から観察することは、体調の変化に気付く手がかりです。尿量の急激な減少や失禁の増加、頑固な便秘、長く続く下痢など、いつもと違う様子がみられた場合には、早めにかかりつけ医や医療機関に相談しましょう。

参照： 『快適な排泄をサポートする排泄ケアマニュアル』（名古屋大学 排泄情報センター　名古屋大学大学院医学系研究科病態外科学講座泌尿器科学） 『在宅要排泄介護者の臀部の皮膚トラブルに対する予防的ケアの効果』（日本在宅ケア学会誌）

まとめ

在宅介護におけるトイレ介助は、介護を受ける方にとっても支える側にとっても、身体的、心理的な負担が大きいケアです。排泄を安心して行える環境を整えることは、尊厳の維持や身体機能の保持、無理のない介護生活の継続に欠かせません。本人の残存能力や生活環境に応じて、適切な福祉用具や介助方法を取り入れながら、必要に応じて医療・介護職のサポートも活用していきましょう。