在宅での看取り|病院の看取りとの違いや準備、受けられる支援とは
公開日:2025/10/20


監修医師:
居倉 宏樹(医師)
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浜松医科大学卒業。初期研修を終了後に呼吸器内科を専攻し関東の急性期病院で臨床経験を積み上げる。現在は地域の2次救急指定総合病院で呼吸器専門医、総合内科専門医・指導医として勤務。感染症や気管支喘息、COPD、睡眠時無呼吸症候群をはじめとする呼吸器疾患全般を専門としながら一般内科疾患の診療に取り組み、正しい医療に関する発信にも力を入れる。診療科目
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
在宅での看取りとは?
ここでは、在宅での看取りについて、その定義や現状、病院での最期との違いを解説します。
在宅での看取りの定義
在宅での看取りとは、病院や介護施設ではなく、住み慣れた自宅で最期のときを迎えることを指します。医師、看護師、介護職などの専門職が連携することで、本人と家族の希望に沿った支援を行うことができる環境で終末期を過ごすことが可能になります。 在宅での看取りは、回復の見込みが乏しく、最期が近いと医師が判断した終末期において、本人の意思と尊厳を尊重しながら、身体的や精神的な苦痛を緩和し、穏やかな最期を迎えることを目的としています。 そのため、明確な区分は難しいものの、積極的な延命処置や心肺蘇生などの侵襲的な医療行為は行わず、自然な死の過程を支えることに重点が置かれます。在宅で最期を迎えられる方の割合
日本で亡くなる方のうち、2020年時点で自宅で死亡する割合は約15%にとどまっています。これに対し、病院で亡くなる方は約75%と大半を占めています。一方で、2021年の日本財団の調査では、「できれば自宅で最期を迎えたい」と希望する方が約60%にのぼると報告されています。 つまり、多くの方が在宅での看取りを望んでいるにも関わらず、実際に実現できている方は少数にとどまっているのが現状です。その背景には、医療体制の整備不足や家族の負担、在宅医療への理解不足など、さまざまな課題が存在していると考えられています。 参照: 『在宅での看取りと病院での看取り』(日本終末期ケア協会) 『在宅医療の体制構築に係る指針』(厚生労働省)P4 『人生の最期の迎え方に関する全国調査』(日本財団)P5在宅での看取りと病院での看取りの違い
在宅と病院では、以下のように環境やケアの方法、意思決定のあり方などに違いがあります。
| 項目 | 在宅での看取り | 病院での看取り |
|---|---|---|
| 環境 | 慣れ親しんだ自宅で、家族や日常の風景に囲まれて過ごせる | 医療設備の整った病室で、管理された環境となる |
| ケアの主体 | 訪問診療、訪問看護、訪問介護などと家族が連携して行う | 医師や看護師など専門職が24時間体制で行う |
| 緊急時の対応 | 訪問医や救急搬送で対応、到着までに時間がかかる場合がある | その場で迅速な医療処置が可能である |
| 生活の自由度 | 生活音や食事など日常が保たれるため高い | 病院の規則や環境に従う必要があるためやや低い |
在宅で看取るために知っておくべきこと
在宅での看取りを実現するには、自宅で最期を迎えたいという希望だけではなく、医療や介護体制の整備や家族の理解と協力が不可欠です。そのため、以下のポイントを事前に確認して必要な準備を進めておきましょう。
誰でも在宅で看取りができるわけではない
在宅での看取りは、希望すれば誰でも実現できるわけではありません。本人や家族の意思に加えて、在宅医療や介護の提供体制、家族や支援者の協力、自宅の環境など、いくつかの条件が整う必要があります。 例えば、急変時に医療スタッフが迅速に対応できる地域かどうか、介護を担う家族が継続的に支援できるか、必要な医療機器や介護用ベッドを設置できるスペースがあるかなどが判断材料となります。また、本人の病状によっては、在宅では十分な医療処置が行えず、病院での対応が望ましい場合もあります。医療・介護機関との連携が必要
在宅での看取りを円滑に進めるためには、医療と介護の専門職が密接に連携する体制が不可欠です。自宅で最期を迎えるには、本人や家族だけで対応するのは困難であり、医師、看護師、ケアマネジャー、介護職、薬剤師など、多職種による支援が求められます。 特に、急変時の対応や症状緩和には、24時間体制で連絡や訪問が可能な医療機関と契約する必要があります。契約する際は、訪問診療や訪問看護の体制が整っているかどうか、夜間や休日の対応が可能かなどを事前に確認しておきましょう。 ケアマネジャーは、介護サービスの調整や福祉用具の導入、家族への心理的支援などを担い、全体のコーディネート役として機能します。薬剤師は、在宅で使用する薬の管理や服薬指導を行い、医師や看護師と連携して症状緩和を支えます。 このように多職種の連携が円滑に機能することで、本人の意思を尊重しながら、自宅で最期を迎える環境が整います。事前の情報共有やカンファレンスを通じて、現在の本人や家族の希望などを定期的に伝えるようにしましょう。看取りが近い徴候や変化
在宅で過ごす日々のなかで、最期が近づくと、身体や心の状態に少しずつ変化が現れてきます。まず目立つのは、体力や食欲の低下です。食べる量が減り、水分の摂取も少なくなっていきます。これは、身体が生命維持のためのエネルギーを必要としなくなり、食べることや動くことへの関心や必要性が自然に薄れていく過程です。 その後、会話の回数が減り、眠っている時間が長くなります。意識が浅くなったり、呼びかけへの反応が鈍くなったりします。また、末梢の血流が弱くなることで手足が冷たくなり、皮膚が青紫色を帯びることもあります。 亡くなる直前には、呼吸の仕方にも変化が見られます。チェーン・ストークス呼吸と呼ばれる、浅い呼吸と深い呼吸が交互に現れる状態になることがあります。これは呼吸をつかさどる脳の働きが徐々に静まっていく過程であり、決して苦痛を伴うものとは限りません。 こうした変化は、現れる順番やスピードに個人差がありますが、訪問する医師や看護師はこれらの兆候を見極め、必要に応じて痛みや苦しさを和らげるケアを行います。 家族は、急な変化に動揺することも少なくありませんが、落ち着いて専門職に連絡し、支えを受けながら現在の状況を把握しましょう。事前にこうした徴候を知っておくことで、心の準備ができ、穏やかな看取りにつながります。【在宅での看取り】受けられる支援
在宅での看取りを実現するためには、医療、看護や介護の各分野からの支援を受けることが不可欠です。本人の病状や家族の状況に応じて、適切なサービスを組み合わせることで、住み慣れた自宅で最期を迎える環境が整います。
訪問診療と訪問看護
訪問診療は、病院や診療所への通院が困難な方のために、医師があらかじめ決められたスケジュールで自宅を訪問し、診察や薬の処方、点滴、酸素療法などの医療処置を行う支援方法です。医療保険が適用され、自己負担は原則1〜3割となります。 通常はかかりつけ医が1~2週間に1回の頻度で定期的に訪問しますが、終末期には症状の変化が激しく、迅速かつ柔軟な医療判断が求められるため、訪問頻度が増えたり、状態悪化時には臨時の往診が行われたりすることもあります。 訪問看護は、看護師が自宅に訪問し、体調の観察、服薬管理、清潔保持、褥瘡(床ずれ)予防、排泄ケアなどを行います。終末期には、痛みや呼吸困難の緩和、点滴や酸素療法、胃ろうなどの医療的処置も担当します。看護師は、本人の苦痛や不安に寄り添いながら、医師と連携して適切なケアを提供します。 訪問看護は医療保険と介護保険の両方が適用されますが、終末期には医療的管理が中心となるため、医師の指示に基づく医療保険での訪問看護が主に利用されます。医療保険による訪問看護では、より専門的な処置や緊急対応が可能です。 訪問診療と訪問看護は、事業所や契約内容によってサービス体制が異なりますが、24時間対応や緊急訪問に対応している事業所もあります。訪問介護サービス
訪問介護は、介護保険を利用してホームヘルパーが自宅に訪問し、日常生活の支援を行います。入浴や清拭、排泄の介助、食事の準備や介助、掃除や洗濯などの生活援助まで幅広く対応します。支援方法は身体介護と生活援助に分類されており、両面から本人の生活の質を保ちつつ、家族の負担軽減にもつながります。 訪問介護は、単なる生活支援にとどまらず、本人の尊厳を守り、家族と寄り添える環境づくりに貢献する重要な支援方法です。事業所によってサービス内容や対応時間が異なるため、事前に確認し、必要に応じて複数の事業所を比較や検討しましょう。【在宅での看取り】家族として必要な準備
在宅での看取りを行うためには、医療的な支援だけでなく、家族としての心構えや具体的な準備が欠かせません。本人の希望を尊重しながら最期を迎えられるよう、以下の内容など事前にできることを整えておきましょう。
訪問診療医と打ち合わせをする
在宅で看取る場合は、訪問診療医との細心な打ち合わせが欠かせません。本人の病状や予測される経過を踏まえ、どのような変化が起こるか、どのような対応が必要になるかを丁寧に説明してもらいましょう。 打ち合わせでは、以下のような内容を確認し共有しておきましょう。- 最期に向けた症状の変化と対応方法
- 延命治療の希望の有無(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)
- 緊急時の連絡体制と対応方法
- 自宅で最期を迎えた際の死亡確認や死亡診断書の発行
最期の時間の過ごし方を考える
最期の時間の過ごし方を考えることは、本人と家族の双方にとって大切な準備です。本人の希望をできる限り尊重し、どこで、誰と、どのような雰囲気で過ごしたいかを具体的に話し合っておくことで、後悔のない時間を共有できます。 好きな音楽を流す、思い出の写真を飾る、静かな空間で寄り添うなど、本人の価値観に沿った過ごし方を工夫しましょう。家族が交代でそばにいる、語りかける、手を握るなどの関わり方も、本人の安心感につながります。 医療的なケアとともに、心のケアを意識した環境づくりを心がけることで、穏やかで温かな最期の時間を支えることができます。最期の時間を一緒に過ごす家族や親族、友人について考える
最期の時間を誰と過ごすかは、本人の希望を尊重しながら事前に話し合って決めておきましょう。家族や親族、友人のなかで、本人が会いたいと願う方がいれば、可能な限りその希望を叶えられるよう調整しておくことが望ましいです。 遠方に住んでいる方や仕事の都合がある方には、事前に連絡を取り、タイミングを見て訪問してもらえるよう配慮しましょう。最期の時間に立ち会える人数やタイミングは家庭の事情や本人の意向によって異なるため、連絡網を作っておくと急変時にもスムーズに対応できます。最期が訪れたときの対応方法を確認しておく
症状の変化などから最期の瞬間が近づいてきたと感じたら、まず落ち着いて訪問診療医に連絡しましょう。医師が到着し、症状を確認したうえで死亡確認を行えば、正式な看取りとなります。 また、葬儀社への連絡も慌てる必要はありません。事前に葬儀社を決めておき、連絡先を手元に控えておくと、冷静に対応できます。最期の瞬間に備えて、家族が落ち着いて行動できるよう準備しておくことは、本人への思いやりにもなります。まとめ
在宅での看取りは、本人が望む環境で最期の時間を過ごすことができる、大きな選択肢のひとつです。慣れ親しんだ自宅で、家族や友人に囲まれて過ごす時間は、本人だけでなく、家族にとってもかけがえのないものとなります。
しかし、実際に在宅で看取るためには、医療や介護体制の確保、家族の協力、急変時への備えなど、多くの準備が必要です。さらに、最期に近づいた際に起こる身体や意識の変化をあらかじめ理解しておくことで、家族の不安を和らげ、落ち着いて対応する助けになります。
最期の瞬間は、医師や看護師と連携しながら、本人の希望する過ごし方を尊重し、家族も納得できる形で見送りましょう。
在宅での看取りは決して容易な道ではありませんが、適切な準備と支援があれば、多くの方にとって現実的な選択肢となります。希望を実現するためには、本人、家族、医療介護の専門職が事前に打ち合わせを重ねて、同じ方向を向いて計画的に進めましょう。
参考文献



