自宅で寝たきりの方を介護する際の流れや注意点、負担を軽減する方法を解説
公開日:2025/10/28


監修医師:
伊藤 規絵(医師)
プロフィールをもっと見る
旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
目次 -INDEX-
寝たきりの定義と状態
寝たきりとは、病気や加齢によって自力での起き上がりや歩行が難しく、日常生活の大部分をベッド上で過ごす状態を指します。
寝たきりの定義
寝たきりという言葉は学術用語ではなく、明確な定義はありませんが、厚生労働省はおおむね6ヶ月以上病床で過ごす方を指すとしています1)。病気や加齢、または障害により自力での起き上がりや歩行が困難になり、日常生活のほとんどをベッド上で過ごしている状態を指します。具体的には、食事や排泄、入浴、着替えなどの基本的な生活動作を自分で行うことが難しく、介助を必要とする場合が多くみられます。また、一時的な安静が必要な場合を除き、長期的に身体活動が制限された状態を寝たきりと表現します。寝たきりの原因
主な原因には、脳卒中、認知症、高齢による衰弱や老衰、骨折・転倒、関節疾患などが挙げられます。脳卒中は脳の血管が破れる、もしくは詰まることで麻痺などの後遺症が残り、身体機能が低下して寝たきりになることが少なくありません。 また、認知症では脳の機能低下によって日常動作が困難となり、筋力の低下や安全性の確保の観点から寝たきりの状態になることがあります。骨粗しょう症や関節疾患による転倒や骨折も、高齢の方が寝たきりになる大きな要因です。加齢によって筋力や身体能力が低下し、回復が難しくなることが影響します。このように、寝たきりの原因は複数あり、身体的要因だけでなく認知機能や安全性を重視した管理も深く関係しています。寝たきりの状態とは
病気や加齢、障害により自力で起き上がったり歩いたりなどができず、日常生活の大半をベッド上で過ごしている状態です。具体的には、食事や排泄、着替え、入浴などの基本的な生活動作に対して介助が必要であり、長期間この状態が続きます。寝たきりになると筋力や骨密度の低下、関節の拘縮、褥瘡(床ずれ)などの身体的な問題を生じやすく、さらには心機能の低下や誤嚥性肺炎、消化器障害、泌尿器障害、精神的な抑うつやせん妄なども引き起こされることがあります。特に高齢の方では、寝たきりの状態が生活不活発病(廃用症候群)として、心身両面の機能低下を進行させやすい特徴があり、介助・介護の適切な対応が求められます。 参照:『寝たきり』(第52回日本老年医学会学術集会記録)自宅で寝たきりの方を介護している世帯の割合
2025年時点で、自宅で寝たきりの方を介護している世帯の割合は、全国で要介護・要支援認定を受けている65歳以上の高齢の方が19〜20%程度であり、そのうち自宅で介護を受けている方の割合は7割程度と推計されています2)。つまり、65歳以上の高齢の方のおよそ5人に1人が要介護・要支援対象であり、13〜14%程度の世帯が自宅で寝たきりなどの高齢の方を日常的に介護している計算です。
介護保険制度による在宅介護サービス利用者は年々増加傾向にあり、2026年度には在宅介護利用者が463万人へ増加する見通しも示されています12)。高齢の方単独世帯や夫婦のみ世帯も増加しており、今後さらに自宅介護の重要性や支援ニーズが高まっていくと考えられます。
参照:『介護保険制度を取り巻く状況等』(厚生労働省)
自宅で寝たきりの方に必要なケアと方法
自宅で寝たきりの方には、褥瘡予防や適切な体位変換、清潔保持、食事・排泄・入浴介助など総合的なケアが重要です。介護保険サービスも積極的に活用します。
清拭
清拭とは、入浴が困難な寝たきりの方に対し、蒸しタオルや使い捨て清拭シートを用いて全身をやさしく拭き、皮膚の清潔を保つケア方法です。 清拭を行う際は、まず室温を22〜25度に調整し、冷えないように全身をバスタオルで覆います3)。作業前に本人の体調を確認し、特に体力が落ちている場合は部分清拭に切り替えるなどの配慮が必要です。清拭の基本は顔から始め、胸・腹部、手・腕、背中、足、陰部へと順番に拭き進めていきます。部位ごとに新しいタオル面を使い、皮膚を傷つけないよう優しく拭きます。排泄は事前に済ませ、作業の合間に乾いたタオルで水気を拭き取りながら進めると身体が冷えません。プライバシーや羞恥心への配慮も重要です。清拭後は着替えを済ませて快適さを保ち、血液循環促進や褥瘡予防の効果も期待できます。 参照:『清拭時の湯を適温に維持・管理するための方法の検証』(福岡県立大学看護学研究紀要)食事介助
食事介助とは、身体や認知機能の低下によって自力で食事が難しい方に対して、安全性の高い快適な食事時間を提供するための支援です。まず食事前に、手洗いや口腔ケアを済ませ、姿勢を整えてエプロンをかけるなど準備をします。食事中は、介助者が利用者と同じ目線で横に座り、誤嚥や窒息を防ぐために一口量はティースプーン1杯程度に止めて、ゆっくり促します。 食事の順番は、水分の少なくないものから始めて主食・副菜を交互に提供し、栄養バランスと飲み込みやすさを考えて進めます。ご本人の希望に合わせたペースで、急がずリラックスできる環境を整えることが大切です。食後は食事量や様子を記録し、口腔ケアを行い、すぐに横にならず30分ほど頭を高くして誤嚥を防ぎます4)。ご本人の安全性を重視し尊厳に配慮した対応が重要です。 参照:『食事の姿勢で誤嚥を予防しよう』(JA静岡厚生連 清水厚生病院 )排泄介助
排泄介助とは、排尿や排便が自力で困難な方のために、必要な支援と安全性・清潔を保つケアを行うことです。まず、プライバシーと尊厳に配慮し、適切な声かけや環境整備、衣類の着脱補助を行います。排泄用具は尿器、差込み式便器、ポータブルトイレ、おむつなど、本人の状態に合わせて選びます。ベッド上介助の場合は、失禁や褥瘡防止のため防水シートを敷き、陰部や臀部は清潔を心がけます。排泄後は速やかに清拭やおむつ交換、着衣介助を行い、皮膚トラブルや感染症予防に注意します。また、排泄物の色・形・量・臭いの変化を観察し、異常があれば速やかに医療者へ報告します。排泄は身体機能だけでなく心理的負担も大きいケアのため、本人のペースを尊重し、安心感のある雰囲気作りが重要です。床ずれの予防
床ずれ(褥瘡:じょくそう)の予防には、まず身体の同じ部位が長時間圧迫されないように2時間ごとを目安に定期的に体位変換を行うことが重要です5)。また、皮膚状態のこまめな観察も欠かせません。皮膚が赤くなったり変化がみられたりした場合は、圧迫を避ける姿勢に変更します。寝具や衣類はいつも清潔で乾燥した状態を保ち、シーツやパジャマのしわ・摩擦にも注意し、皮膚の損傷を防ぎます。 さらに、体圧分散効果のある介護用エアマットレスやクッションの活用で、骨の突出部への圧力を分散し、床ずれ発症リスクを低減できます。栄養状態や水分管理にも配慮し、日々のケアのなかで褥瘡予防のポイントを意識して取り組むことが大切です。床ずれの早期発見と予防対策は、介護者と看護師が連携して進めます。 参照:『褥瘡(床ずれ)の予防について』(国立がん研究センター中央病院)自宅で寝たきりの方に必要な医療ケア
自宅で寝たきりの方には、定期的な訪問診療、訪問看護、訪問リハビリテーションなどの多職種によるサポートが不可欠です。
医師による健康状態の管理や、看護師による褥瘡(床ずれ)や感染症の予防・処置、投薬やカテーテル・点滴の管理など、在宅でも専門的な医療処置を受けることができます。また、リハビリ職による筋力維持や関節機能の回復支援、口腔ケアや栄養指導も重要です。必要に応じて経管栄養、酸素療法、人工呼吸などの高度な医療ケア、疼痛緩和も自宅で対応できる体制が整っています。
こうした包括的な医療ケアにより、本人の健康維持はもちろん、家族の不安も軽減されます。介護保険を活用すれば、介護サービスと連携しながら、生活面と医療面を両立した自宅療養が可能です。ケアマネジャーやかかりつけ医とよく相談し、必要な専門職の支援を受けながら安心感のある在宅医療環境を整えてください。
自宅で寝たきりの方を介護する際の注意点
自宅で寝たきりの方を介護する際は、まず誤嚥や窒息の防止など食事介助時の安全性の確保に注意が必要です。体調や飲み込む力に合わせて適切な食事形態にし、飲み込んだか都度確認しながら進めます。また、身体の同じ部位が長時間圧迫されないよう、体位変換を定期的に行い床ずれ(褥瘡)予防に気を配ります。清拭や洗髪などの清潔保持も大切で、蒸しタオルやドライシャンプーを使って皮膚や頭皮の健康を保つよう心がけます。排泄介助ではプライバシーと自尊心への配慮が欠かせず、本人の状態や希望に合わせてトイレやおむつ、ポータブルトイレなど柔軟に対応します。
寝たきりの介護負担を軽減する方法
寝たきりの介護負担を軽減するには、介護サービスや福祉用具を積極的に活用し、家族や専門職との協力が大切です。一人で抱え込まず、相談しながら適切なサポートを受けます。
介護サービスを活用する
寝たきりの方を介護する際には、介護サービスの活用がとても大切です。まず、要介護認定を受けてケアマネジャーへ相談し、本人の状態や家族の希望に合わせたケアプランを作成してもらいます。 自宅で受けられる代表的なサービスは、下記のとおりです。- 訪問介護
- 訪問入浴
- 訪問看護
- 訪問リハビリ
- 通所介護(デイサービス)
- 短期入所(ショートステイ)
介護医療院などへの入所を検討する
介護医療院などへの入所は、長期にわたり介護と医療両面のケアが必要な場合に検討できます6)。つまり、 急性期病院を退院後も継続的な医療管理やケアが必要な方や、在宅介護が困難な場合に適しています。入所を希望する場合は、地域包括ケアセンターや担当ケアマネジャー、主治医と連携し、施設の見学や申し込み手続きを進めます。施設側では、必要書類や診断書による入所判定があり、入所日や療養生活の内容が事前に説明があります。介護医療院では、医師・看護師・介護職の多職種が協働し、医療的ニーズと生活支援を両立したケアが受けられるため、本人・家族の負担軽減にも効果的です。 参照:『介護医療院とは』(厚生労働省)介護者を増やす
自宅で寝たきりの方を介護する際、介護者を増やすことで心身の負担を効果的に軽減できます。兄弟や親戚など家族内で相談し協力体制を整え、シフト制や役割分担によって作業を分散する方法が有効です。 また、介護保険制度を活用して訪問介護や訪問入浴、デイサービスなどプロの手を借りることでも負担が軽減できます。地域の支援センターやケアマネジャーに相談すれば、利用可能なサービスやサポートを提案してもらえます。介護者が一人で抱え込まず、定期的に休息や気分転換できる環境を整えることが、長く質の高い介護を続けるためのポイントです。複数の介護者による協力や外部サービスの導入は、介護される方の生活の質向上にもつながります。まとめ
自宅で寝たきりの方を介護する際は、丁寧な体調管理と衛生保持、食事や排泄、体位変換など基本的なケアが重要です。毎日バイタルサインや表情の変化を確認し、異変があれば速やかに医療機関へ相談します。床ずれや褥瘡予防には、定期的な体位変換とシーツ・衣類のしわを伸ばすこと、清潔な寝具の使用、皮膚観察が欠かせません。食事介助では誤嚥を防ぐため、やわらかく飲み込みやすい食事と正しい姿勢を心がけます。排泄介助は尊厳と清潔を守りつつ、本人の希望に柔軟に対応します。清拭やベッド上での洗髪・更衣介助も体温・プライバシーに配慮します。介護者の負担軽減には家族や親族の協力、介護サービスや福祉用具の利用が大きな助けになります。ケアマネジャーや地域の相談窓口も活用し、外部支援と連携しながら無理のない介護体制を整えることが大切です。
参考文献




