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寝たきりになったときの余命は?看取りまでの経過や自宅でのケアを解説寝たきりになったときの余命は?看取りまでの経過や自宅でのケアを解説

 公開日:2025/10/20
寝たきりになったときの余命は?看取りまでの経過や自宅でのケアを解説
我が国は国民皆保険制度のもと、世界的にも高水準の長寿社会を実現しています。しかし、高齢化は急速に進んでおり、65歳以上の高齢の方は2025年に3,657万人、2042年には3,878万人でピークを迎える見込みです。特に75歳以上の人口は増加が続き、2055年には全人口の4分の1を超えると予測されています。

高齢化が進む日本では、誰もが寝たきりの状態と向き合う可能性があります。寝たきりになると、本人だけでなく家族にも大きな負担がかかります。そして、多くの方が気にするのが、この状態でどのくらい生きられるのかという点です。

本記事では、寝たきり状態の定義や原因、余命との関係、看取りまでの経過、そして自宅で穏やかに過ごすためのケアやサポートを解説します。

参照:今後の高齢者人口の見通し(厚生労働省)
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

寝たきり状態の定義と原因

寝たきり状態の定義と原因 高齢化の進行に伴い、寝たきり状態の方が増加しています。寝たきりには多様な要因が関わっています。その定義と原因を理解することは、予防や適切な介護につながるため重要です。

寝たきりの定義

寝たきりとは、日常生活の大部分をベッド上で過ごし、起き上がりや移動が自力で困難な状態を指す一般的な呼称です。医学的には、長期間離床できず、食事・排泄・着替えなどの日常生活動作の多くに全面的な介助を要する状態を含みます。厚生労働省は明確な学術的定義を設けていないものの、調査などではおおむね6ヶ月以上病床で過ごす者を寝たきりとしており、介護保険制度上は要介護4または5に該当するケースが多く見られます。また、介護保険申請の意見書に記載される障害老人の日常生活自立度(JABC)でも、ランクB(車椅子利用レベル)を寝たきりとして扱う場合があり、必ずしも“ベッドからまったく動かない状態”だけを意味するわけではありません。

寝たきりになる原因

寝たきりの原因は多岐にわたり、高齢化の進行に伴ってその発生頻度も増加しています。2022年の統計によると、要介護1~5の高齢の方で介護が必要となった主な原因は、最も多いのが認知症(約23.6%)で、次いで脳血管疾患(脳卒中)(19.0%)、骨折・転倒(13.0%)が続きます。

認知症は判断力や記憶、認識機能の低下によって日常生活の自立が難しくなり、長期的な介護が必要となる代表的要因です。脳卒中などの脳血管疾患は、発症時に運動麻痺や意識障害が急激に生じるため、短期間で寝たきり状態へ移行することが多く、予防や発症後のリハビリが重要です。骨折や転倒は、特に大腿骨頚部骨折などが契機となり、離床困難や歩行不能を引き起こして寝たきり化が進行します。

要支援1・2の段階では、関節疾患(19.3%)、高齢による衰弱(17.4%)、骨折・転倒(16.1%)が上位を占めます。関節疾患や加齢に伴う体力低下は、要介護状態への初期段階として重要であり、適切な運動や関節ケアによる予防が重症化回避の鍵です。

このほか、寝たきりの原因として、高齢による廃用症候群(活動量の低下による筋力・関節可動域の減少)、認知症の進行に伴う身体機能の低下、難病やがんの末期による全身衰弱などが挙げられます。これらの要因はいずれも、早期発見と予防、そして適切な治療やリハビリ介入によって、寝たきり化の進行を抑えることが可能です。

参照:2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)

寝たきり状態と余命の関係

寝たきり状態と余命の関係 寝たきりになると、身体機能や免疫力が低下しやすく、感染症や栄養不良などさまざまな合併症が命に関わる要因です。こうした変化は余命に大きな影響を与えるため、寝たきり状態と余命の関係を理解することは重要です。

余命とは

余命とは、その時点から平均的にどれくらい生きられるかを統計的に示した期間です。医学的な余命は年齢や健康状態、基礎疾患、生活環境によって大きく異なります。寝たきり状態では、心肺機能や栄養状態、感染症のリスクなどが余命に大きな影響を与えます。

寝たきりになった場合の平均余命

寝たきりとなった場合の平均余命は、年齢や基礎疾患、栄養状態、合併症、介護環境などによって大きく異なり、一律に示すことはできません。厚生労働省の令和4年推計によると、日本人の平均寿命は男性81.05年、女性87.09年、健康寿命は男性72.57年、女性75.45年であり、その差は男性で約8.5年、女性で約11.6年です。この期間は日常生活に何らかの制限がある状態で過ごす年数を示しており、必ずしもすべてが寝たきりではありませんが、介護や医療的サポートを要する期間の目安といえるでしょう。

また、75歳時点での推計モデルでは、自立して生活できる期間を除く要介護期間は、男性で約1.6年、女性で約2.7年とされており、寝たきり状態となった後の余命は短い傾向が示唆されています。ただし、適切な医療・介護によって5年以上生活される方もおり、個々の状況に応じて大きな差があることに留意が必要です。

参照:健康寿命の令和4年値について(厚生労働省)

看取りが近い徴候とは

看取りが近い徴候とは 寝たきりの状態が続くと、やがて看取りの時期を迎えることも少なくありません。そのため、看取りが近いときに見られる兆候を理解しておくことは、家族が心の準備を整えるうえで大切です。

食事、水分の摂取が難しくなる

終末期には嚥下機能が低下し、食事や水分がうまく飲み込めなくなります。誤嚥による肺炎のリスクも高まるため、医師や看護師と相談しながら経口摂取の方法を調整します。

呼吸が浅くなる

死期が近づくと、呼吸が浅くゆっくりになったり、一定のリズムが乱れたりするチェーンストークス呼吸が見られることがあります。身体の酸素需要が減少しているサインでもあります。

意識の低下

日中も眠っている時間が増え、声をかけても反応が鈍くなることがあります。これは脳への血流や酸素供給が低下している状態を示します。

寝たきりの方が穏やかにすごすために家族ができること

寝たきりの方が穏やかにすごすために家族ができること 日常生活のなかでのちょっとした工夫や心配りが、寝たきりの方の快適さや尊厳を守ることにつながります。ここでは、自宅での介護で家族ができる具体的な工夫や、看取りに向けて準備しておきたいことを解説します。

自宅での介護のポイント

平成20年の調査によると「自宅で最後まで療養したい」と答えた方は1割程度にすぎませんでしたが、「必要時に医療機関を利用しながら自宅で療養したい」という回答を含めると、約6割の方が在宅療養を希望していました。しかし実際には、6割以上の方が「自宅で最期まで療養することは困難」と感じており、その理由として「介護する家族の負担が大きい」「症状が急変した際の対応への不安」「すぐに入院できるかの不安」「経済的負担」などが挙げられています。このように、希望と現実の間には依然として大きな隔たりがあります。

自宅での介護を継続し、可能な限り本人の希望に沿った看取りを実現するためには、日々のケアと体制づくりが欠かせません。褥瘡を防ぐための体位変換や体圧分散マットの使用、誤嚥性肺炎予防のための口腔ケア、脱水や低栄養を防ぐ栄養・水分補給、そして入浴や清拭による清潔保持は、寝たきりの方の健康と快適さを守るために欠かせません。

これらの日常的なケアに加え、訪問看護や介護サービスの導入、医師との事前相談による延命治療の方針確認、家族間での情報共有が重要です。終末期の在宅療養では、急変時に迅速に対応できる医療・介護の連携体制を整える必要があり、地域包括ケアシステムを活用しながら、患者さんと家族の意思を最大限尊重した支援を行うことが求められます。

参照:看取り(厚生労働省)

看取りに向けて必要な準備

看取りを自宅で行うためには、本人の意思を尊重しながら、医療・介護のチームが一体となって方針を決定し、支える体制を整えることが不可欠です。まず、本人の意思確認が可能な場合には、医師や多職種チームから病状や今後の見通し、治療やケアの選択肢について十分な情報を提供し、本人が主体的に判断できるよう支援します。その際、本人の考えや希望は時間の経過や体調の変化によって変わることもあるため、家族を交えた繰り返しの話し合いが必要です。話し合いの内容や決定事項は、その都度文書として記録し、関係者間で共有します。

一方で、本人の意思確認が困難な場合には、家族などがこれまでの生活や価値観から推定できる意向を尊重します。 また、看取りの準備では、疼痛や呼吸困難などの身体的な苦痛の緩和に加え、不安や孤独感などの精神的支援、介護負担や生活面への社会的支援を含めた包括的なケアが必要です。

このように、看取りに向けた準備は、本人の意思決定支援、繰り返しの話し合いと記録化、症状緩和と包括的支援を柱として進めていくことが重要です。さらに、地域包括ケアシステムのもとで、医療・介護・地域の関係機関が密接に連携し、急変時にも対応できる在宅療養体制を整えることが、安心して最期を迎えるための基盤といえます。

参照:人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省)

寝たきりになったときに受けられるサポート

寝たきりになったときに受けられるサポート 寝たきりの状態になると、介護や医療の支えが不可欠です。日本には介護保険制度をはじめ、在宅介護や施設入所を支えるさまざまな仕組みが整備されています。ここでは、寝たきりになったときに利用できる主なサポートを解説します。

介護保険制度によるサポート

日本では、高齢化の進展や核家族化の進行により、要介護高齢者の数と介護ニーズが年々増大しています。かつては家族による介護が中心でしたが、介護期間の長期化や介護者の高齢化などにより、従来の老人福祉・老人医療制度だけでは対応が難しくなりました。こうした背景を受け、介護を社会全体で支え合う仕組みとして1997年に介護保険法が成立し、2000年に施行されました。

介護保険制度では、40〜64歳の第2号被保険者と、65歳以上の第1号被保険者が対象となり、要支援・要介護状態と認定された場合に介護サービスを利用できます。現在、約628万人が制度を活用しており、その目的は高齢の方が住み慣れた地域でできる限り自立した生活を送れるよう、質の高いサービスを提供することにあります。

寝たきりの方の場合、多くは要介護4または5に認定され、介護保険を通じてさまざまな支援を受けることができます。主なサービスには、訪問介護(入浴・排泄・食事介助など)、訪問看護(医療的管理やリハビリ)、デイサービス(通所による機能訓練や入浴支援)、福祉用具レンタル(特殊ベッド、車椅子、体位変換器など)が含まれます。利用者の自己負担は所得に応じて1〜3割となっており、残りは公的保険で賄われます。

この制度は、今後も持続可能で安定した運営を目指し、在宅療養や地域包括ケアと連携しながら、寝たきりの高齢の方とその家族を支える重要な基盤となっています。

参照:介護保険制度の概要(厚生労働省)    介護保険制度について(厚生労働省)

介護医療院への入所

在宅介護が困難な場合、医療と介護を一体的に提供する施設として介護医療院への入所が選択肢のひとつです。介護医療院は、要介護高齢者の長期療養と生活を支えるために創設された新しい介護保険施設で、療養上の管理や看護、医学的管理のもとでの介護、機能訓練、日常生活の支援を総合的に行います。

背景には、高齢化の進行とともに、慢性期医療を必要とする高齢の方が増加し、既存の介護保険施設では対応しきれない医療ニーズが生じていたことがあります。これに対応するため、2017年の介護保険法改正により、住まいと生活を医療が支える新たなモデルとして介護医療院が制度化されました。

介護医療院には、医療機能が高いⅠ型(介護療養病床相当)と、介護中心のⅡ型(介護老人保健施設相当)の2類型があり、経管栄養や喀痰吸引などの医療処置、充実した看取り体制を備えています。生活の場としての側面も重視しており、プライバシー確保や家族・地域住民との交流促進が求められています。 また、地域包括ケアシステムの一環として、地域とのつながりを持ち、ボランティア受け入れや地域イベントへの参加など、開かれた施設運営を行うことが理念とされています。今後、増加が見込まれる医療ニーズの高い要介護高齢者に対して、医療と介護の両面から長期的な生活支援を行う重要な役割を担っています。

参照:介護医療院とは(厚生労働省)

まとめ

まとめ 寝たきり状態は、本人の生活の質だけでなく、家族の介護負担や精神的な影響も大きい状態です。余命は一概に予測できるものではなく、健康状態やケアの質によって大きく変わります。看取りが近づく兆候を理解し、医療や介護のサポートを活用しながら、できるだけ穏やかな時間を過ごせるよう備えていくことが大切です。

この記事の監修医師