胃がんの原因「ピロリ菌」は放置して勝手に消えることはある? 医師に聞いてみた

ピロリ菌は胃の粘膜に生息する細菌で、感染しても症状が出ないこともありますが、放置しておくとどのようなリスクがあるのでしょうか? そこで、ピロリ菌の感染症状や検査法などについて、渡辺隆文先生(白山内科外科クリニック)に解説してもらいました。

監修医師:
渡辺 隆文(白山内科外科クリニック)
あらためてピロリ菌って? 医師が解説

編集部
ピロリ菌とはどんな細菌ですか?
渡辺先生
ピロリ菌は「ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)」という螺旋形の細菌で、胃の粘膜に生息します。1980年代にオーストラリアのマーシャル博士とウォレン博士によって発見され、2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を使って胃酸を中和し、胃の中で定住することができます。
編集部
ピロリ菌はどれくらいの人が感染しているのでしょうか?
渡辺先生
世界中の約半数の人がピロリ菌に感染していると言われており、日本でも加齢とともに感染率が増加します。特に40歳以上では約7割の人が感染していると言われており、日本国内での患者数は3500万人にものぼるとされています。
編集部
ピロリ菌に感染しているとどんな症状が現れるのでしょうか?
渡辺先生
ピロリ菌に感染していても、自覚症状がない場合がほとんどで、気づいていない人も多いのが実情です。しかし、感染が続くことで慢性的な胃炎を引き起こし、胃の不快感や腹部膨満感、食欲不振、胃痛などの症状が現れることがあります。これが進行すると、胃粘膜が薄くなり、「慢性胃炎」や「萎縮性胃炎」になる可能性もあります。
編集部
ピロリ菌が原因となる疾患にはどんなものがありますか?
渡辺先生
ピロリ菌は、胃がんのリスクを高めるだけでなく、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、十二指腸炎、鉄欠乏性貧血など、さまざまな疾患の原因となります。ピロリ菌に感染した状態を放置すると、これらの疾患が発症・進行しやすくなるため、早期の発見と除菌が非常に重要になります。
ピロリ菌の感染とリスクについて

編集部
ピロリ菌の感染を調べるにはどうしたらいいですか?
渡辺先生
ピロリ菌の感染を調べる方法には、胃カメラを使用する方法と使用しない方法の2通りがあります。胃カメラを使うことで、直接胃の粘膜を観察し、ピロリ菌の有無を確認することができます。胃カメラを使用しない方法としては、血液検査や呼気テストなどもあります。選択肢が2つあるように感じるかもしれませんが、呼気テストなどは、胃カメラを受けてからでないと保険適用とはなりませんので、まずは胃カメラをおこなうことをおすすめします。
編集部
ピロリ菌を放置しておくとどうなるのですか?
渡辺先生
ピロリ菌を放置すると、胃の粘膜に慢性的な炎症が続き、粘膜が次第に薄くなります。これが進行すると、胃がんのリスクが高まります。また、ピロリ菌に感染し続けることで、胃の老化が進み、胃酸の分泌が減少して消化不良を引き起こすこともありますので、早期に除菌治療することが望ましいです。
編集部
胃の粘膜の状態はどうやって確認できますか?
渡辺先生
胃の粘膜が萎縮しているかどうかは、胃カメラで直接粘膜を観察することで診断できます。粘膜の萎縮が進行すると、胃酸の分泌が減少し、消化不良や不快感が生じやすくなります。また、進行した場合は「腸上皮化生」と呼ばれる現象が起きてしまいます。
編集部
腸上皮化生とは何ですか?
渡辺先生
腸上皮化生とは、胃の粘膜が腸の粘膜のように変化する現象です。これが進行すると、胃の健康状態が非常に悪化し、胃がんの発症リスクが高まります。腸上皮化生が進行すると、血液検査などでピロリ菌が陰性と診断されることもあり、この状態になると慢性胃炎がかなり進行している可能性が高いのです。
編集部
腸上皮化生になった場合、どうすればよいですか?
渡辺先生
腸上皮化生が進行すると、胃がんのリスクが高くなるため、早期に除菌治療をおこない、症状が進行しないようにすることが重要です。除菌治療後も、定期的に胃カメラで状態を確認し、進行を防ぐことが求められます。そうなる前に、ピロリ菌の感染が確認された段階で治療をしましょう。
ピロリ菌の治療方法は?

編集部
ピロリ菌の治療法はどのようなものですか?
渡辺先生
ピロリ菌の治療は、1種類の胃酸分泌抑制薬と2種類の抗生物質を組み合わせた3剤を1日2回、1週間服用することでおこないます。除菌治療をおこなうことで、胃がんのリスクを大幅に減少させることができます。治療後、再度検査をおこない、除菌が成功したかどうかを確認します。1回目の治療で75~90%の人が除菌に成功しますが、除菌できなかった場合は、2回目の治療がおこなわれます。
編集部
除菌できないこともあるのですか?
渡辺先生
そうですね。除菌できないこともわずかながらありますが、除菌が成功した後に再感染することはほとんどありません。1回目の治療で成功しなかった場合は、再度治療をおこなうことができ、2回目でも除菌できなかった場合は3回目に進みますが、3回目からは保険が適用されず、自費診療となりますのでご注意ください。
編集部
ほかに、治療について知っておいた方がよいことはありますか?
渡辺先生
抗生物質、特にペニシリン系のアレルギーがある人は、自費で別の薬剤を使う可能性があります。また、再発した場合なども、別の抗生物質を使用することもありますので、定期的な検査を受け、早期に対応することが重要です。
編集部
治療中に気をつけるべきことはありますか?
渡辺先生
治療中はアルコールを控えることが重要です。また、薬を自己判断で中止すると、治療効果が得られないだけでなく、ピロリ菌が治療薬に耐性を持つ可能性があります。治療薬の服用は医師の指示通りにおこない、治療を完了することが大切です。
編集部
最後にメディカルドック読者へのメッセージがあればお願いします。
渡辺先生
ピロリ菌の除菌により、日本における胃がんの発生率は大幅に減少しています。胃がん予防のためには、検診を活用してピロリ菌の有無を確認し、陽性が確認された場合は早期に対処することが重要です。胃がんの予防、さらには早期発見のためには、定期的な胃カメラ検査の受診が欠かせません。特にご家族にピロリ菌感染が指摘された人がいる場合はすぐに受診するようにしましょう。
編集部まとめ
ピロリ菌は、胃がんや胃炎、胃潰瘍などの疾患を引き起こすリスクがあり、早期に治療をおこなうことが重要なのだそうです。検査方法には胃カメラや呼気テストなどがあり、除菌治療をおこなうことで胃がんのリスクを大幅に減らすことができます。定期的な検査と治療を通じて、胃の健康を守りましょう。
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