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親の介護はどこでする? 遠距離・近距離・同居のメリット・デメリットを介護福祉士が解説

 公開日:2023/03/15
親の介護はどこでする? 遠距離・近距離・同居のメリット・デメリットを介護福祉士が解説

2022年に高齢化率が29%を超えた日本。親の介護について不安に思っている方も多いと思います。親が介護を必要とする状態となったとき、どのような住まい・方法で支えたら良いでしょうか。今回、親の介護に伴う3つの住まい・方法の特徴と、様々な負担等について、現役の大学教員であり、介護福祉士の資格を有する林さんに解説していただきました。

林 修造

監修介護福祉士
林 修造(介護福祉士)

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現役の大学教員として社会福祉士・介護福祉士の養成教育に携わる。福祉人材の教育は約20年のキャリアがあり、医療・介護・福祉だけでなく、年金や健康保険などの社会保障にも精通している。大学で教鞭を取る傍ら、福祉系専門学校の非常勤講師を務め、福祉系の国家試験応援ブログで情報を発信するなど、多方面で活躍中。

親の介護をおこなう際の3つの住まい方、それぞれのメリット・デメリットを解説

親の介護をおこなう際の3つの住まい方、それぞれのメリット・デメリットを解説

編集部編集部

そもそも親の介護は何歳から始まりますか?

林 修造さん林さん

一律に「○歳から介護が始まる」とは言えません。なぜなら、年齢や健康状態、病気の有無など、人によって介護を必要とする状態(以下、要介護状態)になる時期が異なるからです。厚生労働省の「介護給付費実態統計の概況」によれば、65~69歳で介護が必要になるのは約2%、75~79歳の場合は約8%、80~84歳は約18%という結果でした。よって、親の年齢が70代前半頃から介護に備えるべきでしょう。

※厚生労働省「介護給付費実態統計の概況(令和3年5月審査分~令和4年4月審査分)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/kyufu/21/index.html

編集部編集部

親の介護をしないとどうなるのでしょう?

林 修造さん林さん

親子は民法上で互いに扶養義務があり、親が要介護状態になった場合には、特別な事情のある場合を除き、子には扶養する義務が生じます。ここでいう「扶養」とは、身上の面倒をみるだけでなく、経済的な支援をすることも含まれます。扶養の義務を負っている子が、特別な事情なく親の面倒をしない場合は、刑事罰の対象となることもあります。よって、親の介護問題は、決して一人で抱え込まずに公的介護保険サービスを利用するとともに、兄弟姉妹等がいれば協力・分担することが大切です。

編集部編集部

親の介護が必要になった際、どのような住まい方が良いのでしょうか?

林 修造さん林さん

「遠距離」「近距離」「同居」のそれぞれでメリット・デメリットがありますので、各々紹介していきます。まず「遠距離」ですが、これは都心部に住む子どもが、週末を使って地方に住む親の元を訪ねて介護するケースですね。親が要介護状態になったとしても、お互いの生活を尊重できるメリットがある一方で、介護が長期化すると、身体的・精神的・経済的な負担が重くのしかかるデメリットがあります。よって、介護を要する期間が長期化する場合には、「近距離」「同居」を検討するのが良いでしょう。

編集部編集部

近距離で親を介護する「近距離介護」の特徴を教えて下さい。

林 修造さん林さん

例えば、親が住む家の近くに子どもが引っ越すケースですね。お互いの距離が近ければ、頻繁に行き来することができるため面倒をみることがメリットです。しかし、認知症の進行など、心身状態が悪化して一人暮らしが困難になると、常時介護が必要な状態になり、近距離でも別居での介護が困難になることが考えられます。

編集部編集部

同居で親を介護する「同居介護」はいかがでしょう?

林 修造さん林さん

これまでは別々に住んでいたけれども、親の要介護状態が悪化してしまったことをきっかけにして、同じ世帯に住むようになるケースですね。親の住む実家に子が引っ越すケースもあれば、都心部に住む子が親を引き取ることもあります。同居することによって親の健康状態を把握することができる一方で、同居自体がお互いのストレスとなったり、子が介護費用の負担をしなければならなかったりする場合があります。また、環境の著しい変化によって親が認知症を発症する恐れがあります。その他、家屋が高齢者にとって住みやすい環境ではない場合があるため、段差解消スロープの設置や、屋内に手すりを設置するなど、住宅改修が必要となります。

親の介護によって生活はどのように変化する?

親の介護によって生活はどのように変化する?

編集部編集部

親の介護によって、私たち現役世代の生活はどのように変化しますか?

林 修造さん林さん

遠距離介護の場合には、週末に実家を訪問するため時間的・経済的な負担が大きくなります。また、近距離・同居の場合には引っ越し費用がかかるうえ、これまでの生活習慣の変更が余儀なくされます。親の介護を理由に仕事量をセーブしたり、これまで貯金に回していたお金を介護費用に充てたりするなどの変化が起こるでしょう。場合によっては介護離職をせざるを得ない状況になるかもしれません。このように、親の介護問題は、私たち現役世代の社会的役割の変更・喪失などに影響を与える恐れがあります。

編集部編集部

親の介護に伴い、どのような負担がありますか?

林 修造さん林さん

介護には3つの負担を伴います。経済的負担身体的負担精神的負担です。経済的負担とは、親の介護費用がかさみ、子がそれを負担して生じる経済的損失のことです。親の介護にかかる費用は、親の貯めた資金や年金から出すのが理想的ですが、十分な貯蓄や年金が無い場合は子が一部を負担することになります。

編集部編集部

身体的負担と精神的負担についても詳しく教えてください。

林 修造さん林さん

身体的負担とは、親の身体を介護することによる疲労や腰痛などを指します。また、遠距離介護の場合は、移動に伴う疲労の蓄積もこれに含まれます。精神的負担とは、親の介護に伴う精神的ストレスです。これまでは自分の都合に合わせて時間やお金を使っていたのが、それが難しくなります。また、親の介護問題は先行きが見通せない(ゴールが見えにくい)ため、漠然とした不安を抱えてしまいます。

編集部編集部

親の介護ではお金がいくらかかるのですか?

林 修造さん林さん

親の要介護状態や、受給する介護サービスの量によって異なるため一律に「○○円」とはいえません。調査結果によると、介護にかかる月額費用の平均は約8万3000円で、一時的な費用(住宅改修や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用)の平均は約74万円だったというデータがあります。親が介護を受けながら自宅で生活するのか、施設に入所して生活を送るのかによって費用は大きく異なります。介護は長期化する傾向にあるため、より一層の経済的な備えが必要です。

「親の介護」と「自分の生活」を両立するためのポイントを解説

「親の介護」と「自分の生活」を両立するためのポイントを解説

編集部編集部

親の介護と自分の生活を両立するためのポイントがありましたら教えてください。

林 修造さん林さん

親の介護と自分の生活を両立するためには、前述した3つの負担をそれぞれ軽減することが重要です。これらの負担を少なくするためには、介護保険サービスの利用は欠かせません。最寄りの地域包括支援センターに相談すると、適切な介護サービスの利用につなげてくれます。子が仕事をしている場合には、介護休業給付(介護のために休暇を取り、仕事を辞めずに済む)の取得を検討しましょう。

編集部編集部

介護保険サービスを利用するには、どうしたらいいですか?

林 修造さん林さん

介護保険制度は、介護が必要な高齢者が自宅や施設で様々なサービスを受けられるように組み立てられていますが、利用のためにはお住まいの市町村へ申請することから始まります。申請の仕方が分からない、いきなり市町村へ行くのは抵抗があるという方は、最寄りの地域包括支援センターに相談に行きましょう。こちらでは福祉・介護の専門職が相談に応じてくれて、適切な介護保険の利用を支援してくれます。

編集部編集部

介護の問題・悩みを誰に相談したらいいですか?

林 修造さん林さん

高齢者の介護問題を専門に扱う相談機関として、地域包括支援センターを利用すると良いでしょう。同センターには、保健師・社会福祉士・介護支援専門員(ケアマネジャー)が常駐しており、介護に関する相談に応じてくれるだけでなく、各種申請の代行もしてくれます。親の介護に悩む子にとっては、とても心強い相談機関だといえます。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

林 修造さん林さん

老親の面倒をどのようにみていくのか、子にとっては悩みの多い課題です。家族だけで要介護高齢者の面倒を見るのは困難であるため、介護保険や介護休業等の制度をうまく利用して、親の介護と自分の生活の両立を図りましょう。

編集部まとめ

親が要介護状態になった時、決して一人で抱え込まずに、地域包括支援センターなどの専門機関に相談することが重要だと知ることができました。また、親の介護に伴って、様々な変化や負担があることが分かりました。遠距離・近距離・同居といずれの形態を選択したとしても、適切に介護保険サービスを利用することで、親の介護と自分の生活の両立が図れればいいですね。

この記事の監修介護福祉士