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過活動膀胱治療の最終手段である「ボトックス療法」、最初から受けられないワケとは

 更新日:2023/03/27

ボトックス療法」で膀胱の筋肉を麻痺させれば、それほど頻回に尿意が感じられなくなるはずです。薬と違って成分が全身に行き渡ってしまうこともなく、ピンポイントで患部を狙うことができます。では、どうして治療方法の第一選択肢にならないのでしょうか。その理由を「馬車道さくらクリニック」の車先生に伺いました。

車英俊

監修医師
車 英俊(馬車道さくらクリニック 院長)

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防衛医科大学校卒業。防衛医科大学校病院や各大学病院などで臨床を重ねた後の2013年、神奈川県横浜市に位置する「馬車道さくらクリニック」を継承。前立腺がんを中心とした内科のほか、皮膚科にも注力している。日本泌尿器科学会認定専門医。日本癌治療学会、日本皮膚科学会、日本排尿機能学会、日本性機能学会の各会員。

標準治療の初手は「尿意コントロール」から

標準治療の初手は「尿意コントロール」から

編集部編集部

トイレを見ると、意識していなかったのに尿意が襲ってくることがあります。

車英俊車先生

尿意はメンタルと大きく関係しているので、あるとき突然やってきます。それ以外に、旅行先などでトイレがないと不安になる人もいらっしゃるのではないでしょうか。このように、たびたび“切迫感”を感じるようなら、「過活動膀胱」かもしれません。

編集部編集部

膀胱に尿がたまりきっていないのに「尿をしろ」という命令が出てしまうのですか?

車英俊車先生

はい、それがまさに過活動膀胱です。一般に、「日中、8回以上オシッコに行く」、「たびたび夜間の尿意で起きてしまう」、「トイレに行く前に尿を漏らしてしまう」などの傾向がみられると、過活動膀胱を疑います。国内での有病率は約8人に1人で、40歳以上に顕著です。

編集部編集部

診断はどうやって付けるのですか?

車英俊車先生

OABSS」という専用の質問票の点数によって判断します。ですが、ご本人のお悩みに関する領域ですので、基本的にご本人の申告が優先されます。どちらかというとメンタルが関わってきますから、臓器などを調べて鑑別するという話でもないでしょう。症状があれば、過活動膀胱として治療を進めていきます。

編集部編集部

有効な治療方法はあるのですか?

車英俊車先生

「過去にやってしまった失禁が怖くて、外出できない」というような強いトラウマをおもちでない限り、まずは行動療法を試みます。「トイレに行きたくなっても、ちょっとだけ我慢してみよう」といったトレーニングですね。それでも改善が見られない場合や、トラウマで行動療法に入れない場合、投薬治療などのほかの手段を考えていきます。

ボトックス療法の仕組みと、気になる副作用

ボトックス療法の仕組みと、気になる副作用

編集部編集部

そして、飲み薬の次の手段が「ボトックス療法」だと?

車英俊車先生

そうですね。ボトックス療法は、磁気刺激療法などもある中での治療選択肢の1つです。頻尿の原因は「膀胱の異常な収縮」ですから、ボトックスの力で収縮を抑えていきます。なお、ボトックスを「毒」だと誤解されている人が多いのですが、正式には違います。「毒から抽出された、筋肉を麻痺させる成分」です。

編集部編集部

副作用はあるのでしょうか?

車英俊車先生

血尿や尿路の感染症、排尿困難、残尿感などの報告があります。排尿困難による自己導尿のリスクなどにご同意いただけないと、ボトックス療法を見送らせていただきます。自己導尿とは、患者さん自らが尿道内にカテーテルを挿入して「尿を吸い取る」方法のことです。

編集部編集部

ボトックス療法によって、膀胱の収縮反応が“抑えられすぎる”わけですか?

車英俊車先生

そういうことですね。ボトックス療法の効果は、一度出てしまうと「好ましい・好ましくない」に関わらず、約半年の間続いてしまいます。このこと自体もリスクの1つといえるでしょう。

外出できないような人には「間違いなく」朗報

外出できないような人には「間違いなく」朗報

編集部編集部

ボトックス療法が受けられない人っているのでしょうか?

車英俊車先生

いらっしゃいます。必ずしも全ての人が受けられるとは限りません。例えば、全身の筋力低下が起きている人の場合、より排尿困難に陥りやすいです。また、妊娠予定や妊娠中の女性も、お断りしています。医薬品の治験は、わざわざ妊婦さんを選んでまで実施しないため、臨床データがありません。よって、薬全般にいえることですが、「安全性が示されていないので、妊婦さんは禁忌」という結果論になりがちです。

編集部編集部

治療後の注意点はありますか?

車英俊車先生

とくに注意することはないのですが、残尿量が増えることがありますので、事前に医師の説明をよく聞いてください。先述したような副作用がみられたら、ただちに施術した医療機関を受診しましょう。

編集部編集部

アナフィラキシーショックなども起こり得るのでしょうか?

車英俊車先生

昨今、新型コロナウイルス感染症に関連して注目されているキーワードですよね。薬やワクチンに対する過剰反応のことですが、ボトックス療法でも起こり得ることです。そこで、治療後は、一定時間、院内で様子を見させていただきます。ただし、ボトックス療法は美容分野でも幅広く取り扱われている「歴史の長い治療方法」です。30年以上の積み重ねがありますので、ご安心ください。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

車英俊車先生

ボトックス療法は投薬療法と比較して、患者さんによっては劇的に効く治療法です。とくに、「外出できないようなトラウマ」を抱えている人にとっては、まさに福音ともいえるでしょう。その実感がご自身で感じ取れますし、「外出できるようになって性格的に明るくなった」というようなメンタルに好印象な副次効果もみられます。施術して気に入ったら、繰り返し試してみてください。

編集部まとめ

過活動膀胱のボトックス療法は、行動認知療法や投薬療法を試みられない人、あるいは、その効果が認められない人に向けた治療選択肢ということでした。なぜなら、レアケースではあるものの、膨張が収縮してくれない尿閉のリスクを伴うからです。しかし、患者さんによっては「劇的に効く」治療方法として受け入れられているとのことです。上記で悩んでいるのであれば、検討してみてはいかがでしょうか。

医院情報

馬車道さくらクリニック

馬車道さくらクリニック
所在地 〒231-0011 神奈川県横浜市中区太田町6-73 コーケンキャピタルビル2F
アクセス みなとみらい線「馬車道駅」 徒歩2分
診療科目 泌尿器科、皮膚科、内科

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