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~新型コロナ闘病体験記~ 「感染者」になっても「拡散者」にならずに済んだワケ

 更新日:2023/03/27
新型コロナウイルス「感染者」になっても「拡散者」になるワケにはいかなかった

都内で子ども向けレッスンスクールを営む40代男性の山田さんは、遠くもなく近くもない、半端な距離感で新型コロナウイルス感染者が出たのちに、自身も感染者となりました。結局、山田さんの感染経路は定かではありません。ただ山田さんは、経営者としてわずかなリスクでも回避するべきと考え、“身近”で感染者が出てから発症までの10日間、「もしかしたら」に備えて自分の行動を可能な限り引き締めました。後に自らの感染が発覚し、結果としてその判断は吉と出ました。これはまだワクチン接種が十分に実施できていない日本国内における、ただ治癒を目指しただけに留まらない、新型コロナウイルスとの闘病体験記です。※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年5月取材。

山田さん

体験者
山田さん(仮名)

プロフィールをもっと見る
東京在住、1977年生まれ。結婚し、妻と2人の息子との4人暮らし。都内などで子ども向けに技術レッスンスクールを開校している経営者。4月下旬に新型コロナウイルス感染者となる。感染当初はホテル療養となったが、容態が悪化して入院。3週間におよぶ新型コロナウイルスとの闘いを終え、現在は後遺症に時おり苦しめられながらも退院して日常生活を再開したばかり(取材は退院1週間後)。
井林 雄太

記事監修医師
井林 雄太 先生(田川市立病院)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

「濃厚接触者」ではなかった息子と一緒に新型コロナに感染

「濃厚接触者」ではなかった息子と一緒に新型コロナに感染

編集部編集部

新型コロナウイルスに感染することになった経緯を教えてください。

山田さん山田さん

我が家では、次男と私が感染しました。子どもたちの学校(長男も同じ学校)で感染者が出たしばらくあとのことでしたが、子どもたちは濃厚接触者ではありませんでしたので、小学校の関係者に感染者が出たことと、息子と私の感染に関連があるかは定かではありません。ですが、それを否定する事実も示されていません。

編集部編集部

学校で感染者が出たとの一報を受けて、生活や仕事などのやり方を変えましたか?

山田さん山田さん

4月中旬ごろにその連絡を受けてから、罹患する4月下旬までにPCR検査は2度、ほかに抗原検査や抗体検査を受けました。家族にも同様に複数回受けさせましたし、私の経営するスクールも私と、私と関わりのあった数名の講師はオンライン授業にしました。家庭内では子どもたちがまだ親の手放しで生活できない年齢なので、隔離するなどの教育上過度な対策はしていません。ただ息子たちの学校もオンライン授業に切り替わっていたので、他者に移してしまうようなことはしていないはずです。

編集部編集部

検査を何度も受けていますが、それはなぜだったのでしょうか?

山田さん山田さん

自分のスクールで生徒さんに広めてしまうことは絶対にしてはいけないと考えていましたので、まずは一家が感染しているかどうかをはっきりさせたいと考えていました。また、息子たちが通う学校は、ものすごく感染対策への意識は高いのですが、コミュニケーションを大切にするような校風なので、油断せずにリスクの排除を徹底しようと思いました。

編集部編集部

どのように新型コロナウイルスに感染しているとわかったのですか?

山田さん山田さん

4月末に私自身が2度目のPCR検査を受けまして、その数時間後に検査を受けた施設から陽性の連絡があったんです。その日の朝の体調はいたって普通だったのですが、連絡を受けるころには発熱のどの違和感があったので、結果を聞いたときは「やはりそうだったか」という感じでした。

編集部編集部

感染が判明した後、どのような運びとなりましたか?

山田さん山田さん

入院するかホテル療養の2つの可能性がありましたが、それは発熱の状況次第ということだったようです。私の場合、その判断をされる前日は38度を超えていたのですが、当日の朝には下がっていたので、一旦ホテル療養ということになりました。翌5月1日にホテルへ入る時には、背中にひどい痛みがあり、体もだるさを感じるようになっていました。

新型コロナウイルスとの闘病生活スタート

新型コロナウイルスとの闘病生活スタート

編集部編集部

ホテル療養生活はどのようなものでしたか?

山田さん山田さん

私の場合、処方してもらっていた薬などを服用しながら過ごしました。毎日、看護師さんから2回(悪化時は4回)部屋の電話に連絡があるので、体温やパルスオキシメーターで測った血中酸素の数値、その日の容態を報告し、症状に応じたアドバイスなどを受けながら生活をしていました。食事は出してもらえます。症状が悪化していない人なら、パソコンを持ち込んでバリバリ仕事できるような環境だと思いますし、私もそうしようと思っていたのですが、症状が悪化してそれどころではなくなりました。

編集部編集部

どのように悪化していったのでしょうか?

山田さん山田さん

最初に感じた背中の痛みやだるさは、風邪で高熱が出たときに節々が痛くなったり、体が重くなったりするような感覚と似ていました。それも最初はカロナール(解熱剤)という薬で収まっていたのですが、次第に効かなくなっていきました。やがて、何度も吐き気を催し、食欲もなくなり、夜は眠れなくなるなど、最悪の状態になっていきました。なによりも苦しめられたのが頭痛です。ホテル滞在5日目になると、呼吸も苦しくなってきました。部屋のトイレに行くだけで呼吸が乱れるほどです。

編集部編集部

ホテル療養は、あくまで自己での体調管理なのですか?

山田さん山田さん

看護師さんからは電話で毎日親切にアドバイスなどをもらえましたが、基本的に誰からも直接的な施しを受けることはありませんでした。この後ホテルから入院に切り替わりますが、全期間の中で体調面、精神面ともにホテル療養の最後の数日が最も辛い時期でしたね。

編集部編集部

どのようにして入院に切り替わったのでしょうか?

山田さん山田さん

私の場合は熱が39度近くに上がり、看護師さんとの会話でも息苦しさを訴えていました。また、パルスオキシメーターの数値も下がっていたこともあって、総合的に判断してくれたのかもしれません。入院してからというもの、すぐに先生に診てもらえて、看護師さんが身近で気にかけてくれているという安心感は、ものすごいものがありました。

編集部編集部

入院後、病状はすぐに回復していきましたか?

山田さん山田さん

そうはなりませんでした。そこからは再び熱が出たり、息苦しさや吐き気を催したりといったことが続きました。そのときが発症から10日ほど経過したころだったのですが、主治医の先生は一気に悪化しなければ想定内で、そこから回復に向かうと見ていたそうです。

編集部編集部

病院ではどのような治療を受けましたか?

山田さん山田さん

入院した日からCT検査やレントゲン検査、血液検査などがあり、そこから定期的に受け続けることになりました。検査の結果、肺炎の症状がかなり重く、ひどいときには酸素投与(鼻カニューレ)を受けました。薬はアビガン(抗インフルエンザウイルス剤)、カロナールを常用し、時おり吐き気を催すことが続いていたので、吐き気止めも頓服していましたね。検査結果が悪くなっていたのは、治っていく過程で起こり得ることだったらしく、心配するレベルではないと説明を受けました。

編集部編集部

血液検査は問題なかったのですか?

山田さん山田さん

検査で血栓ができやすくなっていることがわかり、予防のための注射を1日3回打ってもらうようになりました。これに関して、私自身の体調になんら異変や痛み、自覚はなかったです。先生からは血の流れを良くするためにもずっと安静にしているよりは、少しでも体を動かすことを勧められていたので、手洗いに行ったり、シャワー浴びたりなど、自分でできるところは頑張って動くようにしました。その頃ちょうど新型コロナウイルスに対して苛立ちのような感情が芽生えてきていたこともあり、余計に動けたのかもしれません。すると次第にできることが増えていき、体調が良くっているような感じがありました。気分も楽になりましたね。

編集部編集部

結局、どれくらい経って回復に向かったのでしょうか?

山田さん山田さん

入院して9~10日ほど経ってからです。その後、一度薬の副作用で体にだるさを感じるようになりましたが、服用をストップすると、2日ほどでそれも感じなくなりました。そして5月20日に、晴れて退院することができました。

医療従事者への感謝と新型コロナウイルスの拡散リスク

医療従事者への感謝と新型コロナウイルス拡散のリスク

編集部編集部

退院から1週間ほど経って、体調の方はいかがでしょうか?

山田さん山田さん

悪化のピーク時と比べてかなり回復しましたが、少し早歩きをする場面でまだ息が上がって、すぐには呼吸が戻らないようなことはあります。

編集部編集部

新型コロナウイルスの闘病生活を終えて、今の想いを教えてください。

山田さん山田さん

医療従事者の方々には感謝の気持ちしかないです。看護師さんは親切だったし、そこで救われた部分は非常に大きいです。主治医の先生は、毎日コミュニケーションを取ってくれました。説明は楽観的すぎる訳でもなく、それでいて不親切でもなく、簡潔にロジカルに必要最低限の情報を与えてくれていた印象です。ネガティブな予測などでも正直に話してくれて、すごく信頼できましたね。あと、会社のスタッフが頑張って私の不在をカバーしてくれました。闘病生活当初はすごく不安もありましたが、すごく良くやってくれてとても助かりました。

編集部編集部

感染後の経営判断も大変だったのではないですか?

山田さん山田さん

かなり難しかったです。ただ、大切なお子さんを預かって仕事している以上、コロナを拡散させてしまうリスクを徹底排除すべきでしたし、保護者さんとの信頼関係は築けている自信はあったので、まだ感染の可能性があるという段階で、正直に状況をお知らせしました。後日、「実はあのときコロナのリスクがありました」と発表したり、隠していて発覚したりすることはスクールの信用をガタ落ちさせる行為だったと思います。

編集部編集部

感染者への対応や医療体制などに改善を望むことはありますか?

山田さん山田さん

私の場合、入院してからものすごく安心感を得られた一方で、外界との接触を断たれ、孤独の中で過ごすホテル療養期間の不安はものすごく大きかったので、そこの落差がなくなると良いのかなと思います。症状が悪化しない人には問題ないと思いますが、悪化する人にとってはもう少し直接的なケアをしてもらえると精神的な安定につながるのではないでしょうか。

編集部編集部

新型コロナウイルスについて読者に伝えたいことはありますか?

山田さん山田さん

感染した場合はもちろんですが、その疑いのある人は、自分が他人に拡散させないように務めてほしいです。PCRなどの各種検査は受けるのが早すぎたり、時期が適切でなかったりすれば、正しい結果は得にくいので、検査後の行動によって感染を拡大させてしまいかねません。偽陰性ということだってあります。なので、新型コロナウイルスにはどんなリスクや可能性があるのかを広く知っておいてもらいたいですね。あと、シンプルにコロナはしんどいよってことは言いたいです。世間的に、「若い人は平気で高齢者は重症化しやすい」と言われますけど、私はちょうどその中間ぐらいの40代ですが、私が体感したコロナはかなり辛いものでしたということです。

編集部まとめ

自身や近親者が保健所から「濃厚接触者ではない」と告げられたからといって、必ずしもその結論に疑いの目を持つ必要はないでしょう。しかし、新型コロナウイルス感染症に対する正しい知識を持って行動しなければ、他人を感染させてしまうリスクがあることを日々肝に銘じたほうが良さそうです。家族・仲間・仕事など、大切にしている何かを守るためには、参考にする価値がある向き合い方と言えるのではないでしょうか。

この記事の監修医師