保険適用された「性転換手術」が、実際ほとんど実施されていないのはなぜ?

※この記事は2019年10月時点の取材データをもとに作成しております。

【理由1】国内で4院のみという立地上の問題

編集部
2018年から保険適用となった「性別適合手術」ですが、どのような医院でも費用負担してもらえるのでしょうか?
苅部先生
いいえ。岡山県の岡山大学病院と光生病院、北海道の札幌医科大学病院、山梨県の山梨大学病院の4院のみです。GID(性同一性障害)学会が「安全に手術できる施設」として認定し、国もこの4院のみに対し保険の適用を認めています。
編集部
国内ではたった4院だけなのですか?
苅部先生
※2019年11月現在
編集部
交通費を考えると、最寄りの医院で自費というパターンもありえますね?
苅部先生
簡単な手術であれば、保険による費用負担のメリットが薄くなるでしょう。最初のカウンセリングから手術を経て経過観察するとなると、複数回通院することが前提になりますからね。しかしながら、これが現状です。
【理由2】混合診療という制度上の問題

編集部
先ほど、保険適用の割合が1割とのことでしたが?
苅部先生
外科手術と並行して自費のホルモン療法を用いることが多く、そうなると、制度上、保険を適用できません。ホルモン療法そのものは有効で、かつ、早くヒゲを生やしたいなど、患者さん側から望まれることもあります。問題なのは、詳しい説明がなされないまま、先行してホルモン療法を用いるケースです。ホルモン療法を1回でもおこなってしまったら、続く性別適合手術は自費になってしまうのです。
編集部
どういうことでしょう?
苅部先生
保険診療には「保険の枠組みの中だけでおこなう」という原則があります。不必要な自費診療が上積みされると、患者さんの金銭負担を拡大させてしまいますよね。また、安全性・有効性の確認されていない医療行為を横行させかねないでしょう。よって、「保険診療+自費診療」は認めず、すべてひっくるめて自費にしますよという、混合診療ルールが存在しているのです。
編集部
今回の場合、自費のホルモン療法が関わってくるわけですね?
苅部先生
そのとおりです。ホルモン療法の場合、1回3000円程度ですから、比較的、負担を感じないと思います。しかし、十分な説明を受けないまま治療すると、混合診療ルールに抵触してしまうのです。
編集部
その一方、ホルモン療法が不要だったケースも1割あったのですよね?
苅部先生
事実そうなのですが、過去40例の結果からすると、併用を前提に考えておいたほうがいいでしょう。たしかに、国の周知不足や医師の説明不足は否めません。しかし、国内の法整備が追いついていない現状では、後で「自費なの?」と気づかされるより、先に「自費もやむなし」と覚悟しておいたほうが無難だと思われます。
【理由3】複雑ないきさつをはらむ歴史上の問題

編集部
認定医院以外でおこなう性別適合手術は、合法に認められているのですか?
苅部先生
(※)特例法3条の一部抜粋4 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。 5 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
編集部
複雑な経過の末というと、反対意見などが多かったのでしょうか?
苅部先生
別途、「優生保護法」の第28条に「故なく、生殖を不能にすることを目的として手術又はレントゲン照射を行ってはならない」という定めがあったからです。この縛りのために、「性別適合手術は違法」とみなされてきました。
編集部
それが、2004年の特例法を機に、ガラリと変わったと?
苅部先生
そういうことですね。しかし、医師として人道的にどうかという疑問は残ります。概念的な定義が先行して、現実の運用を置き去りにしていないでしょうか。何より、医療行為の是非には触れていないのですから。本来なら、枠組みと運用を同時に煮詰めていくべきであり、「急ごしらえ」の感が否めません。
編集部
こうした社会的背景も、実施の障害になっているのでしょうか?
苅部先生
まず、手術を受けたとしても、戸籍変更が認められるかどうかはわかりません。治療の結果を受けて、別個に審査されます。次に、親権や相続の問題など、整備の行き届かない法律の壁が、まだまだ大きく立ちはだかっています。安心して手術が受けられる環境とはいえないでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
苅部先生
多くの方が情報不足でお悩みだと思います。私自身、保険の適用が認められている山梨大学病院で手術を受けもっておりました。関東近郊の方なら、私が院長を務めている「麹町皮ふ科・形成外科クリニック」へ直接、ご相談ください。カウンセリングやアドバイス目的だけでも、全く構いません。
編集部まとめ
国内に4院という「立地上の問題」、安全性を求めた結果として縛りが裏目に出た「制度上の問題」、法整備が時代に追いついていない「歴史上の問題」。少なくともこの3点が、性別適合手術の保険適用を阻んでいるようです。ほか、取材時にはありませんでしたが、世間の目や親の理解といった要因もあるでしょう。私たちの世論は、こうした障害をはねのける力になりえます。正しい理解の元、誰にとっても生きやすい社会を築いていきましょう。医院情報
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| 診療科目 | 美容外科、美容皮膚科、形成外科 |




