体と心の性を一致させる「性別適合手術」とはどんな治療?

すでに国内で2万人を越しているという性同一性障害の受診者。そのような患者に向けた治療方法の一つが、身体的な特徴を手術によって付する「性別適合手術(性転換手術)」です。はたして、どのような手術を用いるのでしょう。実際に執刀をおこなっている「麹町皮ふ科・形成外科クリニック」の苅部先生を取材しました。
監修医師
苅部 淳(麹町皮ふ科・形成外科クリニック 院長)
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順天堂大学医学部卒業。東京大学附属病院形成外科入局後、埼玉医大総合医療センター形成外科・美容外科助教、福島県立医大付属病院形成外科、寿泉堂総合病院形成外科、山梨大学附属病院形成外科助教・医局長などを歴任。2019年、東京都千代田区にて「麹町皮ふ科・形成外科クリニック」を継承・リニューアルオープン。皮膚科、形成外科疾患の一般治療ほか、リンパ浮腫治療や性同一性障害の治療なども手がけている。日本形成外科学会専門医、日本抗加齢学会専門医、日本医師会認定産業医。日本美容外科学会、日本美容皮膚科学会、日本顔面神経学会、日本東洋医学学会などの各会員。

編集部編集部

「性別適合手術」の具体的な内容を教えてください。
苅部先生
一般的に「性転換手術」と呼ばれることもありますが、医学的には「性別適合手術(Sex Reassignment Surgery:SRS)」といい、基本的に「性器の手術」を指します。性器に該当しない乳房の切除術などは、性別適合手術に含めないのが通例です。

編集部編集部

さらに詳しく知りたいです。
苅部先生
まず、身体的に男性の方が女性への性別移行を望む場合をMTF(Male to Female)、逆の場合をFTMといいます。MTFの場合は、精巣摘出術、陰茎切除術、造腟術、外陰部形成術などをおこないます。FTMの場合は、卵巣摘出術、子宮摘出術、尿道延長術、腟閉鎖術に加え、陰茎形成術をします。どちらの場合でも、性機能や排尿機能などを兼ね備えた本格的な性器です。

編集部編集部

希望すれば、誰でも受けられるのですか?
苅部先生
基本的にはそうですが、保険の適用を受けるとしたら、2 人の精神科医から、それぞれ性同一性障害と診断される必要があります。一方、自費で手術する場合は、医師と患者さんの間で合意が得られれば可能です。
編集部編集部
性同一性障害の診断に統一された基準などはあるのでしょうか?
苅部先生
あります。アメリカ精神医学会が定めた『DSM-Ⅳ』というマニュアルを、国内でも準拠しています。加えて、もともとどちらの性別なのかという「身体的性別の判定」、統合失調症などの精神障害ではないことを裏付ける「除外診断」が必要です。

メンタルフォローも含め、十分な助走期間を

編集部編集部

「性同一性障害」と診断されれば、外科手術に進めるわけですね?
苅部先生
絶対的な条件ではないものの、上記に加え7項目を確認していきます。簡単に整理すると、以下のようになります。

①手術後も健康かどうか
②希望する性別での生活を実際に続けているか
③手術と前後した休暇が取れるか
④周囲の理解を得られているか
⑤手術を受けることに文書で同意しているか
⑥ご家族やパートナーへ医師から説明をしているか
⑦本人の年齢が20歳以上かどうか

編集部編集部

治療に含まれるのは、外科手術だけでしょうか?
苅部先生
心の問題にどう整理を付けていくかが問われるでしょう。①患者に対する共感や理解、②周囲への知らせ方、③実生活の経験、④精神の安定などを一定期間ウォッチしたいですね。おおむね問題がなさそうなら、外科手術へ進みます。

編集部編集部

ホルモン療法という治療方法もあると聞きましたが?
苅部先生
性別適合手術と併用することがほとんどです。とくに女性から男性への適合ケースで、ヒゲや筋肉質な体格をいち早く望まれる場合などに有効です。ただし、ホルモン療法は自費となり、1回でも用いたら、保険の適用が認められた性別適合手術も含めて「オール自費扱い」となります。注意してください。

施設要件や費用概算について

編集部編集部

性別適合手術を希望する場合、何科を受診すればいいのでしょう?
苅部先生
GID(性同一性障害)学会が「安全に手術できる施設」として認定している医院は全国に4院あり、その4院では保険適用が可能です。岡山県の岡山大学病院と光生病院、北海道の札幌医科大学病院、山梨県の山梨大学病院です。自費で構わない場合は、身体的に女性なら最寄りの婦人科、身体的に男性なら最寄りの泌尿器科へご相談ください。

編集部編集部

おおまかな費用はどれくらいでしょう?
苅部先生
自費を前提とすると、簡単な手術なら100万円を切る程度で、複雑かつ審美的な要素も入ってくると数百万円に上ります。なお、女性から男性への適合のほうが、手術も複雑ですし、費用や時間もかかります。単なる切除術と異なり、機能する男性性器をつくる必要があるためです。

編集部編集部

手術から安定した生活が得られるまで、おおむねどれくらいかかるのでしょう?
苅部先生
予後も含めた身体的な措置だけで、約1カ月は必要でしょう。その後、精神的な安定を得られるかどうかは、ご本人やパートナーにもよりますね。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。
苅部先生
性同一性障害の患者さんは、現に、一定の割合でいらっしゃいます。アメリカでは、性別に関する捉え方がダイナミックに変り、従来のLGBTに「Q(クエスチョニング・性そのものを定めない人)」を加えています。日本でも、多様化の考え方や共生のあり方などを、教育の現場から示していくべきでしょう。偏見や差別的な見方が少なくなっていくといいですね。

編集部まとめ

「性別適合手術」は、思っていたより“リアル”な内容でした。また、メンタル面のフォローも望めるとのこと。ただし制度上、その多くは自費でおこなわれるため、医師の考え方や安全性への配慮が医院により異なりそうです。担当医師がGID(性同一性障害)学会に所属しているかどうかを、一つの目安としてみてください。
 

医院情報

麹町皮ふ科・形成外科クリニック

麹町皮ふ科・形成外科クリニック
所在地 〒102-0093 東京都千代田区平河町1-4-5 平和第一ビル地下1階
アクセス 東京メトロ有楽町線 麹町駅 徒歩1分
東京メトロ半蔵門線 半蔵門駅 徒歩4分、永田町駅 徒歩5分
診療科目 美容外科、美容皮膚科、形成外科