足の血管がコブのように膨らむ病気、それが下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)です。40歳以上の女性に多く発症し、その発症率は加齢とともに増加します。あまり広く知られている病名ではありませんが、実は日本人の約9%に下肢静脈瘤があるとも言われています。当記事では、実は身近な下肢静脈瘤について、発症する原因や症状、治療方法などについて詳しく解説しています。
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下肢静脈瘤とは
下肢静脈瘤は、足の血管に関連する病気です。「下肢」とは足を指し、「静脈瘤」とは静脈がコブのように膨らんだ状態を意味します。下肢静脈瘤は、静脈内の弁の機能不全により血液が逆流し、その結果として静脈が膨らんでしまうことによって起こります。 この病気は大きく2つのタイプに分類されます。
一次性静脈瘤は静脈弁の破壊によって起こります。これに対して、二次性静脈瘤は血管内の血栓が原因で、血液の流れが妨げられることによって発生します。 下肢静脈瘤は良性の病気で、急激に悪化する、生命に関わるといったことは稀です。しかし、足のだるさやむくみなどの慢性的な症状が現れ、日常生活の質(QOL)を低下させる可能性があります。 時には皮膚の潰瘍(かいよう)ができるなどの重症化するケースもありますので、注意が必要です。
下肢静脈瘤の6つの原因
下肢静脈瘤は、静脈の逆流を防ぐ弁の機能不全によって引き起こされる症状です。では、なぜこの機能不全が生じるのでしょうか? ここでは、下肢静脈瘤の発症に関連する6つの主な因子について解説します。
①妊娠と出産
妊娠中や出産後の女性は、ホルモンの変化や子宮が静脈を圧迫することにより、下肢静脈瘤を発症しやすくなります。とくに第二子出産以降、複数回の出産を経験すると、発症や悪化のリスクが高まります。
②長時間同じ体勢でいること
立ちっぱなしでいると足の血管に圧力をかけ、血液の流れを妨げます。これにより、静脈内に血液が滞留し、静脈弁に過度の負荷がかかることで、下肢静脈瘤を発症しやすくなります。 逆に、長時間座りっぱなしでいることも血液の流れを妨げる原因となります。とくに、膝の裏側や太ももの下部での血液の滞留は、静脈弁の機能不全を引き起こし、下肢静脈瘤のリスクを高めます。
③激しい運動を伴うスポーツ
例えば空手やサッカーなど、脚に外傷を与えやすいスポーツをしている場合、下肢静脈瘤を発症するリスクが高まります。これらのスポーツは脚の静脈に直接的な影響を与え、静脈弁の機能不全を引き起こす可能性があるためです。
④肥満
肥満は腹圧を高め、下肢静脈や弁に負担をかけます。これにより、静脈瘤のリスクが高まります。また、血液中の脂質やコレステロール値が高いと血栓性静脈炎を発症するリスクが高まり、結果として静脈瘤に痛みが生じます。
⑤加齢
年齢を重ねるにつれて、静脈弁の機能は自然に低下します。60代から70代頃になると、脚への長年の負担が積み重なり、下肢静脈瘤の発症率が高まります。
⑥遺伝
家族内に下肢静脈瘤を患った人がいる場合、その遺伝的要因によって発症しやすい体質を持っている可能性があります。遺伝的な下肢静脈瘤は、性別や年齢に関係なく発症することがあります。
下肢静脈瘤の症状を疑うサイン
下肢静脈瘤の症状のほとんどは、ふくらはぎで発生します。足に血液が滞留することが原因なので、夕方から夜にかけて症状が強くなります。 また、左右の足で症状が異なる場合があります。両足を均等にチェックすることが大切です。 以下に、下肢静脈瘤を疑われる症状のサインを挙げます。また、足に発生する症状ではあるものの、下肢静脈瘤以外の病気の可能性がある症状も紹介します。
下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤を疑われる症状のサインは、以下の通りです。
- 足の血管が目立って見える
- ふくらはぎが疲れやすく、重い感じがする
- 足が腫れる(むくみ)
- 足が急につる(こむら返り)
- 足が熱く感じる
- 足がむずむずして不快
- 足がかゆくなる、湿疹が出る
- 足の皮膚が色素沈着を起こす
- 足に潰瘍ができる
下肢静脈瘤以外の病気の症状
下肢静脈瘤以外の病気の可能性がある症状は、以下の通りです。
- 足が冷たく感じる
- 階段の上り下りが辛い
- 正座が難しい
- 歩くとふくらはぎが疲れる
- 足にしびれがある
- 足の裏が砂利を踏んでいるように感じる
- 冬になると足がかゆくなる
気になる症状がある場合、一度医師に相談することをおすすめします。
下肢静脈瘤の検査方法
下肢静脈瘤の診断には、エコー(超音波)検査を行うことが一般的です。痛みも放射線被ばくもない検査なので、非常に安全です。妊婦の方にも安心して受けていただける方法であり、お腹の赤ちゃんを観察する際にも使われています。 ここでは、「超音波ドプラ検査」と「カラードプラ検査」について解説します。
超音波ドプラ検査
超音波ドプラ検査は、救急車のサイレンが近づくと高くなり、遠ざかると低くなる「ドプラ現象」という原理を利用しています。この現象を応用し、赤血球に向けて超音波を発し、血液の流れの速度の変化を音で検出する装置が「ドプラ血流計」です。 検査では、プローブと呼ばれる器具を使用します。プローブは万年筆よりやや太めの針で、皮膚の上から血管にあてることで、血流の方向や速度を調べることができます。 プローブでふくらはぎを軽く圧迫することで、血流の変化を観察します。正常な血管では逆流は起こらず、音もしません。この検査によって発せられる音の大きさや長さを分析することで、血液の逆流の程度を判断することができます。
カラードプラ検査
カラードプラ検査は、超音波技術を利用して、血液の流れの向きをカラー画面で表示する方法です。足に特別なゼリーを塗り、プローブを使用して行います。痛みはなく、下肢静脈瘤が発症する原因の多くを占める足の付け根の血管までしっかりと検査できます。 カラードプラ検査の主な特徴は、血流を色分けして画面上に表示することです。心臓に向かう血流は青色で、逆流する血流は赤色で表示されます。この色の違いにより、逆流の有無がはっきりと判断できるため、診断や治療方針の決定に非常に役立ちます。 さらにこの検査では、血管の内径の測定や血液の速度の計測も可能です。これにより、聴診によるドプラ血流計では得られない情報が得られます。得られた画像は記録として保存することができ、治療の経過観察や記録にも有用です。
下肢静脈瘤の治療方法
下肢静脈瘤の治療には大きく分けて「保存的治療」と手術を含むその他の方法があります。 基本となるのは保存的治療ですが、症状が強い、血液の逆流が生じているなどの場合は合併症を引き起こすケースがあり、手術を推奨されます。 ここでは、下肢静脈瘤の治療方法を紹介します。
保存的治療
下肢静脈瘤の保存的治療は、症状の緩和や軽症例の進行予防を目的としています。この治療法は、生活習慣の改善や弾性ストッキングの着用が主であり、根本的な治療ではありません。 なかでも弾性ストッキングを使用する治療法は「圧迫療法」とも呼ばれています。治療用のストッキングは足首部分に最も強い圧力をかけ、心臓に向かうにつれて圧力が段階的に弱くなる設計になっています。これより血液の逆流や停滞を抑えることができ、足のむくみや重だるさ、痛みなどの症状を軽減します。 この治療法は手軽に行えるものの、静脈瘤を完全に消失させることはできません。そのため、症状が重い人には、この治療と手術療法を併用して行うことがあります。また、静脈瘤の悪化や再発の予防には非常に有効な方法とされています。
ストリッピング手術
ストリッピング手術は、下肢静脈瘤治療の中で最も標準的な手術方法です。この手術は、拡張したり瘤化してしまった静脈を除去することを目的としています。 手術は局所麻酔の下で行われます。皮膚を小さく切開して、悪化した静脈を抜き取ります。重症の方に対しても効果的であり、再発率は比較的低いとされています。 手術の前にはエコー検査やCT検査を行い、患部を正確に特定します。これにより、悪化した静脈部分のみを除去することが可能です。リスクがとても少ない手術のため、多くの場合日帰りで行われます。
硬化療法
硬化療法とは、静脈瘤に直接硬化剤を注射し、静脈瘤を癒着させ硬化させることで消失させる治療法です。 注射した部分には、一時的にしこりが生じたり色素沈着が見られることがありますが、これらは時間とともに徐々に薄くなり、最終的には消失します。 治療後は、効果を高めるために弾性ストッキングを併用します。これは、静脈瘤の再発防止に役立ちます。
血管内焼灼術
血管内焼灼術は、下肢静脈瘤の革新的な治療法の一つです。これは、伝統的なストリッピング手術で行われるような静脈の引き抜きではなく、静脈を内側から焼灼して閉塞させる治療法です。 治療方法としては、細い管(カテーテル)を病気になった静脈内に挿入し、内部から熱を加えて静脈を焼灼します。この熱によって静脈は閉塞され、治療後約半年で体内に吸収されて消失します。 局所麻酔を用いてカテーテルを挿入するだけの治療なので、ストリッピング手術のように入院の必要がなく、日帰りで治療を受けることが可能です。 血管内焼灼治療には、高周波(ラジオ波)を使用する高周波治療と、レーザーを用いるレーザー治療の2種類があります。いずれも健康保険が適用されるため、多くの患者さんにとって選択しやすい治療方法といえるでしょう。
血管内塞栓術(グルー治療)
グルー治療は、下肢静脈瘤の治療法として2019年12月に保険適用された比較的新しい方法です。この治療では、下肢静脈専用に開発された医療用接着材(グルー)を、カテーテルを介して治療対象の血管内に注入し、血管を塞ぎます。 血管内焼灼術が熱によって血管を閉塞するのに対し、グルー治療は熱を伴わないため、やけどや神経障害のリスクが少なく、周辺組織への影響や痛みも軽減されます。これにより血管内焼灼術において必須だったTLA麻酔が不要になり、針を刺す回数が減り、麻酔浸潤時の痛みや術後圧迫の必要性も低減されます。 しかし、この治療法ではグルーを血管内に注入するため、アレルギーのある人は治療を受けられない場合があります。
スタブ・アバルジョン法
上述した治療法や術式は、逆流が起きてしまっている静脈を治療する方法です。しかし治療した血管の周りにある静脈瘤(ボコボコした血管)は、逆流がなくなってもすぐには消えません。 スタブ・アバルジョン法は、逆流を止めた後も残る静脈瘤を取り除くために用いられる治療法です。特殊な器具を使い、1〜3mmの非常に小さな傷で静脈瘤を切除します。傷痕が残りにくく、痛みも少ないのが特徴です。 通常はストリッピング手術や血管内治療を行った後、静脈瘤が小さくならない場合や再発の懸念がある場合に行われます。医師の判断により、これらの治療と同時に行われることもあります。
下肢静脈瘤の予防方法
下肢静脈瘤を予防し、その症状を軽減するための日常生活での工夫やセルフケアについて説明します。
医療用弾性ストッキングの着用
脚に適度な圧迫を加えることで血液の流れを促進し、血管の拡張を予防します。 むくみ予防用の着圧ストッキングはコンビニエンスストアやドラッグストアなどで売られていますが、あれらは医療用に比べて圧迫する圧力が弱いです。医療用弾性ストッキングは医療機関でのみ、購入が可能です。
生活習慣の改善
生活習慣の改善は、下肢静脈瘤の予防に役立ちます。例えば肥満は、下肢静脈瘤を引き起こす大きなリスク要因です。定期的な運動、規則正しい生活リズム、バランスの取れた食事を心掛けましょう。
脚をリラックスさせる
かかとの上げ下げなど、ふくらはぎの筋肉を動かすストレッチが効果的です。また、お風呂での脚マッサージもおすすめです。
長時間同じ体勢でいることを避ける
長時間座ったり立ったりする仕事をしている場合でも、短時間の足踏みやかかとの上げ下げなどの軽い運動を取り入れましょう。血流が改善し、予防効果が期待できます。
まとめ
下肢静脈瘤は、加齢とともに発症数が増加する病気です。命に関わることはありませんが、放置することで生活の質が落ちるのも事実。できることなら発症を予防し、発症した場合でも重症化させないようにしたいところですね。 原因については遺伝や加齢など、対処しようのないものもありますが、生活習慣によるところも大きいとされています。予防について意識しながら日常生活を送るだけでも、かなり対策できるはずです。 生活習慣の改善は、下肢静脈瘤だけでなく、さまざまな病気の予防にも役立ちます。ぜひ、意識してみてください。
参考文献