「年齢を重ねてきて、足の血管が目立ってきた」という方もいるのではないでしょうか。特に女性は、見た目の変化が気になりますね。それは、下肢静脈瘤という病気かもしれません。下肢静脈瘤の中にも「治療を推奨するもの」から「治療を必要としないもの」まで、さまざまな種類があります。下肢静脈瘤と診断された方は「自分で治せるの? 治療が必要なの?」と不安になっているかもしれません。ここでは、長く健康な足で過ごすためにはどうすればいいか、セルフケアの方法などもご紹介します。ぜひ参考にしてください。
目次 -INDEX-
下肢静脈瘤とは
下肢静脈瘤とは、足の静脈を流れている血液が逆流し、静脈が太く蛇行することで瘤(こぶ)状に浮き出て見える病気です。逆流防止弁である静脈弁が加齢などで壊れてしまうことで、逆流が発生します。足の筋力低下や静脈弁の機能低下によって静脈内に血液がたまり、静脈圧が高くなることで静脈瘤になるのです。心臓から遠い位置にある足に発症しますが、良性疾患のため命に関わることはありません。
下肢静脈瘤の症状
見た目の症状は、瘤状にぼこぼこ浮き出てくるものや、青色の血管が網目状に見えるもの、赤紫色でクモの巣状に見えるものまで、静脈瘤の種類によってさまざまです。出現する場所はふくらはぎが大半を占め、膝の裏や太ももにできることもあります。 かなり重度な静脈瘤でも自覚症状のないことが多いのですが、足の痛みやだるさ、むくみなどを感じ、こむら返りの症状が出る方もいます。下肢静脈瘤を発症してから長期間が経つと、足のむくみや色素沈着が目立ち、皮膚潰瘍につながってしまうこともあります。足の血管が気になり始めた方は、まず医師の診察を受けることがおすすめです。
下肢静脈瘤の種類
下肢静脈瘤は大きく4つの種類に分けられ、どこの静脈に瘤ができるかで症状や治療法が変わります。ここでは、それぞれの特徴を詳しく見てみましょう。
伏在静脈瘤
伏在静脈瘤とは、伏在静脈という大きな静脈の弁不全により血液が逆流して足に滞り、血管が拡大することで発症します。発症の最も多い大伏在静脈瘤は、足の付け根部分の静脈弁が壊れて発症し、膝の内側に静脈瘤ができることが特徴です。発症例の少ない小伏在静脈瘤は、膝の後ろの静脈弁が壊れ、ふくらはぎに静脈瘤ができます。 伏在静脈瘤は足が痛む、だるくなる、重くなる、むくむ、つりやすくなるなどの自覚症状を感じる方も多く、治療が推奨されるタイプの静脈瘤です。放置すると湿疹、かゆみ、皮膚炎症、潰瘍、色素沈着につながってしまうため、適切な治療が必要になります。
側枝静脈瘤
側枝静脈瘤は、伏在静脈には問題がなく、支流である側枝の静脈弁が壊れ逆流が生じることで発症します。短い静脈に瘤ができるため、膝周辺やふくらはぎに症状が出ます。伏在静脈瘤よりも細い血管で起こるため、血液が滞る量が少なく、範囲も狭いことから症状が軽く気付きにくいのも特徴です。 その中でも陰部静脈瘤は妊娠・出産で起こりやすく、太ももの裏からふくらはぎにかけて瘤が広がります。
網目状静脈瘤
網目状静脈瘤は、皮膚のすぐ下にある小さな静脈が拡張することによって発症します。太ももの外側から裏面、膝の裏などに直径2~3mmの細い静脈が網目状に広がって見え、鮮明な青色をしているのが特徴です。 自覚症状がないため、他人から言われて気付くこともあります。治療の必要はありませんが、見た目などが気になる場合は、体の負担が少ない硬化療法が推奨されています。
クモの巣状静脈瘤
クモの巣状静脈瘤は、皮膚の浅い部分にある直径0.1~1mmの毛細血管が拡張して発症します。正式には静脈瘤ではなく「毛細血管拡張症」といいます。盛り上がりが少なく、赤紫色をしているのが特徴です。自覚症状はなく、重症化しないため治療の必要もありません。しかし、伏在静脈瘤が併発していることもあるため、超音波検査を受けておくと安心です。
下肢静脈瘤の原因
下肢静脈瘤は、血液が正常に動かなくなることが原因で発症します。血液が心臓に戻るのを妨げる要因はさまざまです。筋肉のポンプ作用が低下する、静脈弁が壊れる、お腹や胸の中の圧が高くなる、血液がドロドロしていることなどが原因となります。
下肢静脈瘤の症状が現れやすい人の特徴
下肢静脈瘤は静脈の老化が原因となるため、高齢の女性が発症しやすいといわれています。女性患者数は男性に比べて2~3倍多く、その発症割合は30歳以上の女性では55~75%です。また、立ち仕事やデスクワークは筋肉をあまり使わないため、静脈瘤が発症しやすくなります。そのほかにも、妊娠・出産、家族歴、肥満などで発症しやすくなるといわれています。
下肢静脈瘤は治る?
下肢静脈瘤は、適切な治療を受ければ治すことができる病気です。また、症状によってはセルフケアで軽減させることができます。治療やケアの種類によって費用も異なるため、それぞれの特徴を詳しく見てみましょう。
下肢静脈瘤は自然に治るのか
下肢静脈瘤は一部の症状は自然治癒することもありますが、症状の進行や悪化を防ぐためには治療が必要です。一般的に静脈瘤は進行性の疾患であり、治療せず放置すると症状が悪化する可能性が高くなります。早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けましょう。
下肢静脈瘤を自分で治すことはできるのか
下肢静脈瘤は静脈弁が正常に機能しないことで、足の血液が停滞して起こります。一度発症してしまうと自分で治すことは難しいため、根本的な治療を行うには医師の診断と適切な治療が必要になります。 しかし、セルフケアで足の血流を促し、症状を軽減させることは可能です。さらに、静脈瘤の進行を遅らせることが期待できます。ここでは日常生活で簡単に取り入れられるセルフケアをご紹介します。
・長時間立ったまま、座ったままでいるのを避ける
長時間の立ち仕事やデスクワークでは、重力の関係で足に血液がたまりやすく、下肢静脈瘤を発症しやすい傾向にあります。ふくらはぎの筋肉を使うことがポンプの役割となり、心臓に血液を戻すのですが、この働きが弱ってしまうためです。美容師や調理師、事務などの職業では、この症状が多く見られます。
予防方法としては、定期的に体を動かすことが重要です。1時間に1回程度、トイレまで歩いたり、足踏みや軽いストレッチをしたりするといいでしょう。また、座ったままでも、定期的な足首の運動をすると効果が期待できます。足を上下につま先立ちする、床にかかとを着けたままつま先を上げ下げする、ふくらはぎを足首から膝に向けてマッサージするなどのセルフケアがおすすめです。
・就寝時は足を高くして寝る
足を心臓より高い位置にしておくと、足の血液が心臓へ戻りやすくなります。そのため、静脈瘤やむくみの予防につながるのです。就寝時は足の下にクッションなどを入れ、足を高くして寝るのがおすすめです。高さは15cm程度を推奨していますが、ご自身の心地よい高さに調節してください。高さが合わないと、深い眠りを妨げられるだけでなく体を痛めてしまう可能性もあるため、まずは布団やブランケットなどを敷いて行ってみましょう。
・弾性ストッキングを着用する
弾性ストッキングは、市販されているものと医療用の2種類があり、違いは締め付ける圧力と価格です。市販のものは15mmHg以下の低圧で、2000円程度で購入できます。一方、医療用は30mmHg以上の高圧で、価格は約4000~5000円です。 弾性ストッキングは手軽に行えるセルフケアですが、血管の病気がある場合は注意が必要です。高血圧や糖尿病、脂質異常症のある方は動脈硬化になっている可能性があるため、弾性ストッキングを着用することで足の血流が妨げられてしまいます。 また、膝の外側にある腓骨(ひこつ)神経を圧迫することで起こる「腓骨神経麻痺」にも、気を付けなければいけません。弾性ストッキングを着用する場合は、まず循環器内科や血管外科の医師に相談し、着用方法などの指導を受けるのがおすすめです。
・適度な運動をする
日頃から運動習慣を付けることはとても大切です。運動不足は筋力が低下するため、ポンプ機能の低下に影響します。足の血液を心臓まで戻せなくなることで、下肢静脈瘤のリスクが上がってしまうのです。散歩をしたり駅まで歩いたりすることで、筋力が維持でき足の血流が活発になります。
・肥満に気を付ける
下肢静脈瘤は、肥満と相関関係があることがわかっています。重度の肥満では腹部の静脈圧が高くなるため、静脈瘤が発生しやすくなります。肥満にならないために食生活を見直し、適切なカロリーと栄養バランスのとれた食事をすることが大切です。
下肢静脈瘤の治療
下肢静脈瘤は、種類によって有効な治療法が異なります。また、医療の進歩により選択できる治療が増えてきました。ここでは一般的な検査方法と、治療の種類をご紹介します。
下肢静脈瘤の検査方法
まず、医師が視診で血管の膨らみや広がり方を確認します。そして、皮膚の硬さや熱を持っているかどうか、むくみの程度、瘤の性状などを直接触って診察します。超音波検査では、肉眼では確認できない静脈や弁の状態、血液の流れをリアルタイムで確認することが可能です。
下肢静脈瘤の治療の種類
下肢動脈瘤の治療は、圧迫療法、硬化療法、血管内治療、外科的治療がメジャーです。静脈瘤の種類によって、選択する治療が異なります。一般的に、進行しやすい伏在静脈瘤では血管内治療や外科的治療が必要です。
それぞれの治療法の違い
ここでは主な治療である圧迫療法、硬化療法、血管内治療、外科的治療について、それぞれのメリットデメリットを含めたその違いについて見ていきましょう。
・圧迫療法
圧迫療法は「弾性ストッキング」という弾力性のあるストッキングを着用することで、静脈の流れを促す治療法です。ストッキングで全体的に足を締め付け、足首から膝にかけて圧を下げていくことで血液が心臓へ戻るのをサポートします。逆流のない、細かい血管の静脈瘤に効果があります。 費用の負担が少なく手軽に行える治療法ですが、着用した当日しか効果が得られないことがデメリットです。
・硬化療法
硬化療法は、小さな静脈瘤に対する治療法で、細かい血管を目立ちにくくさせます。泡状の硬化剤を注射し、弾性ストッキングで圧迫することで血管内を接着させ、静脈を閉塞させます。比較的簡単な治療で、治療後の生活制限もほとんどありません。しかし、再発しやすく、低確率ですが薬剤アレルギーや皮膚潰瘍になるリスクもあります。
・血管内治療
血管内治療は血管内焼灼術(けっかんないしょうしゃくじゅつ)と血管内塞栓術(けっかんないそくせんじゅつ)の2つに分けられます。 血管内焼灼術は、レーザーまたは高周波を使って伏在静脈を熱で焼き、伏在静脈に血液が流れないようにする治療法です。これによって、血液は足の中心近くを通る丈夫な深部静脈に流れるようになります。局所麻酔をするため、痛みの少ない治療です。日帰りで施術ができますが、治療後1ヶ月は弾性ストッキングの着用が必要になります。
血管内塞栓術は、医療用接着剤を静脈に注入して血管を固める、新しい治療法です。リスクとしては、接着剤が体内に残るため、血管の炎症や薬剤アレルギーが起こる可能性があります。
また、血管内治療はスタブ・アバルジョン法という瘤切除術を同時に行うことが推奨されています。ぼこぼこした血管の数箇所を小さく切開し、専用の器具で血管の瘤を取り除くことで、再発低減効果が期待でき、治療後の見た目の改善も可能です。
・外科的手術
外科的手術は、ストリッピング手術といい、足の付け根と膝の内側の2箇所を切開し、大伏在静脈に専用のワイヤーを通して血管を抜き取る治療です。血液の逆流がある伏在静脈瘤に対して適用されますが、血管内治療の進歩により近年では実施件数が減ってきています。
メリットは、古い治療法のため実績が安定していることです。反対に、術後の痛みや傷跡が残る恐れ、知覚神経が傷つくことで痺れが残ってしまうリスクがデメリットとしてあげられます。
治療にかかる費用
下肢静脈瘤の治療は、血管内治療の一部を除いて保険適用で行えます。硬化療法は約5000円、血管内焼灼術は約35000円、血管内塞栓術は約45000円、ストリッピング手術は35000円程度です。ただ、これは日帰り治療の金額のため、入院するとさらに費用はかかります。 また、血管内治療で保険適用外の機器を使用する場合は自費になります。どの機器を使用しているかは医療機関によって異なるので、詳しくは各医療機関に問い合わせるといいでしょう。
まとめ
下肢静脈瘤は命に関わる病気ではありませんが、原因や症状によってさまざまな種類があり、適切な診断と治療が必要です。治療方法も日々進歩しており、日帰りで行える治療がほとんどです。足の血管が気になってきた方は、まず医療機関への受診をおすすめします。また、自宅でのケアで改善できる症状もありますので、ご紹介したセルフケアもぜひ参考にしてください。
参考文献