「うつ病の人を一人にしてはいけない」理由はご存知ですか?【医師監修】

「うつ病の人は一人にしてはいけない」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。しかし、この言葉は必ずしもすべての状況に当てはまるわけではありません。うつ病の方にとって一人の時間が回復につながることもあれば、反対に見守りが必要な状態もあります。大切なのは、病名だけで判断するのではなく、その方が「今どのような状態にあるのか」を正しく理解することです。
本記事では、うつ病の方を一人にしてはいけないといわれる理由や注意すべきNG行動、適切な見守り方などを解説します。

監修医師:
前田 佳宏(医師)
・精神科/心療内科医
・精神保健指定医
「泣きたくなったら壁を押せ」著者
大人と子どもの双方で、トラウマや愛着障害に心理療法的アプローチを用いる医師。これまでのべ3,000人以上の臨床に携わる。
島根大学医学部卒業。その後、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局、東京警察病院や国立精神神経医療研究センター等を経て、児童精神科外来を3年間、トラウマ専門外来を2年間担当。著書『泣きたくなったら壁を押せ』(サンマーク出版、2026年)では、心理療法のプロセスを物語として描き、私たちの感情の奥にある“適応の物語”をたどった。その視点をともに探る場として、オンラインコミュニティ「しなここメイト」を主宰。cotree顧問医。産業医。日本小児精神神経学会所属。
目次 -INDEX-
うつ病の人を一人にしてはいけないといわれる理由

うつ病とはどのような病気ですか?
うつ病は、気分が落ち込んだ状態がほぼ一日中続き、これまで楽しめていた趣味や人との会話にも興味を持てなくなる病気です。夜に寝つけない、途中で何度も目が覚める、食事量が極端に減る、少し動いただけでも強い疲労感を覚えるなど身体の不調が同時に現れることも少なくありません。
症状が続くことで、仕事や家事、学校生活などに支障をきたします。背景には強い精神的ストレスや過労などがあり、脳の働きがうまく調整できなくなることで、物事を必要以上に悲観的・否定的に考えてしまいやすくなります。
参照:『うつ病』(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
うつ病の人を一人にしてはいけないというのは本当ですか?
うつ病だからといって必ず一人にしてはいけないわけではありません。症状が安定しており、本人が落ち着いて過ごせている場合には、一人で静かに休む時間が回復につながることもあります。
一方で、「消えたい」との発言が増えている、自傷や自殺をほのめかす言動がみられるなど、危険性が高い状態では、安全を守るために一人にしない対応が必要です。うつ病の人への関わり方は、症状を踏まえて決める必要があります。一人にしない方がよい状況と理由を教えてください
自殺や自傷をほのめかす発言がある、強い希死念慮が続いているなどの場合は、衝動的に危険な行動をとるおそれがあるため、一人にせず見守ることが重要です。できるだけ同じ空間で過ごし、刃物や薬、アルコールなど危険につながりやすい物を本人の手の届かない場所に移すなど、安全を確保しましょう。
また、判断力が低下して食事や服薬ができていない場合は、声をかけて食事を一緒にとったり、服薬を確認したりするなど、日常生活を支える関わりが必要です。
不眠や強い焦燥感が続いているときも、症状が急激に悪化する場合があるため、様子を見ながら早めに精神科や心療内科、相談窓口につなぎましょう。
うつ病の人は一人にした方がよいときもありますか?
本人が一人で休みたい意思を示し、安全が保たれている場合には、一人の時間が回復に役立つことがあります。ただし、放置するのではなく、連絡が取れる状態を保ち、必要に応じて様子を確認しましょう。
参照:『うつ病診療ガイドライン2025』(日本うつ病学会)
うつ病の人に対して避けたい言動

うつ病の人にかけてはいけない言葉はありますか?
うつ病の人に対しては、「気にしすぎ」「甘えているだけ」「そんなことはない」など、気持ちを否定する言葉は避けるべきです。
本人にとってはつらい状態が続いており、正論や励ましがかえって自己否定感を強めてしまうことがあります。いつもと違う様子に気付いたときは、結論や評価を急がず、まずは本人の話をゆっくり聞く姿勢が大切です。
また、無理に前向きにさせようとせず、「そう感じているんだね」と受け止める関わり方が安心感につながります。
うつ病の人に対して避けた方がよい行動を教えてください
本人があまり話したがらない様子のときに、無理に気持ちを聞き出そうとすることは避けるべきです。「話したくなったら聞くよ」と伝え、そっと見守る姿勢が適切なこともあります。
また、本人が専門窓口へ相談できるように情報提供をしましょう。本人が相談に抵抗を感じているときは、家族や周囲の方が先に専門窓口へ相談し、関わり方の助言を受ける方法もあります。
帰宅が極端に遅い日が続く、休日出勤が多いなどの状況が見られる場合には、過重労働がうつ状態を悪化させている可能性があります。無理をさせ続けるのではなく、労働環境や働き方に関して第三者に相談し、早めの対処が大切です。
参照:『ご家族にできること』(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
うつ病の人を見守り、支えるために知っておきたいこと

うつ病の人は周囲の人にどのように接して欲しいと考えているのですか?
うつ病の人をどのように見守ればよいですか?
うつ病の方を見守る際は、必要以上に干渉せず、かといって完全に距離を取ることもしない関わり方が大切です。体調や気分に関する話が本人から出たときは、助言を急がず、最後まで耳を傾けましょう。
一方で、話したがらない様子が見られるときは無理に聞き出そうとせず、「なにか協力できることがあればいつでも話してほしい」と伝えておくだけでも安心感につながります。
食事や睡眠が極端に乱れていないか、外出や仕事の様子に変化が続いていないかなど、日常の変化を気にかけながら、必要と感じた場合には医療機関や相談窓口につなげられるよう備えておくことも、見守る方の役割です。
うつ病の人をサポートする側が気を付けることを教えてください
うつ病の方を支える側は、「自分が何とかしなければならない」と一人で抱え込みがちです。うつ病は回復までに時間がかかることも多く、声かけや関わり方を工夫すればすぐによくなるものではありません。
症状の波によって気分や状態が変わることもあるため、その変化に振り回されすぎず、冷静に見守る姿勢が必要です。また、家族や職場、医療機関、相談窓口など周囲の支援を適切に頼ることで、無理なく見守りを続けやすくなります。
支える側自身も疲労やストレスを感じやすいため、つらさを感じたときには休息を取り、自分の心身の状態にも目を向けましょう。
参照:『ご家族にできること』(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
編集部まとめ

うつ病の方を「一人にしてはいけない」と一概に決めつけるのではなく、状態に応じた関わり方の調整が重要です。自傷や自殺のリスクが高い場合には見守りが必要ですが、状態が安定しているときには、一人の時間が回復を支えることもあります。
また、励ましや正論が必ずしも支えになるとは限らず、否定せずに話を聞く姿勢や、距離を詰めすぎない見守りが安心感につながります。支える側も無理を抱え込まず、必要に応じて専門機関や周囲の力を借りながら、長期的な視点で関わりましょう。
参考文献




