インフルエンザにかかった後、「食べ物の味がしない」「何を食べても同じ味に感じる」といった経験はありませんか。インフルエンザ感染による鼻づまりや嗅神経への影響で嗅覚が低下し、その結果味覚に異常が現れることがあります。多くの場合こうした味覚障害は自然に回復しますが、インフルエンザが治った後も味覚の異常が続いて食欲低下の原因になることもあるため注意が必要です。本記事ではインフルエンザ感染に伴う味覚障害の原因や症状、回復までの期間や対処法、予防のポイントについて解説します。
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【出身大学】
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科
インフルエンザと味覚障害の関係

インフルエンザで味覚障害が起きる理由を教えてください
インフルエンザに感染すると、鼻づまりなどで嗅覚が低下し、その影響で味がわかりにくくなる場合があります。人が味を感じるには舌の味覚だけでなく鼻の嗅覚も重要であり、鼻づまりで食べ物の香りを感じにくくなると味全体がわからなくなることがあります。インフルエンザウイルスが嗅神経にダメージを与え、いわゆる感冒後嗅覚障害を起こすことで味覚異常が生じる場合もあります。つまり、インフルエンザ時の味覚障害は嗅覚の障害による風味の感じにくさが主な原因なのです。
インフルエンザの治りかけに味覚がおかしくなることはありますか?
はい、インフルエンザの症状が治まってくる頃に、「味がおかしい」と感じることはありえます。多くの場合、インフルエンザに伴う味覚異常は発熱や鼻づまりなど、ほかの症状と同時期に現れ、回復とともに改善していきます。しかし、症状が治まった後も嗅覚や味覚の異常がしばらく残ることがあります。特に、ウイルス感染後の嗅覚障害(感冒後嗅覚障害)を発症している場合、インフルエンザ自体が治った後も嗅覚や味覚の異常が長引くことがあります。
インフルエンザによる味覚障害はどのくらいの期間で治りますか?
インフルエンザによる味覚障害の多くは数日で改善します。これは風邪やインフルエンザのほかの症状と同様、鼻づまりなどが治まれば速やかに風味がわかるようになることが多いためです。一方で、ウイルスによって嗅覚神経が損傷された場合など、
重度の嗅覚障害が原因となっているときは、回復に時間がかかることもあります。中等度から高度の感冒後嗅覚障害では、発症後
半年ほど経ってようやく改善し始めることもあります。ただし、このような長期化はまれであり、時間経過とともに徐々に改善してきます。
参照:
『感冒後嗅覚障害』(におい・かおり環境学会)
『インフルエンザの合併症―その対応策に予防接種を!!』(鳥取県医師会)
新型コロナの味覚障害との違いはありますか?
インフルエンザの味覚障害と新型コロナウイルス感染症の味覚障害には共通点もありますが、いくつか違いが指摘されています。共通点として、どちらも
嗅覚の低下に伴う味覚異常であることが多い点が挙げられます。一方で相違点として、新型コロナウイルス感染症ではインフルエンザ以上に急激かつ高度な嗅覚・味覚消失が起こる場合があることが知られています。また、回復までの期間にも違いがあります。新型コロナウイルス感染症による味覚や嗅覚障害は多くの場合
1ヶ月以内に自然に改善しますが、1ヶ月後でも40%の方は嗅覚障害が残存するとの報告があります。インフルエンザでは通常そこまで長引くことは少なく、前述のように長引いた場合は感冒後嗅覚障害など特殊なケースといえます。
参照:『新型コロナウイルス感染症による嗅覚、味覚障害の機序と疫学、予後の解明に資する研究』(厚生労働省)
味覚障害が出たときの対処方法

味覚が低下したときの食事のポイントを教えてください
味覚が鈍い場合でも、食事を楽しむ工夫として、
香りや調味料を積極的に活用しましょう。生姜やハーブ、酢など、風味の強い食材や酸味で弱った味覚を補い、だしや香りで味を補いましょう。また、温かい料理は香りが立ちやすく、のど越しや口当たりのよいもの、彩りのよい盛り付けで食欲を刺激します。
味覚異常時は食欲低下から栄養不足になりがちなので、栄養補助ゼリーやスムージーなどで高カロリーで高タンパクな栄養を補給します。この際、脱水予防のための水分補給も大切です。ただし、刺激の強い香辛料や塩分の過剰摂取は、粘膜を傷つけ回復を遅らせる可能性があるため、ほどほどにしてください。このような工夫次第で、味覚に異常があっても食事を楽しめます。
インフルエンザによる味覚障害は市販薬で改善できますか?
インフルエンザが原因の一時的な味覚障害に対して、特効薬のような市販薬は存在しません。しかし、症状の原因に応じて市販薬で対処できる部分もあります。例えば、鼻づまりがひどい場合には市販の点鼻薬や内服の鼻炎薬で鼻の通りをよくすることで、嗅覚・味覚の回復を促すことが期待できます。使用の際は用法用量を守り、長期間の連用は避けましょう。また、味覚障害の治療によく用いられる亜鉛補充療法では、亜鉛のサプリメントが市販されています。インフルエンザ後に食事が取れず亜鉛不足が心配な場合は、薬局で亜鉛含有サプリを試すのも一つの方法です。ただし、市販薬やサプリで完全に味覚障害を治すことは難しく、基本的には時間経過とともに自然回復するのを待ちます。2週間以上経っても味覚が戻らない場合は市販薬に頼り続けず医療機関を受診しましょう。
インフルエンザによる味覚障害はどの診療科を受診すべきですか?
インフルエンザ後の味覚障害が続く場合は、まず耳鼻咽喉科を受診するのがよいでしょう。耳鼻咽喉科では、舌や鼻の状態を詳しく調べたり、嗅覚や味覚の検査を行ったりして原因を特定してくれます。味覚障害は舌の異常だけでなく嗅覚の問題で起きていることもあるため、鼻と喉も含めて診察できる耳鼻咽喉科が適しているのです。
味覚障害を予防するためにできること

体調を崩したことによる味覚障害を防ぐことはできますか?
インフルエンザや風邪に伴う味覚障害を完全に防ぐのは難しいですが、日頃の工夫でリスクを下げることは可能です。まず、体調を崩さないことが一番の予防策ですので、手洗いやマスクの着用、予防接種などでインフルエンザ自体を防ぐ努力をしましょう。次に、万が一体調を崩してしまったときには早めの対処が重要です。鼻づまりが始まったら加湿や鼻うがいで鼻腔を清潔に保ち、症状が悪化しないようにします。口腔内が乾燥すると味覚が落ちるため、こまめに水分補給をして口腔内の潤いを保ちましょう。日頃から栄養バランスのよい食事をとり、特に亜鉛が不足しないように注意します。亜鉛は味蕾の新陳代謝に必須のミネラルで、亜鉛不足は味覚低下の大きな原因とされています。食品では牡蠣、レバー、赤身肉、卵黄、納豆、緑黄色野菜などに亜鉛が豊富です。こうした対策を日頃から行うことで、たとえ体調を崩しても深刻な味覚障害に陥るリスクを減らすことができるでしょう。
口腔内の乾燥は味覚に影響しますか?
はい、口腔内の乾燥は味覚に影響します。私たちが味を感じるためには、食べ物の成分が唾液に溶けて味蕾に届く必要があります。しかし口腔内が乾いて唾液が減っていると、その伝達がうまくいかず味を感じにくくなるのです。インフルエンザで高熱が出たり、水分摂取が不足したりすると、一時的に口腔乾燥が進んで味覚が鈍ることもあります。また、鼻づまりで口呼吸になると口内が乾きやすくなるため、これも味覚低下の一因です。したがって、インフルエンザの時は意識して水分補給を行ったり、室内を加湿したりして口腔の潤いを保つことが大切です。
編集部まとめ

インフルエンザにかかった際に一時的に味覚がおかしくなることは珍しくありません。主な原因は鼻づまりによる嗅覚低下であり、症状が改善すれば多くは自然に治っていきます。しかし、なかにはウイルス感染が引き金となって嗅覚・味覚の障害が長引くこともあります。味覚障害が長く続くと食事のおいしさを感じられず食欲が低下し、栄養状態の悪化や生活の質(QOL)の低下を招くことがあります。インフルエンザの後に「味がわからない」「何を食べてもおいしくない」といった症状が改善しない場合は、我慢せず早めに耳鼻咽喉科で相談しましょう。早期に対処することで、再び食事をおいしく味わえる日常を取り戻せるはずです。