「糖尿病網膜症」を発症するとどんな見え方になるかご存知ですか?【医師監修】

糖尿病網膜症は、一般的に糖尿病に罹患してから約5~10年ほどで発症しやすいとされています。
しかし、血糖値の高い状態が続くと、もっと早い段階で発症することや、安定していた糖尿病網膜症が急に増悪してくることも珍しくありません。
また、初期にはほとんど自覚症状がないため、適切なタイミングで眼科を受診できるかどうかが、視力を守れるかどうかの分かれ道です。
この記事では、糖尿病網膜症の初期から進行期までの見え方の変化と、早期発見のために知っておきたいポイントを解説します。

監修医師:
栗原 大智(医師)
糖尿病網膜症で見え方が変化する理由

糖尿病網膜症とはどのような病気ですか?
初期には自覚症状がほとんどないといわれていますが、進行すると視力低下や失明につながることもあるため、早期の発見と管理が重要です。
なぜ糖尿病になると目に影響がでるのですか?
この血管が高血糖の影響で障害されると、網膜で下記のような変化が起きます。
- 血管が破れて出血する
- 血管が詰まって酸素不足になる
- 液体が漏れ出て網膜がむくむ
こうした変化が重なっていくと、出血で視機能が障害されたり、光と感じ取る網膜という部分が引っ張られて剥がれたりといった変化が起こります。こうして、糖尿病網膜症が発症します。
糖尿病網膜症の種類を教えてください
- 単純糖尿病網膜症(初期)
小さな出血や血管のふくらみ(毛細血管瘤)がみられる。自覚症状はほとんどないといわれている - 前増殖糖尿病網膜症(中期)
血管の詰まりが広がり、網膜が酸素不足になる。視界のかすみが出ることもある - 増殖糖尿病網膜症(進行期)
新しい異常血管(新生血管)が生えてきて破れやすく、眼内出血や網膜剥離を起こす段階である。失明のリスクが高い
ご自身が現在どの段階の網膜症にあるかは、初期から中期の段階では自覚症状だけで判断することはほぼ不可能です。見えない部分が出現していても、それが片目であればもう片目で補い、気が付かないためです。見え方に問題がなくても進行している場合があるため、眼科を受診しなければ正確な診断はできません。
糖尿病と診断されたら、症状がなくても定期的に眼底検査を受けることが大切です。
進行の程度別|糖尿病網膜症の見え方の特徴

単純糖尿病網膜症は見え方に変化はありますか?
前増殖糖尿病網膜症の見え方の特徴を教えてください
この時期の網膜では、細い血管が詰まり始め、部分的に酸素不足(虚血)が生じています。進行を防ぐためには、この段階での発見と治療がとても大切です。
増殖糖尿病網膜症ではどのような見え方になりますか?
- 視力の低下
- 物がかすんで見える(かすみ目)
- 視野の一部が暗くなる・欠ける
- 黒い点や虫のような影が見える(飛蚊症)
- 突然視界が見えにくくなる、または見えなくなる
これらは、新しく生えた異常な血管(新生血管)が破れ、出血が起きたり、網膜がむくんだり、網膜剥離が進んだりすることで生じます。症状を放置すると失明に至ることもあるため、早急な治療が必要です。
糖尿病網膜症を早期発見するためのチェックポイント

糖尿病網膜症は初期に発見すれば進行を食い止めることができますか?
特に進行予防には次の4つが大切です。
- 糖尿病の治療(血糖値を適正に保つ)
- 高血圧の治療
- 脂質異常症の治療
- 禁煙
単純糖尿病網膜症では、自覚症状は乏しいながら、網膜に下記の症状がみられます。
- 毛細血管瘤
- 小さな出血(点状・斑状出血)
- 硬性白斑
初期の単純性糖尿病網膜症の段階であれば、血糖コントロール改善により、これらの症状が軽快することもあります。
どのような見え方になったら糖尿病網膜症が疑われますか?
視力異常が出た時点では、すでに失明リスクの高い段階(増殖糖尿病網膜症)になっていることもあります。そのため、見え方に変わりがなくても、内科受診に加えて定期的な眼科受診を継続することが重要です。
糖尿病と診断されている場合に推奨される眼科の受診頻度を教えてください
糖尿病網膜症はどのように治療しますか?
- 血糖・血圧・脂質の管理
- 禁煙
- 抗VEGF薬治療(硝子体内内注射)
- レーザー光凝固(網膜光凝固術)
- 硝子体手術
治療を行っても、血糖コントロールが不良だと再出血や新生血管の増殖を繰り返すため、
どの段階でも血糖・血圧・脂質の管理、そして禁煙が必須です。
残念ながら、一度進行した糖尿病網膜症を完全にもとの状態に戻すことは難しいのが現状です。糖尿病網膜症は、完全に治癒することはありません。眼科での治療は、これ以上悪化させないため、また、視力低下をできるだけ抑えるために行われます。
編集部まとめ

糖尿病網膜症は、重症になるまで見え方の変化がほとんど現れないことが多い病気です。
進行するまで自覚症状に欠けるため、「見えているから大丈夫」と自己判断することは大変危険です。
糖尿病と診断されたら、内科での治療と並行して、必ず定期的に眼科を受診してください。
早期発見・早期治療が、視力を守るための方法です。目の健康を守るためにも、ぜひ継続した受診を心がけましょう。
参考文献




