「複雑性PTSD」の症状・原因はご存知ですか?検査・治療法も解説!【医師監修】

複雑性PTSDは、長期間にわたる虐待など、繰り返されるトラウマ体験によって発症する精神疾患です。通常のPTSDの症状に加えて、感情のコントロールの困難さや対人関係の問題など、日常生活に大きな影響を及ぼす症状が現れます。本記事では、複雑性PTSDの症状や原因、診断基準、治療法を解説します。

監修医師:
前田 佳宏(医師)
目次 -INDEX-
複雑性PTSDの基礎知識

複雑性PTSDとはどのような病気ですか?
参照:『複雑性PTSD治療を届けるために~ 効果検証と治療者の育成~』(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
複雑性PTSDの症状を教えてください
複雑性PTSDに特徴的なのが自己組織化の障害です。これは感情を調整したり、対人関係をうまく築いたり維持するのが難しいなどの症状を指します。具体的には、感情が抑えられない、喜びなどを感じられない、他者に親近感を持続的に持つことが困難である、人間関係や社会的な関わりを避ける、などです。このほかにも、一時的な解離症状(現実感がなくなるなど)、自分自身が無価値であると感じる、などの症状もあります。
なぜ複雑性PTSDを発症するのですか?
複雑性PTSDとPTSDの違いを教えてください
複雑性PTSDの検査と診断、治療法

複雑性PTSDが疑われるときはどのような検査を行いますか?
複雑性PTSDの診断基準を教えてください
- 著しく脅威的または恐ろしい性質の出来事または一連の出来事を体験したことがある(直接体験、目撃、身近な人に起こったことを知る、など)
- 長期にわたり反復的で、かつ逃れることが困難な状況下の出来事である
- 数週間以上症状が持続している
- 以下の3つのカテゴリすべてから、それぞれ少なくとも1つの症状を認める
| カテゴリ | 具体的な症状 |
|---|---|
| 再体験 | ・心的外傷後出来事を単に思い出すだけでなく、今ここで再び起こっているかのように体験すること ・心的外傷後出来事を思い出すと強い苦痛や身体的な反応が起こる ・心的外傷後出来事の記憶が侵入的に繰り返し思い出される |
| 回避症状 | ・心的外傷後出来事についての思考や記憶を避けようとする ・心的外傷後出来事を思い出させる状況、人物を避けようとする ・心的外傷後に関連する場所、会話、物などを避ける |
| 脅威の感覚の亢進(常に警戒している状態) | ・過度な警戒心がある ・些細な刺激にも過剰に驚く ・現在進行中の脅威に対する感覚が高まっている状態が続く |
これらの障害が、日常生活に大きな支障を来していることが必須です。次に、自己組織化の障害を解説します。これには以下の表に示す、3つの症状カテゴリがあります。
| カテゴリ | 具体的な症状 |
|---|---|
| 感情調整の困難 | ・感情のブレーキがききにくく過剰に反応してしまう状態 ・衝動的な行動、無謀な行動、または自傷行為 ・感情の麻痺、特に喜びや肯定的な感情を経験できない |
| 否定的な自己概念 | ・自分自身を欠陥、無価値であると持続的に信じている ・トラウマ的な出来事に関連した、深く広範な羞恥心、罪悪感、または失敗感 |
| 対人関係の困難 | ・他者への親密感を維持すること、感じることに持続的な困難がある ・人間関係や社会的な関わりを一貫して避けたり、軽視したりする ・一時的に激しい人間関係を持つが、安定して維持することが難しい |
この3つのカテゴリそれぞれで、少なくとも1つの症状を認める必要があります。ICD-11では、複雑性PTSDはPTSDとは独立して定義されています。この、自己組織化の障害が複雑性PTSDの特徴でもあります。
複雑性PTSDはどのように治療しますか?
また、複雑性PTSDでは必要に応じて薬物療法が行われます。代表的な薬剤は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。SSRIは脳内のセロトニンという神経伝達物質の働きを調整することで、気分や不安をコントロールする作用があります。
複雑性PTSDが疑われるときの対処法と診断後の注意点

複雑性PTSDかもしれないときは何科を受診すればよいですか?
複雑性PTSDと診断された後に、日常生活で気を付けることを教えてください
日常生活では、規則正しい生活リズムを保つよう心がけましょう。十分な睡眠時間を確保し、バランスの取れた食事を摂ることが症状の安定につながります。対人関係では、無理に多くの人と関わろうとせず、信頼できる人との関係を大切にするようにします。自分を責めたり、一人で抱え込んだりしそうなときは、専門家などほかの方の助けを借りることを思い出してください。焦らずに、自分のペースで過ごしましょう。
編集部まとめ

複雑性PTSDは、持続的または繰り返される心的外傷的出来事によって生じます。PTSDの核となる症状に加え、自己組織化の障害を必須とする精神疾患です。日常生活や社会生活に支障をきたすため、精神科や心療内科など医療機関への相談が必要です。安全な環境の確保と専門的な介入によって、症状の軽減が期待できます。疑わしい症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
参考文献
- 『複雑性PTSD治療を届けるために~ 効果検証と治療者の育成~』(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
- 『複雑性 PTSDの診断と特徴,および治療』(公益社団法人 日本心理学会)
- 『Complex post traumatic stress disorder』(ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics)
- 『複雑性PTSD治療前進へ ~心理療法(STAIR Narrative Therapy)の成果~ 』(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
- 『ISTSS Guidelines Position Paper on Complex PTSD in Adults』(International Society for Traumatic Stress Studies)



