身近にPTSDの患者さんがいる方のなかには、どのように声かけをしたらよいのか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。たしかにどのような声かけが正解なのか、迷うのも無理はありません。
本記事では、PTSDの方に言ってはいけない言葉を紹介します。また安心感を与える接し方や支える方法も解説するので、今後のサポートの知識として取り入れましょう。
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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
PTSDの方に言ってはいけない言葉

PTSDについて教えてください。
PTSDとは、災害や戦争・事件・交通事故など生死に関わる恐ろしい体験をしていまい、トラウマ記憶として脳内で繰り返し恐怖を感じ続けてしまう疾患のことです。心的外傷後ストレス障害とも呼ばれており、強烈なトラウマ体験をすることで日常生活に支障をきたしやすくなります。PTSDはトラウマと混同しがちですが、特徴や症状などが異なります。トラウマは不快な体験をした際に心や身体に刻まれる傷のことで、時間の経過とともに徐々に薄れていくのが特徴です。しかし、PTSDはトラウマ後も継続的に体験が続くような状態が特徴です。当時の記憶がリアルに想起されるため、恐怖体験から離れていたとしても、まるで当時の場面にいるような感覚を味わってしまいます。PTSDのメカニズムは不明といわれており、トラウマを体験した方すべてが発症するわけではありません。そのため、同じ体験をしたとしても普段どおりの生活を送っている方もいます。
PTSDの症状について教えてください。
PTSDの主な症状は、再体験・回避行動・過覚醒・否定的思考などの4つに分類されます。具体的な症状の特徴は、次のとおりです。再体験は当時の恐怖体験を繰り返し思い出してしまい、精神的苦痛を感じるのが特徴です。例えば事件現場と似た環境に足を運んでしまったり、恐怖体験と関連するものを目にしてしまったりすると、当時の瞬間を鮮明に思い出してしまいます。体験時に関わるものと直面すると、トリガーとして引き起こされるため注意が必要です。回避行動とは、トラウマになるような場所や人物・物体などを避ける行動のことです。例えば、津波で被災を受けた方であれば海を避けるようになります。対象物が多いと行動に制限が生じやすくなるため、場合によっては日常生活に支障をきたす可能性もあります。過覚醒は交感神経が過剰に活性化し、心身ともに緊張状態に陥る状態です。PTSDだけでなく、慢性的なストレスやうつによっても発症することがあり、不眠症やイライラ・集中力低下・筋肉のこわばりなどの症状があります。長期間にわたって過覚醒が続くと日常生活に支障をきたすため、場合によっては新たな精神疾患の発症にもつながるでしょう。生死に関わる恐ろしい体験をすると、自己否定や絶望感・自責の念・人間不信などさまざまな否定的感情や思考に陥りやすくなります。かつて楽しめたことでも、PTSD発症後は楽しめなくなってしまうことも珍しくはありません。
PTSDの方に言ってはいけない言葉はどのようなことですか?
PTSDで苦しんでいる方のために、何とか元気づけようと言葉をかける方もいるでしょう。しかし伝え方次第では、
かえって本人を傷つけてしまうことがあり注意が必要です。特に以下のような言葉がけは、本人を傷つけてしまう可能性があります。
- がんばりましょう
- 早く忘れましょう
- 生きているだけでよいではありませんか
- 私には耐えられません
- 気持ちはわかります
- 前向きに行きましょう
- 考えなければよいじゃないですか
- 強く生きないとダメですよ
- いつまでもくよくよしてはいけません
- 次によいことがありますよ
その他にも、PTSDの方に言ってはいけない言葉がたくさんあります。言葉のかけ方次第では、本人のなかで突き放されてしまった、誰にもわかってもらえないというような思いを抱きやすくなります。言葉をかける際は、患者さんの気持ちに寄り添った言葉がけが重要です。
PTSDの方に関わるときの注意点はありますか?
PTSDの方と接する際は、本人の様子をよく観察し、適切に対応することが大切です。PTSDは、何かしらのきっかけで突然起こる場合があります。再体験の際は「辛かったね」「私がいるから大丈夫よ」というように本人の心に寄り添った言葉をかけて、患者さんの心に寄り添いましょう。またPTSDの方と接する際は、当時のことを思い出させないよう配慮することが重要です。無理に話を聞きだそうとすると、フラッシュバックや過覚醒というような症状が引き起こされやすくなります。もし接し方でわからない場合は、精神科やメンタルクリニックの医師に相談しましょう。
PTSDの方に安心感を与える接し方

PTSDの方に安心感を与える接し方はありますか?
PTSDの方に安心感を与えるためには、
本人の気持ちに共感し支えることが重要です。しかし、どのように接すればよいのかわからない方もいることでしょう。もし接し方で困った際は、ピアカウンセリングのスキルを身につけるのがおすすめです。一般の方でも取り組めるカウンセリング手法で、8つの約束事があります。
- 決めつけや批判をしない
- 本人の気持ちに共感する
- 個人的なアドバイスは与えない
- 詰問調にならない
- 相談者が抱える問題の責任は取らない
- 解釈をしない
- 過去ではなく今の状況に焦点を当てる
- 感情と向き合い感情について話し合う
ピアカウンセリングは、精神科や大学付属の心理臨床相談センターなどの機関でプログラムを受けることが可能です。PTSDの方に少しでも安心感を与えたい場合は、普段どおりに接するのがおすすめです。普段と変わらない接し方をするだけでも、PTSDの方は気が休まりやすくなります。
PTSDは誰でもかかりやすい症状ですか?
PTSDは、生死に関わる体験をした人
すべてが発症するとは限りません。戦争や災害などで同じ体験をした方であっても、発症せずに日常生活を過ごしている方もいます。また被害後から期間が空いてから発症することもあり、人によっては半年後にPTSDに至ることも珍しくありません。PTSDの発症リスクは研究で明らかになっているため、傾向を知ることが重要です。
- 死に直面する恐怖体験をした方
- アドレナリンの分泌量が多い方
- 被害の後の社会的サポートが十分に受けられなかった方
- 被害後の生活ストレスが大きい方
- 災害や事故などの危険と隣り合わせた仕事をしている方
- カフェインを多めに摂取している方
- 以前にトラウマ体験をしている方
上記はあくまでもPTSDになりやすい方であり、実際に発症するとは限りません。恐怖体験で心に傷を負ってしまった場合は、十分なソーシャルサポートを受けることが必要です。
PTSDは寛解までにどのくらいかかりますか?
PTSDは、症状が寛解するまでに数ヶ月から数年かかるといわれています。少しでもPTSDの症状を緩和させるためには、早い段階でメンタルクリニックや精神科・心療内科などで治療を受けることが必要です。人によってサポート内容は異なりますが、薬物療法やEMDR・認知行動療法などでアプローチしていきます。PTSDは強いショックによって自力での回復が難しいため、継続的な治療が重要です。しかし治療が順調に進めば徐々に症状が落ち着き、通常どおりの日常生活を過ごせるようになるでしょう。
PTSDを支える方ができること

PTSDを支える方ができることはありますか?
本人の気持ちに寄り添った言葉がけはもちろんのこと、生活(買い物・食事・仕事など)や健康などさまざまな側面でサポートしましょう。しかし一人で抱え込んでしまうと、心身ともに疲弊してしまいます。サポートで困った際は、医療機関や周囲の方に相談しましょう。
PTSDの受診目安を教えてください。
PTSDの症状は身体面・行動面・思考面などさまざまな側面で現れます。恐怖体験の前後で本人の様子に変化が見られた場合には、一度精神科やメンタルクリニックなどを受診するのが望ましいです。しかし人によっては、受診を躊躇する方も少なくありません。もし自力で受診するのが難しい場合には、一緒に付き添ってあげましょう。
PTSDの公的支援制度はどのようなものがありますか?
PTSDの方が受けられる
公的支援制度には、以下のようなものがあります。
休職・傷病手当は休職中に支給される手当のことです。休職・傷病手当があることにより、休職中の金銭的不安を軽減できます。自立支援医療は、精神疾患で通院する方の医療費の自己負担額を軽減する制度です。具体的な公的支援制度の詳細は、精神科やメンタルクリニックなどに聞いてみましょう。
編集部まとめ

本記事では、PTSDの方に言ってはいけない言葉を紹介しました。PTSDの方に安心感を与えるためには、本人の気持ちに寄り添った声がけが重要です。
その他にも、生活や健康などさまざまな側面でサポートすることで、日常生活への復帰がスムーズになりやすくなります。
PTSDの方への接し方で困った点があれば、精神科やメンタルクリニックなどに相談しましょう。