めまいは誰にでも起こりうる身近な症状で、立ち上がったときにふらついた経験がある方も少なくありません。原因は低血圧や貧血、薬の副作用などさまざまですが、耳の奥にある三半規管の異常で生じることもあります。その代表が良性発作性頭位めまい症(BPPV)です。
この記事では、良性発作性頭位めまい症の基礎知識や症状、発症しやすい方の特徴、治療や予防法を解説します。
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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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眼科(角膜外来)
良性発作性頭位めまい症の基礎知識

良性発作性頭位めまい症とはどのような病気ですか?
良性発作性頭位めまい症は、耳の中の耳石と呼ばれる小さな粒が剥がれて三半規管になだれ込み、頭の位置を変えたときに異常な刺激を脳に送ることでめまいが生じる病気です。耳鼻咽喉科外来で診断されるめまいのなかで頻度が高く、
めまい患者さんの10〜40%を占めると報告されています。
三半規管は前・後・水平の3本があり、頭の動きを感知する役割を果たしています。そのなかを満たすリンパ液が動くことで感覚が伝わり、私たちは姿勢を保っています。剥がれた耳石がこのなかに入り込むと、頭の動きに関係なくリンパ液が乱れ、脳に誤った情報が伝わります。その結果、実際には動いていないのに身体が回転しているように感じます。
この病気が良性と呼ばれるのは、脳腫瘍や脳出血のように生命に直接関わる病気ではないためです。ただし命に関わらないからといって軽いものではなく、めまい発作は強い不安や転倒につながり、生活の質を下げる原因になることがあります。
参照:『 4.良性発作性頭位めまい症BPPV―後半規管型BPPV』(飯田 政弘、Equilibrium Research, 2013, 72 巻, 6 号, p. 443-450)
良性発作性頭位めまい症の症状を教えてください
特徴的な症状は、突然起こる強い回転性のめまいです。寝返りを打つ、ベッドから起き上がる、顔を上に向ける、下をのぞき込むといった頭の動きで誘発されやすく、発作は予期せず出現します。
めまいは数十秒から数分ほどで自然におさまりますが、その間に吐き気や冷や汗を伴い、強い恐怖感を覚える患者さんもいます。
発作の直後には、ぐらつくような不安定感やふらつきがしばらく残ることがあり、めまい発作そのものと併せて症状が繰り返し現れるのが特徴です。難聴や耳鳴りを伴わない点もこの病気の症状の特徴です。
良性発作性頭位めまい症の原因となりやすい方の特徴

なぜ良性発作性頭位めまい症になるのですか?
耳石が耳石器から剥がれ、三半規管になだれ込むことで発症します。耳石は炭酸カルシウムでできた小さな粒で、ゼラチン状の膜に付着しています。この膜が加齢や外傷、長期間の同じ姿勢などで弱くなると耳石が外れやすくなります。剥がれた耳石がリンパ液の流れを乱し、頭の動きと異なる刺激が神経に伝わることで強いめまいが起こります。
耳のなかで耳石が剥がれ落ちる原因を教えてください
加齢によって耳石を支える膜がもろくなることが一般的な原因です。頭部外傷による衝撃も一因で、スポーツや事故で頭を打った後に発症することがあります。さらに骨粗鬆症やビタミンD不足は耳石をもろくし、剥がれやすくすると考えられています。長期間の臥床や運動不足、内耳の血流障害やウイルス感染後の炎症も要因になる可能性があります。
良性発作性頭位めまい症になりやすい方に特徴はありますか?
女性に発症が多いです。特に更年期や閉経後の女性はホルモン変化によりカルシウム代謝が変化し、骨密度が下がりやすくなるためリスクが高まります。骨粗鬆症を持つ方、頭部外傷を経験した方、長期間寝たきりの生活を送っている方も発症しやすい傾向があります。
良性発作性頭位めまい症を発症しやすい年代や性別を教えてください
40代以降で発症が増え、50〜60代で多くみられます。女性は男性の約2倍発症しやすいとされています。高齢の方では再発率が高く、発作による転倒が骨折につながる危険があります。
良性発作性頭位めまい症の治療と予防方法

良性発作性頭位めまい症の治療法を教えてください
治療の中心は耳石置換法です。
エプリー法や
セモント法といった方法が代表的で頭や身体を一定の順序で動かすことで耳石を本来の位置に戻します。外来で短時間に実施でき、効果が確認されています。
例えばエプリー法では、ベッドに仰向けになった状態から頭の向きを段階的に変え、耳石を三半規管から元の場所へ誘導していきます。
薬は吐き気やめまいを和らげる目的で使われることがありますが、耳石を戻す効果はありません。まれに繰り返し再発する難治例では手術が検討されることもありますが、多くの患者さんは体位変換法で改善します。
良性発作性頭位めまい症を予防する方法はありますか?
完全に防ぐことは難しいですが、再発予防には生活習慣を整えることが役立ちます。規則正しい睡眠と食生活、適度な運動を心がけましょう。特にビタミンDを多く含む魚やきのこ類を意識して摂ること、日光を浴びることは耳石の健康維持に有効です。骨粗鬆症の治療を受けている方は継続することで耳石の安定にもつながります。
また、寝返りを打つ、長時間同じ姿勢でいないことも再発予防につながります。横向きでしか眠らない習慣がある方は、時々体勢を変えることがすすめられます。
何度も良性発作性頭位めまい症を発症する場合の対策を教えてください
繰り返す場合は、自宅でできる体操を取り入れるのがおすすめです。代表的なのが
Brandt-Daroff体操で、医師の指導のもと左右に身体を傾ける運動を繰り返すことで耳石が排出されやすくなります。
例えばベッドの端に腰かけてから片側に横たわり、30秒ほどその姿勢を保った後にゆっくり起き上がり、反対側に同じ動作を行います。これを数回繰り返す方法です。自宅でも実施できますが、最初は医師に正しいやり方を確認しておくとよいでしょう。
再発を恐れて活動を制限すると身体機能やバランス感覚が低下し、かえって転倒のリスクが高まります。生活のなかで身体を動かす工夫を取り入れ、併せて骨粗鬆症やビタミンD不足の治療に取り組むことが効果的です。
編集部まとめ

良性発作性頭位めまい症は耳石の剥がれによって起こるめまい疾患です。強い回転性めまいを繰り返しますが、耳鳴りや難聴を伴わないのが特徴です。女性や高齢の方に発症が多くみられ、骨粗鬆症やビタミンD不足との関連も知られています。
治療は耳石置換法が中心であり、自宅での体操や生活習慣の改善によって再発を減らすことができます。早めに受診し、診断を受けることはとても重要です。正しい知識と対処法を身につければ、落ち着いて日常生活を続けることが可能です。
参考文献
- 『 4.良性発作性頭位めまい症BPPV―後半規管型BPPV』(飯田 政弘、Equilibrium Research, 2013, 72 巻, 6 号, p. 443-450)
- 『良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン(医師用)』(日本めまい平衡医学会診断基準化委員会編, Equilibrium Research, 2009, 68 巻, 4 号, p. 218-225)
- 『良性発作性頭位めまい症』(Equilibrium Research, 2016, 75 巻, 4 号, p. 211-218 今井 貴夫)