「ウイルス性胃腸炎がうつった」ときの対処法はご存知ですか?【医師監修】
公開日:2025/11/28

ウイルス性胃腸炎は、ウイルス感染によって胃や腸に炎症が起こる病気です。俗におなかの風邪などとも呼ばれ、子どもから大人まで幅広い世代が毎年かかります。特に秋から冬にかけて流行しやすく、集団での感染事例も多い厄介な感染症です。本記事ではウイルス性胃腸炎がうつるのかをはじめ、症状や治療、感染経路、そして実際にうつってしまった場合の対処法や予防策を解説します。

監修医師:
高宮 新之介(医師)
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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。
ウイルス性胃腸炎の概要
ウイルス性胃腸炎とはどのような病気ですか?
ウイルス性胃腸炎は、ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルス感染によって起こる胃腸の感染症です。ウイルスが胃や腸の粘膜に感染して増殖し、嘔吐や下痢、腹痛など急性の胃腸炎症状を引き起こします。
細菌による食中毒とは原因が異なり、特にウイルスによる胃腸炎が発生しやすいのは秋から冬にかけての寒い時期です。いわゆる胃腸風邪の多くはこのウイルス性胃腸炎にあたります。感染力が強く、保育園・学校や高齢者施設などで集団感染するケースもみられます。
なお、ウイルス性胃腸炎には複数の原因ウイルスがありますが、代表的なものにノロウイルス(主に冬季に流行)、ロタウイルス(乳幼児に多い)、アデノウイルスなどがあります。
ウイルス性胃腸炎の症状を教えてください
主な症状は吐き気・嘔吐、下痢、腹痛、発熱です。典型的には急に吐き始め、その後に下痢が続く経過をたどります。
多くの場合、まず数回の嘔吐が起こり、半日~1日ほどで吐き気は治まりますが、続いて水のような下痢が1日〜数日間続きます。発熱は出ないか微熱程度で済むこともありますが、ウイルスの種類や体質によっては38度以上の熱が出ることもあります。
また脱水症状(体の水分不足)が起こることもあります。嘔吐や下痢によって体内の水分が失われるため、お口の渇きや尿の減少、めまいなどの脱水の徴候が現れることがあります。特に乳幼児や高齢の方は脱水になりやすいです。
ウイルス性胃腸炎はどのように治療しますか?
特別な治療薬はなく、対症療法(症状を和らげる治療)が中心です。抗生物質は細菌には効きますがウイルスには効かないため、ウイルス性胃腸炎には使いません。嘔吐や下痢で失われた水分と塩分を補うためのこまめな水分補給が重要です。
ウイルス性胃腸炎の感染経路と発症のメカニズム
ウイルス性胃腸炎の原因となるウイルスを教えてください
ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスの3つが代表的です。このほかサポウイルス、アストロウイルスなども原因となる場合があります。特に成人で最も患者数が多いのがノロウイルスで、毎年冬季(11月〜3月頃)に流行し冬の嘔吐下痢症の主因となります。
参照:『令和6年(2024年)食中毒発生状況』(厚生労働省)
ウイルス性胃腸炎の感染経路を教えてください
人から人への感染が主体で、その多くは経口感染です。具体的には、患者さんの便や嘔吐物に大量に含まれるウイルスが手や指を介してお口に入ったり、ウイルスで汚染された食品や水を口にすることで感染します。
接触感染(汚染物に触れてお口から入る)や食中毒型の感染(汚染された食品を食べる)が主な経路です。さらにノロウイルスの場合は、嘔吐物が乾燥するとウイルスが微粒子として空気中に舞い上がるため、それを吸い込んで感染することもあります。狭い室内で嘔吐した際に周囲の方が吸入感染するような飛沫感染(空気感染)にも注意が必要です。
ウイルス性胃腸炎は感染後どのようなメカニズムで発症しますか?
ウイルスがお口から体内に入ると、胃や腸の中で増殖して胃腸粘膜を荒らし、炎症を起こします。
例えばノロウイルスは人の小腸で盛んに増殖し、小腸粘膜の上皮細胞を破壊します。その結果、水分や栄養の吸収がうまくできなくなって水様性の下痢が生じます。また、ウイルスと腸管免疫との戦いにより腸が刺激され、内容物を早く体外に出そうとして吐き気・嘔吐や腹痛を引き起こすと考えられています。
発熱は身体がウイルスと戦う免疫反応の一環で、特に小児では高熱が出ることもあります。
ウイルス性胃腸炎が流行しやすい時期を教えてください
冬場(11月~3月頃)が流行しやすい季節です。なかでも12月~1月は患者数のピークとなる年が多く、冬季の急性胃腸炎の大半はウイルス性であるともいわれます。一方、春先(3月前後)にも小さな流行の波があり、これは主に乳幼児のロタウイルス感染症が多くなるためです。
ウイルス性胃腸炎がうつったときの対処法と感染対策
ウイルス性胃腸炎がうつったらどうすればよいですか?
無理をせず自宅で安静に過ごすことが基本です。症状が辛い初期には水分補給を優先します。吐いてしまう間は経口補水液や冷ましたスープなどを少量ずつ頻回に摂取してください。ウイルス性胃腸炎は時間経過とともにウイルスが体外へ排出されていきます。焦らずゆっくり休養し、少しずつ水分・栄養を摂取して回復を待ちましょう。
ウイルス性胃腸炎で病院に行くべきサインを教えてください
次のような場合は早めに医療機関を受診してください。
- 水分がまったく摂れないか、飲んでもすぐ吐いてしまう場合
- 脱水症状が疑われる場合(尿が半日以上出ない、唇やお口の中がカラカラに乾いている、ぐったりして反応が鈍いなど)
- 血液が混じった下痢や激しい腹痛がある場合
- 38度以上の高熱が続く場合
- 乳幼児や高齢の方で症状が重い場合
- おむつが半日以上濡れていない
- 泣いても涙が出ない
- 皮膚の弾力がなくなる(つまんでも戻らない)
ウイルス性胃腸炎を予防するために何をすべきですか?
ウイルス性胃腸炎の予防策として重要なのは以下のポイントです。
- 手洗いの徹底
- 食品の衛生管理
- 嘔吐物・便の適切な処理
- 感染者の隔離
- 予防接種(ロタウィルスの乳幼児用ワクチン)
編集部まとめ
ウイルス性胃腸炎の流行を防ぐには、一人ひとりの対策の積み重ねが重要です。手洗いや消毒など基本を徹底し、ご家族みんなで感染予防に取り組みましょう。
正しい知識を持って対処すれば過度に怖がる必要はありません。発症してしまった場合でも、まずは落ち着いて水分補給と休養を行いましょう。多くは数日で回復し、後遺症を残すこともありません。大切なのは脱水に気をつけることと、必要に応じて早めに医療機関を受診する判断です。また、日頃から手洗いの徹底や食品の衛生管理によってウイルス性胃腸炎はかなり防ぐことができます。特にノロウイルスはごく微量でうつるため、「もらわない・うつさない」ための手洗い・消毒・マスク着用は家族みんなで心がけたいですね。
参考文献




