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「糖尿病性網膜症」に初期症状はあるの?進行すると現れる症状も解説!【医師監修】

 公開日:2025/09/12
「糖尿病性網膜症」に初期症状はあるの?進行すると現れる症状も解説!【医師監修】

「最近、なんとなく目が見えにくい」「糖尿病と診断されたけれど、目の検査は後回しにしている」
そのような方に注意が必要な病気が、糖尿病性網膜症(とうにょうびょうせいもうまくしょう)です。
糖尿病は、高血糖の状態が続くことで、全身の血管にダメージを与える病気ですが、なかでも目の奥にある網膜は特に影響を受けやすい器官です。
網膜の毛細血管が傷つくと、糖尿病性網膜症という合併症を引き起こすことがあります。この病気は、初期の段階では自覚症状がほとんどなく、気付かないうちに病状が進行してしまうケースも少なくありません。そして病気が進行すると、視力の低下や失明につながることもあるため、早期発見と適切な治療が重要です。
この記事では、糖尿病性網膜症の症状や病院で行われる検査や治療法、さらには日常生活で気をつけたいポイントまでわかりやすく解説します。

栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

糖尿病性網膜症の基礎知識

糖尿病性網膜症の基礎知識

糖尿病性網膜症とはどのような病気ですか?

糖尿病性網膜症とは、糖尿病が原因で目の奥にある網膜(もうまく)に障害が起こる病気です。網膜は、カメラでいうフィルムのような役割を果たしており、光や色を感じとって脳に情報を伝える器官です。
糖尿病性網膜症は、大きく3つの段階に分けられます。

単純糖尿病網膜症
はじめに現れるのは、網膜の毛細血管がもろくなることによって起こる変化です。糖尿病にかかって約10年で発症するといわれています。血管が膨らんで毛細血管瘤ができたり、血管から血液が漏れ出したりします。この段階では自覚症状がほとんどないといわれているため、定期的な眼科検診がとても重要です。

増殖前糖尿病網膜症
血管の障害が進行すると、一部の毛細血管が詰まって虚血した領域が網膜内に広がります。虚血が起きた部分の周囲では、血流を補おうとして毛細血管が異常に広がったり、蛇行したりします。また、網膜の神経細胞にむくみが出ることもあります(黄斑浮腫)。こうした変化は視力低下の前ぶれであり、より積極的な眼科治療が必要になります。

増殖糖尿病網膜症
網膜が広範囲に虚血状態になると、酸素不足を補おうとして新生血管(しんせいけっかん)が作られます。これは本来ないはずの異常な血管で壊れやすく、簡単に破れて硝子体(しょうしたい)出血を起こすことがあります。さらに、新生血管の周囲には増殖膜とよばれる組織ができ、これが収縮すると網膜を引っ張って網膜剥離を引き起こします。硝子体出血や網膜剥離が起こると視力は急激に低下し、失明につながることもあります。

このように、糖尿病性網膜症には大きく3つの段階があり、進行するにしたがって、視力に大きな影響を与えます。

なぜ糖尿病になると目に症状が現れるのですか?

糖尿病により高血糖の状態が長く続くと、全身の血管にダメージを与えます。なかでも目の奥にある網膜は毛細血管が集まっているため影響を受けやすく、糖尿病によって網膜の血管が傷つくことで目に症状が現れるようになります。

糖尿病性網膜症の症状と経過

糖尿病性網膜症の症状と経過

糖尿病性網膜症に初期症状はありますか?

先述したとおり、糖尿病性網膜症は初期の段階では自覚症状がほとんどないといわれています。目が見えにくくなって受診したときには、症状がかなり進行しているケースも少なくありません。
そのため、糖尿病と診断されたら早期に眼科を受診し、定期的に検査を受けることが大切です。

糖尿病性網膜症が進行するとどうなりますか?

糖尿病性網膜症が進行すると、さまざまな目の病気をきたします。特に増殖糖尿病網膜症の状態になると、硝子体出血網膜剥離(もうまくはくり)などを引き起こし、視力の低下や失明に至ることがあります。

糖尿病性網膜症の進行速度を教えてください

糖尿病はそのタイプによって網膜症の進行速度は異なります。具体的には、1型糖尿病患者さんでは、約14~16%が4年以内に増殖糖尿病網膜症に進行することが報告されています。また、2型糖尿病患者さんでは年率2.1%で増殖前糖尿病網膜症もしくは増殖糖尿病網膜症に進行することが報告されています。糖尿病性網膜症の進行速度には個人差があり、糖尿病に罹患している期間や、病期、血糖コントロールの状態などで異なります。そのため、日本糖尿病学会では、眼科受診の間隔について、病期ごとに以下のように推奨していますが、その間隔は眼科医の判断によって長くなったり、短くなったりします。

糖尿病(網膜症なし) 1回/1年
単純糖尿病網膜症 1回/6ヶ月
増殖前糖尿病網膜症 1回/2ヶ月
増殖糖尿病網膜症 1回/1ヶ月

糖尿病性網膜症の検査と治療

糖尿病性網膜症の検査と治療

糖尿病性網膜症の検査内容を教えてください

糖尿病性網膜症の検査内容には、次のような方法があります。

視力検査
裸眼や眼鏡・コンタクト使用時の視力を測定し、視力の変化がないかチェックします。

眼圧検査
目の中の圧力(眼圧)を調べて、緑内障や炎症を合併していないか確認します。

細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査
細隙灯顕微鏡とよばれる専用の顕微鏡で、目の前の部分(角膜、光彩、水晶体など)を詳しく検査して、炎症の有無を確認します。

眼底検査
目薬で瞳孔を開き、網膜を直接観察します。出血や、新生血管、黄斑浮腫の有無などを確認して、糖尿病性網膜症の進行度を評価します。

OCT(光干渉断層計)
網膜の断面を撮影し、黄斑浮腫や網膜の構造の変化を詳細に調べます。

蛍光眼底造影(けいこうがんていぞうえい)
造影剤を注射して、網膜の血管を特殊なカメラで撮影します。網膜の血流が悪い場所や、新生血管の有無を確認します。

糖尿病性網膜症はどのように治療しますか?

糖尿病性網膜症では症状の進行度や状態に応じて、次のような治療を行います。

網膜光凝固(レーザー治療)
レーザーを用いて、網膜の一部を焼き固めることで新生血管の発生や出血を防ぎます。

硝子体手術
硝子体出血や網膜剥離が起きた場合には、手術によってその原因を取り除きます。視力の回復や失明の予防が期待されます。

硝子体内注射
目の中に薬を直接注射する治療法です。抗VEGF抗体薬や、ステロイド剤が使用されます。

また、糖尿病性網膜症の治療を受ける際には、眼科だけでなく内科的な治療も大切です。目の症状だけに注目するのではなく、糖尿病そのものの治療や管理を同時に行うことで、治療効果が高まります。血糖コントロールが良好になると、網膜症の進行が遅くなり、合併症のリスクを減らすことが期待できます。

糖尿病性網膜症の治療によって目の状態はもとに戻りますか?

糖尿病性網膜症の治療によって、目の状態を完全にもとに戻すことは難しいといわれています。しかし、適切な治療や血糖コントロールにより、症状の進行を抑えることは可能です。

糖尿病性網膜症を進行させないために気を付けることを教えてください

先述したとおり、糖尿病性網膜症は、日々の生活習慣の見直しや、医療による適切な管理によって進行を遅らせることが可能です。
糖尿病性網膜症を進行させないために、以下のポイントに気をつけましょう。

まず、基本となるのは血糖値のコントロールです。高血糖の状態が続くと、目の奥にある網膜の細い血管が傷つき、出血やむくみを引き起こします。これを防ぐためには、バランスのとれた食事、定期的な運動、そして医師の指示に従ったインスリンや内服治療による治療を継続することが大切です。
さらに、血圧やコレステロールの管理も重要です。高血圧や脂質異常症があると、網膜の血管にかかる負担が大きくなり、網膜症の進行リスクが高まります。食事内容の見直しや内服治療で、全身の健康を保つことが大切です。

そしてもう一つ大切なのが、定期的な受診・検査です。2型糖尿病のある方の場合、診断された時点で全体の約30%は、すでに糖尿病性網膜症を発症しているといわれています。糖尿病と診断されたら速やかに眼科を受診し、その後は医師に指定された頻度で定期的に検査をすることが大切です。

編集部まとめ

編集部まとめ

糖尿病性網膜症は、糖尿病の合併症のひとつで、放置すると視力の低下や失明に至る可能性のある注意するべき病気です。初期の段階では自覚症状がほとんどないといわれていることから、気付かないうちに病気が進行しているケースも少なくありません。
しかし、早期に発見して適切な対応をとれば、進行を食い止めることができます。
糖尿病性網膜症を予防・進行させないためには、日頃からの血糖・血圧・脂質の管理、そして何よりも定期的な眼科受診が欠かせません。糖尿病と診断された時点で、目の状態を確認することが、将来の視力を守る第一歩です。

この記事の監修医師