「糖尿病の壊疽(皮膚障害)」になるとどんな症状が現れる?壊疽の初期症状も解説!

糖尿病の壊疽について聞いたことはありますか?糖尿病は身近でよく聞く疾患ですが、合併症や症状、治療を知らない方も多いでしょう。特に糖尿病性壊疽は罹患すると残りどのくらい生きられるか(生命予後)、また、どのくらい元のように動けるようになるか、生活できるようになるか(機能予後)の両面で重要な病態です。糖尿病性壊疽をよく知り、防ぎましょう。

監修医師:
上田 莉子(医師)
目次 -INDEX-
糖尿病による壊疽の基礎知識

糖尿病の壊疽とは何ですか?
糖尿病の影響で以下のような問題が起きるために発症します。
- 神経がうまく働かず、痛みやケガに気付きにくくなる(神経障害)
- 血の流れが悪くなって、治りが悪くなる(末梢動脈の病気)
壊疽となってしまうと、もとに戻ることはありません。
糖尿病になると壊疽が起こる理由を教えてください
通常傷ができると、炎症、細胞が増える、傷あとを修復、の3つの段階を経て自然に治ります。しかし、糖尿病ではこの一連の流れが通常どおり進まず、次のような現象が起こります。
- 高血糖のために免疫細胞や皮膚の修復に関わる細胞の働きが低下する
- 血流が悪くなり、必要な栄養や酸素が届きにくくなる
- 酸素不足が起きると、逆にコラーゲンを壊す酵素(MMP-1など)が増え、治癒を阻害する
糖尿病は神経障害を引き起こす疾患です。しびれや感覚が鈍くなることがあり、さまざまな弊害をおこします。靴ずれや小さなキズに気付きにくく、悪化しがちです。また、痛みを感じにくくなるため傷を放置してしまうこともあります。
血糖が高いと免疫機能が落ち、細菌に感染しやすくなります。感染のため炎症がひどくなり、さらに治癒しにくくなり、また感染を起こす悪循環に陥ることも多いです。
糖尿病による壊疽の初期症状と危険性

壊疽には前兆や初期症状はありますか?
実際に、小さな傷ができたとき、さらに注意が必要です。靴ずれ、爪の食い込み、虫刺され、水ぶくれや皮膚の乾燥、ひび割れなどが起こっていないか、足を毎日よく観察することが重要です。
壊疽の初期症状を放置するとどうなりますか?
感染が皮下組織や骨に広がると、蜂窩織炎や骨髄炎となり、歩けなくなることもあります。強い抗菌薬や入院治療が必要になることもあります。しかし、血流が悪いために局所に抗菌薬が届きにくく、感染制御不能になることも多いです。さらに時間が経過すると命を守るために足指、足首、下腿などを切断せざるをえなくなる場合があります。このような場合、日常生活に大きな影響を及ぼし、介護が必要になることもあります。
糖尿病によって足の切断を余儀なくされる方の割合を教えてください
糖尿病による壊疽の治療方法と効果

初期段階の壊疽はどのように治療しますか?
まず始める治療として大切なのが、フットケアです。
足の裏にできた傷は、歩くたびに体重がかかって悪化しやすいです。そのため、特別な靴やギプス(オフローディング)を使って、傷にかかる圧をできるだけ減圧します。専門の靴や装具を使用するようにしましょう。
傷をやさしく洗って、乾いた清潔なガーゼなどで保護します。消毒液の使いすぎは皮膚を傷めるので、医師の指示に従いましょう。湿った環境の方が傷が早く治るため、保湿ガーゼや創傷被覆材を使うことがあります。
加えて血糖管理を強化します。さらに、糖尿病性壊疽の成因に基づき治療を行います。まず、血行障害があるかどうかを評価します。血行障害がない場合は神経障害と感染を伴うことが多いため、抗菌薬の治療と死んだ組織を取り除く治療を行います。
傷の表面に黒くなった皮膚や膿があると、治りが悪くなります。医師が必要に応じて、壊死した組織をとりのぞきます(=デブリードマン)。
傷が赤く腫れたり、熱をもっていたり、膿が出る場合は感染徴候です。抗生物質の飲み薬や点滴で治療を行います。
血行障害がある場合は、できるだけ早く血行再建術を行います。
進行した壊疽の治療法を教えてください
- 血行再建術
具体的には、血管を広げるカテーテル治療(バルーンやステントなど)、閉塞したり狭窄したりした血管を迂回するようにほかの血管から血流が流れるようにするバイパス手術などです。足先に血液が流れるようにします。 - 局所創傷管理
広範な壊死部を外科的に除去し、感染源を取り除いたうえで陰圧閉鎖療法やbFGF製剤などを用いて肉芽形成を促します。 - 集学的医療
内科形成外科、フットケア外来、看護師などと連携し、全身管理と創傷処置を統合した治療が必要です。 - 特殊療法
無菌ウジ虫による生物学的デブリードマン(MDT)などの高度療法も選択肢となります。
早期の血行再建や適切な創傷ケアにより、壊疽の範囲を小さくし、切断を防げる可能性が高まります。
広範な壊死や感染制御困難の末期壊疽の場合、血流が保たれていない組織を切り離す治療が必要になります。命を守るため、感染制御が不可能なケースでは足指単位から下腿切断まで、検討されます。足を切断した場合、着衣、移動、入浴、トイレの使用などの日常生活のADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)が低下する可能性があり、切断後の断端ケアやリハビリテーション、義足装着などを含む生活支援が重要です。切断は最終手段ですが、命を救うために選択されることがある重大な介入です。
治療を行えば足は元どおりになりますか?
したがって、早期に治療する、あるいは予防が重要な疾患です。
壊疽の治療を行った後のリハビリテーションについて教えてください
再発予防のためのケアとして、フットケアと足の圧分散が重要です。
足底の圧力が集中しないよう、装具(インソール、靴)や特注靴、歩行補助具を使用します。
また、歩行機能の回復のため、筋力のリハビリテーションを合わせて行います。下肢筋力トレーニングで活動制限後の筋力低下を防ぐことが重要です。また、治療後に傷や装具のために歩行訓練が必要になる場合があります。傷や装具に合わせた負荷の調整が必要となるため、義肢装具士、理学療法士と連携して行います。
編集部まとめ

糖尿病で発症する壊疽の初期症状や予防、治療法を解説しました。糖尿病は全身に影響を及ぼす疾患であり、特に壊疽は集学的治療が必要な疾患です。生命予後も悪いため、予防と早期発見、早期治療が重要になります。糖尿病と診断された場合、フットケアを定期的に正しく行い、壊疽を未然に防ぎましょう。




