「糖尿病の治療法」はご存知ですか?発症したら気を付けることも解説!【医師監修】
公開日:2025/10/25

糖尿病は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの作用不足によって慢性の高血糖が続く代謝疾患群と定義され、放置すると合併症を引き起こし、生活の質の低下や寿命の短縮につながる可能性があります。そのため、適切な診断と継続的な治療が重要です。

監修医師:
上田 莉子(医師)
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関西医科大学卒業。滋賀医科大学医学部付属病院研修医修了。滋賀医科大学医学部付属病院糖尿病内分泌内科専修医、 京都岡本記念病院糖尿病内分泌内科医員、関西医科大学付属病院糖尿病科病院助教などを経て現職。日本糖尿病学会専門医、 日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医、日本専門医機構認定内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医、内科臨床研修指導医
目次 -INDEX-
糖尿病における治療の位置付け
糖尿病は病院で治療すれば完治しますか?
いいえ、糖尿病は一度発症すると決して完治はしません。しかし、高血糖の持続により引き起こされる糖尿病合併症の発症や進行を抑えるため、通院での継続的な治療が必要です。
糖尿病治療の目的を教えてください
糖尿病治療の最終的な目標は、糖尿病ではない方と変わらない日常生活の質の維持と寿命の確保です。これを達成するために、以下のような具体的な目標が掲げられます。
- 血糖値、血圧、脂質代謝を良好な状態にコントロールする
- 適正体重を維持し、禁煙を遵守する
- 糖尿病に特有な細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)や、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患(大血管合併症)の発症・進展を阻止する
糖尿病を治療しないとどうなりますか?
糖尿病を治療しない場合、高血糖状態が持続することで、インスリンを分泌する細胞の機能低下や、インスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性の悪化が進み、病態が進行します。また、糖尿病の合併症が進行し、目や腎臓、神経、血管などさまざまな部位に影響が現れます。
糖尿病の治療法
病院では初期の糖尿病に対してどのような治療を行いますか?
病院での初期の糖尿病治療は、まず食事・運動療法を基本とします。適切なエネルギー摂取量と栄養バランスを整えた食事療法、そしてインスリン抵抗性の改善やエネルギー消費量の増加を目指す運動療法が含まれ、血糖マネジメントに不可欠です。
2~3ヶ月間、十分な食事・運動療法を行っても目標とする血糖コントロールが得られない場合、薬物療法の開始が検討されます。
糖尿病の薬物治療が内服薬で始められるか、早期からインスリンの注射製剤を用いることになるかは、高血糖の程度や尿検査の結果により決定されます。
著明な高血糖や、尿検査でケトーシスという異常を伴う場合は、生活習慣の改善を待たずにインスリン療法の早期導入が検討されることもあります。
薬物療法を開始する際は、急激な血糖降下を避けるため、単剤から開始し、緩やかな血糖改善を目指すのが一般的です。
進行した糖尿病の治療法を教えてください
インスリン分泌能力が枯渇傾向になった糖尿病においては、インスリンの注射と内服薬の服用を組み合わせた薬物療法が治療の中心となります。具体的には、毎食前に打つ短期間作用型のインスリンと、1日1回か週1回打つ作用時間が長いインスリンを中心に、場合によっては内服薬も組み合わせて行う治療です。
糖尿病合併症はどのように治療しますか?
糖尿病合併症は、全身の血管が高血糖の持続で傷つくことで、今は症状がなくても、数年後、数十年後に発症にいたってしまうことが特徴です。
ここで注意したいのが、血糖値のみを治療することでは、糖尿病合併症の予防は不完全です。高血圧や脂質異常症、喫煙習慣でも、血管は傷ついてしまうからです。このため、糖尿病合併症の治療は、血糖・血圧・脂質代謝の管理を中心に行われます。
糖尿病になったら気を付けること
糖尿病になったら食事はどうすればよいですか?
糖尿病患者さんにおける食事療法は、治療の基盤となる重要な要素です。
適正なエネルギー量を、栄養バランスを整えて規則正しく摂取することが推奨されます。
栄養素の摂取比率は全体のエネルギー摂取量のうち、50〜60%を炭水化物で摂取し、タンパク質を20%以下、残りを脂質とするのが目安です。個々の食習慣を尊重し、柔軟に対応することが必要です。
食事以外に気を付けるべき生活習慣を教えてください
食事療法と同様に、運動療法も糖尿病治療の根幹をなす要素です。
適切な運動習慣の維持により、インスリン抵抗性の改善、エネルギー消費量の増加による血糖コントロールの改善、高血圧症・脂質異常症・内臓脂肪型肥満などの心血管病リスク因子の是正を目指します。
安全上の注意としては運動療法を始める前には、未治療の糖尿病網膜症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患などがないか事前評価が重要です。これらの疾患がある場合は、治療して安定した後に運動療法が許可されます。
糖尿病と診断されたらお酒やタバコは止めた方がよいですか?
禁煙の遵守は、生活の質(QOL)の維持と寿命の確保に大きく貢献するとされています。したがって、糖尿病と診断された場合、タバコは止めるべきです。喫煙は糖尿病の合併症リスクをさらに高める可能性があります。
アルコール摂取については、大量飲酒例がビグアナイド薬(メトホルミン)の禁忌に該当し、メトホルミンを飲んでいる方が大量飲酒を続けると、乳酸アシドーシスという重篤な副作用のリスクがあるため、細心の注意を払う必要があります。アルコールを完全に止めるべきとはされていませんが、一般的に糖尿病患者さんにおいては、節度ある飲酒が求められます。特にメトホルミンを服用している場合は、飲酒量について医師に相談し、指示に従うことが重要です。
編集部まとめ
糖尿病はインスリンの作用不足に基づく慢性の高血糖を主徴とする代謝疾患群です。現在の医学では完治は難しいものの、適切な治療によってQOLを維持し、合併症を予防・管理することで、糖尿病ではない方と変わらない寿命を確保することを目指します。 治療の基盤は、年齢や病態に合わせた食事療法と運動療法による生活習慣の改善です。それでも血糖コントロールが不十分な場合には、個々の病態や合併症、生活スタイルに合わせた薬物療法が選択されます。 また、食事や運動は薬物療法との関連性を考慮し、偏った食事や自己判断による極端な制限、特定の薬剤服用中の過度な運動は低血糖を招くおそれがあるため、主治医に相談しながら進めましょう。
参考文献
- 日本糖尿病学会(編・著):糖尿病治療ガイド 2024,文光堂,2024
- 一般社団法人日本糖尿病学会『健康食スタートブック』




