「朝、どうしても起きられない」「午前中は頭が働かず、身体がだるい」そんな辛い症状に悩んでいませんか。もしかしたら、その原因は低血圧 にあるかもしれません。低血圧は高血圧ほど注目されることはありませんが、日常生活の質(QOL)を大きく下げます。この記事では、なぜ低血圧だと朝起きるのが辛くなるのか、その科学的なメカニズムから、すぐに試せる朝の乗り切り方、そして根本的な体質改善を目指すための生活習慣まで解説します。
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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。
低血圧の人が朝起きられない理由
低血圧の人が起きられない理由を教えてください
低血圧の患者さんが朝起きられない主な理由は、私たちの身体の活動モードへの切り替えを担う自律神経の働きと、それに伴う血圧の調整機能の不調にあります。自律神経が睡眠モード(副交感神経優位) から活動モード(交感神経優位) へ切り替わる時間がかかるため、起床直後に倦怠感が残ります。また体内の血液量が少ない場合や筋ポンプ機能が弱い場合も脳への血流がさらに低下し、症状が増強してしまいます。
低血圧でも朝から元気な人はいますか?
低血圧の方は朝に不調を感じやすいですが、無症状の方もいます。身体がその血圧の状態にうまく適応しており、自律神経の調整機能も安定しているため、不調を感じることなく過ごせるのです。特にアスリートなど日常的に運動を行う方のなかには普段から低血圧の方もいます。
大切なのは、
血圧の数値そのものではなく、それによって辛い症状が出ているか どうかです。高血圧とは異なり、低血圧は直接的に重篤な病気のリスクを高めるものではないため、症状がなければ治療の必要はないとされています。この記事でご紹介する方法は、あくまで低血圧による朝の不調で日常生活にお困りの方向けのものです。
朝起き上がったときにめまいや立ちくらみになる理由を教えてください
朝、起き上がった瞬間にクラっとするめまいや立ちくらみが起こるのは、起立性低血圧 という状態が主な原因です。これは、寝ている状態から急に身体を起こすことで、一時的に血圧が大きく低下し、脳への血流が急減するために起こります。臥位から立位へ変わると血液が下半身へ移動します。通常は交感神経が働き心拍数と血管収縮で脳血流を保ちますが、その機能がうまくいかないとめまいや立ちくらみを起こします。
低血圧以外にも朝起きられない原因はありますか?
低血圧以外にも朝起きられない原因はさまざまあり、複数の要因が絡み合っていることも少なくありません。もし低血圧の対策をしても改善しない場合は、ほかの病気が隠れていないかを調べる必要があります。睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群、甲状腺機能低下症、貧血、うつ状態、薬剤(降圧薬・睡眠薬など)の副作用も考えられます。症状が続く場合は医療機関へ相談するとよいでしょう。
低血圧で辛い朝の乗り切り方
朝起きたときのめまいや立ちくらみへの対処法を教えてください
朝のめまいや立ちくらみは、起立性低血圧によるものが多いです。以下の工夫を行うことで症状を予防・軽減していきましょう。
ベッド上で準備運動 :足首を10回ずつ曲げ伸ばしし、ふくらはぎの筋ポンプを刺激する
深呼吸と段階的起き上がり :30秒の深呼吸後、座位をとった後に立位になる
水分補給 :起床後すぐ200mL程度の水分を摂り、循環血液量を増やす
弾性ストッキング :下肢への血液貯留を抑え、立ちくらみを軽減する
朝起きたときのめまいや立ちくらみがある方はぜひ実践してみてください。
午前中の身体のだるさをすぐに解消する方法はありますか?
低血圧の方が午前中にだるさを感じるのは
副交感神経から交感神経への切り替え がうまくいっていない証拠です。身体に対して「朝だよ、活動の時間だよ」と外部から明確なサインを送ってあげることで、だるさを軽減できる場合があります。
軽いストレッチやその場足踏みで下肢筋を動かす
カフェインを含む飲料(コーヒー1杯程度)を摂取する
カーテンを開けて太陽光を浴び、体内時計をリセットする
熱めのシャワーで交感神経を刺激する
これらの方法は自律神経へのモーニングコールのようなものです。いくつか試してみてご自身に合った方法を見つけるとよいでしょう。
長く眠っても朝起きたときのしんどさがとれないときはどうすればよいですか?
睡眠時間を長く取っているにも関わらず、朝のしんどさがとれない場合、それは睡眠の量ではなく質 に深刻な問題があるサインかもしれません。また、低血圧以外の病気が隠れている可能性も考えるべきです。寝室環境(室温・騒音・照明)の見直し、就寝前のスマートフォンやアルコールを控えるなど睡眠の質を改善してみてください。改善が乏しい場合は医療機関の受診も検討してください。原因となるストレスが思い当たる場合は心療内科、いびきや無呼吸、日中の異常な眠気がある場合は睡眠の検査も行える医療機関の受診が望ましいです。
低血圧でも午前中から元気に暮らすためにできること
毎朝すっきりと目覚めるために日頃からできることはありますか?
毎朝すっきりと目覚めるためには、日々の生活習慣を通じて、乱れがちな自律神経を整え、安定させることが根本的な対策となります。これは、いわば
自律神経のトレーニング であり、血圧の変動に柔軟に対応できる身体を作るための土台となります。
規則正しい生活リズムを確立する
バランスの取れた食事を3食摂る
適度な運動を習慣にする
入浴で心身をリラックスさせる
ストレスを上手に管理する
これらの習慣は一朝一夕に効果が出るものではありませんが、継続することで身体は変わっていきます。
午前中の体調不良を根本から改善する方法を教えてください
午前中の体調不良を根本から改善するには、その場しのぎの対症療法だけでなく、身体の内側から変えていくという長期的視点が重要です。これは、大きく分けて2つのアプローチから成り立ちます。
自律神経の働きを安定させる生活習慣の徹底
これが大変重要で、根本的な改善の土台となります。前の質問で挙げた規則正しい生活、バランスの取れた食事、適度な運動、質のよい睡眠、ストレス管理を継続的に行うことです。これらの習慣で朝の交感神経への切り替えをスムーズにすることが大切です。焦らず、まずは3ヶ月続けることを目標に、できることから始めてみましょう。
隠れた原因疾患の特定と治療
生活習慣を改善しても一向によくならない場合は、低血圧の原因として別の病気が隠れている可能性があります。特に
睡眠時無呼吸症候群、貧血、甲状腺機能低下症、うつ病など です。これらの病気がある場合、いくら低血圧対策をしても根本的な改善には至りません。その病気自体の治療を行うことが、結果として午前中の体調不良を改善する最短の道となります。
生活習慣の見直しによって自律神経の土台を固めつつ、必要であれば医療機関で専門的な診断を受け、隠れた原因がないかを確認してください。
病院では低血圧による辛さや不快な症状に対してどのように治療しますか?
低血圧の治療は、症状がなく日常生活に支障がない場合は経過観察が基本ですが、めまいやだるさなどで生活の質が著しく低下している場合には、症状を和らげるための薬物治療が行われることがあります。
治療は、生活習慣の指導を基本とし、必要な場合のみ血圧を上昇させる薬物療法を追加するという段階的なアプローチを行います。
編集部まとめ
低血圧による朝の不調は、多くの方が経験する辛い症状です。その原因は、朝の活動モードへの切り替えを担う自律神経の働きの不調にあり、特に朝は起立性低血圧を起こしやすい条件が揃っています。
根本的な改善を目指すには、規則正しい生活、バランスの取れた食事、適度な運動といった生活習慣の見直しが不可欠です。これらは、乱れがちな自律神経の働きを安定させ、血圧の変動に強いしなやかな身体を作ります。
もし、セルフケアを続けても症状が改善しない場合や、日常生活に大きな支障が出ている場合は、決して一人で抱え込まずに医療機関を受診してください。低血圧の原因として別の病気が隠れている可能性もあります。この記事を参考に、今日からできることを一つずつ始めていきましょう。
高宮 新之介 医師
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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。