「緑内障の人が飲んではいけない薬」はご存知ですか?飲んではいけない理由も解説!
公開日:2025/08/18

緑内障の治療では眼圧を下げることが重要ですが、なかには眼圧を上げてしまうおそれのある薬があります。特に、閉塞隅角緑内障の方は、こうした薬によって急激に眼圧が上昇し、急性緑内障発作を起こすリスクがあります。本記事では、緑内障の方が避けるべき薬の種類とその理由、どうしても必要な場合の対処法や代替薬、さらに日常生活での注意点などを解説します。

監修医師:
栗原 大智(医師)
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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
緑内障の人が飲んではいけない薬の種類と理由
緑内障の人が飲んではいけない薬の種類を教えてください
緑内障の方に禁忌とされている代表的な薬は、抗コリン作用や交感神経刺激作用をもつ薬剤です。これらは瞳孔を広げて眼圧を上昇させるおそれがあるため注意が必要です。具体的には、風邪薬や咳止め、抗ヒスタミン薬、睡眠薬など多くの市販薬や処方薬が該当します。
ほかにも、乗り物酔い止めや排尿障害の薬、気管支拡張薬、一部の抗不整脈薬や狭心症治療薬、一部の抗うつ薬(三環系など)や抗不安薬、眠剤(ベンゾジアゼピン系)など、抗コリン作用を持つ薬剤は幅広く存在します。こうした薬の多くで、添付文書に緑内障(特に閉塞隅角)の患者さんには禁忌と記載されています。
市販薬にも抗コリン作用のある成分は含まれていますか?
はい、市販されている風邪薬や鼻炎薬、酔い止め薬などには抗コリン作用を持つ成分が含まれている場合があります。例えば、市販の総合感冒薬には、鼻水やくしゃみを抑えるために第一世代抗ヒスタミン薬が配合されていることがあります。また、市販の鎮痛剤でも製品によっては抗ヒスタミン成分を追加しているものがあります。そのため、緑内障の方が市販薬を使用する際は、パッケージの注意書きを読み、緑内障の方は服用しないでくださいや、医師または薬剤師に相談などの記載がないか確認することが大切です。
すべての緑内障の人が抗コリン薬を飲んではいけませんか?
いいえ、緑内障のタイプによって異なります。 危険なのは閉塞隅角緑内障の場合です。開放隅角緑内障であれば、抗コリン薬によって急激な眼圧上昇をきたすことは基本的にないと考えられています。実際、ほとんどの緑内障患者さんは開放隅角型です。そのため、2019年には抗コリン薬の添付文書上の禁忌事項が見直され、緑内障から閉塞隅角緑内障に表記が変更されました。開放隅角緑内障については慎重投与扱いとなり、必要であれば医師管理下で使用できるようになっています。
閉塞隅角緑内障の人が抗コリン薬を飲んではいけない理由を教えてください
閉塞隅角緑内障では、もともと目の中の房水の出口である隅角が狭くなっています。その状態で抗コリン薬によって瞳孔が開く(散瞳する)と、虹彩の根元にある毛様体筋がゆるみ、隅角がさらに狭く閉じてしまいます。その結果、房水の排出が滞ってしまい、急激な眼圧上昇をきたすことがあります。このようにして起こる急性発作を急性緑内障発作と呼び、激しい眼痛や頭痛、吐き気、視力低下などの症状を引き起こします。閉塞隅角緑内障の方に抗コリン薬の使用が禁忌とされるのは、こうした急性緑内障発作を誘発しかねません。
閉塞隅角緑内障の人が抗コリン薬の代わりに飲める薬
抗コリン薬が治療に用いられる病気の種類を教えてください
抗コリン薬は全身のさまざまな疾患の治療に使われています。代表的なものとしては、パーキンソン病や頻尿や過活動膀胱、気管支喘息などが挙げられます。ほかにも全身麻酔の前投薬や眼科での散瞳検査にも抗コリン薬が用いられています。このように抗コリン薬は多くの場面で使われています。
閉塞隅角緑内障の人が抗コリン薬での治療を要する病気になったときはどうするのですか?
まず主治医に相談し、代替薬や治療法がないか検討します。抗コリン薬以外にも治療の選択肢がある疾患では、なるべく隅角に影響しない薬を使うのが原則です。例えば、抗ヒスタミン薬の代わりに第二世代の抗アレルギー薬を用いる、頻尿の治療では抗コリン作用を持たないβ3刺激薬を選ぶ、といった工夫があります。どうしても抗コリン薬が必要な場合には、眼科でレーザー虹彩切開術や白内障手術を受けて隅角を開通させておけば、抗コリン薬による急性緑内障発作の危険がほぼなくなります。
また、過去に眼科の検査で散瞳を行って特に問題がなかった方であれば、抗コリン薬を使っても発作を起こす可能性は低いとされています。どうしても抗コリン薬が必要な病気にかかった場合は、自己判断で避けたりせず、眼科医や他科の医師と相談しながら安全性の高い治療法を選択してください。
風邪を引いたときに抗コリン薬の代わりにどのような市販薬を買えばよいのか教えてください
風邪の症状を抑える市販薬を購入する際は、抗コリン作用を含まないものを選ぶのが基本です。総合感冒薬の多くには抗ヒスタミン成分が入っているため避けた方がよいでしょう。咳がつらい場合は、抗ヒスタミンを含まない鎮咳去痰薬を選ぶようにします。鼻水や鼻づまりに対しても、抗コリン作用のある成分を避け、場合によっては医師に相談して点鼻薬や第二世代の内服薬で代替しましょう。市販薬を購入する際には薬剤師に緑内障であることを伝え、適切な商品を選んでもらうとよいでしょう。
緑内障の人が薬以外に気を付けること
緑内障の人が避けた方がよい飲み物や食べ物はありますか?
特別に禁止される飲食物はありませんが、量や摂り方に注意した方がよいものはいくつかあります。まず、一度に大量の水分を短時間で飲むと、眼圧が上昇することがあるため避けた方がよいです。水分は少量ずつこまめに摂るようにしましょう。そのほかには、直接緑内障を悪化させる飲み物や食べ物はありません。しかし、糖質や脂質が多い食べ物や飲み物は、糖尿病や高血圧を引き起こし、間接的に緑内障を悪化させることがあります。そのため、健康的な食事は緑内障予防の観点からも重要となります。
緑内障が日常生活で気を付けることを教えてください
緑内障だからといって特別に日常生活を制限する必要はありません。あまり神経質になりすぎず、旅行や趣味なども楽しんで差し支えないでしょう。ただし、目の負担や眼圧上昇につながりうる習慣は避けた方がよいでしょう。例えば、うつ伏せで寝る姿勢は眼圧を上げる危険因子とされています。また、激しい息止めを伴う筋力トレーニング(重量挙げなど)は、一時的に眼圧が上昇することがあるため控えめにしてください。筋トレをする場合でも、息を止めず、過度に重い重量は避けて、適度な回数・負荷で行うことが大切です。一方、有酸素運動(ウォーキングや軽いジョギング)など適度な運動は、眼圧下降や緑内障の進行抑制に有効な可能性があるため、医師と相談しつつ生活に取り入れるとよいでしょう。
緑内障の人はタバコを吸わない方がよいですか?
はい。喫煙習慣は緑内障の発症リスクや進行リスクを高める可能性があります。タバコを吸うと血管が収縮して血液中の酸素濃度が低下するため、視神経への血流に影響することがあります。実際、ヘビースモーカー(長期間の大量喫煙者)の緑内障患者さんほど視野障害の進行が早く、喫煙歴のない患者さんに比べ視野悪化のリスクが約2.2倍になるという研究結果も報告されています。喫煙が直接緑内障を招くかについては結論が出ていませんが、少なくとも喫煙が緑内障を悪化させる要因であることは明らかです。喫煙は白内障や加齢黄斑変性症などほかの眼疾患のリスクも高めます。緑内障の方はできるだけ早く、禁煙することを強くおすすめします。
編集部まとめ
緑内障患者さんが注意すべき薬は、主に抗コリン作用のある薬であり、その多くは閉塞隅角緑内障の場合に問題となる薬です。開放隅角緑内障の方であれば基本的に使用可能ですが、それでも新しい薬を飲む際には眼科医に相談するのが望ましいでしょう。緑内障は糖尿病や高血圧などと同じく一生付き合う病気ですが、医師の指導の下で薬物療法と生活習慣の工夫を続ければ、多くの場合その進行を抑えられます。心配しすぎず、しかし油断せずに正しい知識で緑内障と向き合っていきましょう。



