プール熱 (咽頭結膜熱〈いんとうけつまくねつ〉)は、アデノウイルスによる感染症で、高熱・喉の痛み・結膜炎を主症状とし、特に子どもによく見られる病気です。かつて夏場にプールで集団感染が報告されたことからプール熱と呼ばれますが、現在ではプールに限らず日常生活のさまざまな場面で感染が広がります。大人でもプール熱に感染する 可能性はあり、特に子どもから家庭内でうつったり、子どもとの接触が多い環境では注意が必要です。本記事では、大人のプール熱で現れる症状や特徴、重症化のサイン、適切な対処法や感染予防策についてQ&A形式で解説します。
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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
大人のプール熱で生じる症状と特徴
プール熱の症状を教えてください
プール熱の主な症状は
発熱・咽頭炎(喉の痛み)・結膜炎(目の充血や目やになど) の3つです。具体的には、38~40度近い高熱が出て喉が赤く腫れて強い痛みを伴い、さらに片目または両目が真っ赤に充血して目やにが出る結膜炎が起こります。加えて、頭痛や全身の倦怠感、食欲不振がみられることも多く、腹痛や下痢など消化器症状を訴える場合もあります。首のリンパ節(特に耳の下や首の後ろ)が腫れて痛むこともあり、これらの症状がそろうと医師はプール熱を疑います。
一般的に症状の持続期間は3~7日程度で、徐々に快方に向かいます。発熱は高熱が続きやすいですが、朝夕で39度前後の高熱と37度台の微熱を行き来する日内変動が現れることもあります。プール熱には特効薬がありませんが、ほとんどの場合は自然回復します。
大人のプール熱の症状にはどのような特徴がありますか?
大人も基本的には子どものプール熱と同様の症状 が現れます。高熱(38~39度台)と強い喉の痛み、倦怠感に加え、結膜炎による目の充血・異物感・涙目といった症状が出ます。症状の経過も3~5日程度続いた後に回復に向かうことが多い点は子どもと同じです。ただし、大人の場合は症状がやや軽い こともあり、特に結膜炎の症状がはっきりしない 場合があります。発熱と咽頭痛だけだと、ぱっと見はただの風邪やインフルエンザと区別がつきにくく、本人も眼の充血に気付かないことがあります。一方で、免疫力や既往の違いから大人でも重症化するケース もありえますので、子どもの病気だから大丈夫と油断せず体調の変化に注意することが大切です。
大人のプール熱と間違えやすい病気を教えてください
プール熱は発熱と咽頭炎を主症状とするため、
風邪やインフルエンザ と間違われやすいです。しかし、インフルエンザや一般的なかぜでは結膜炎(目の充血・目やになど)は通常起こらないため、
目の症状があるかどうか が重要な見分けるポイントになります。また、近年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でも喉の痛みや発熱がみられますが、新型コロナで結膜炎が起こる例は多くありません。
夏場に小児で流行するヘルパンギーナ(エンテロウイルス感染症)も高熱と喉の痛みを伴いますが、喉の奥に1~5mm程度の水ぶくれ(水疱)が多数できるのが特徴で、咽頭全体が赤く腫れるプール熱とは所見が異なります。さらに、ヘルパンギーナやプール熱には迅速診断キットがなく症状で判断する場合もありますが、アデノウイルス感染かどうかは医療機関で迅速検査を行って確かめることも可能です。迷った場合は医療機関で検査・診断してもらうとよいでしょう。
大人のプール熱が重症化したらどのような症状が現れますか?
プール熱は多くの場合は数日~1週間程度で自然に治癒しますが、まれに重症化して合併症を起こすことがあります。代表的なのは
肺炎 で、高熱が長引くだけでなく激しい咳や呼吸困難(息苦しさ)などが見られるようになります。その場合、入院が必要になることもあります。
また、ごくまれに中枢神経系に障害が及ぶ例も報告されており、
脳炎 を合併すると意識がもうろうとしたりけいれん発作が起きたりすることがあります。実際には脳炎の頻度は極めて低いですが、高熱に加えて意識状態の異常やけいれんが見られた場合は重篤な状態ですので救急受診が必要です。重症化しやすいのは乳幼児や高齢者、基礎疾患のある方、免疫力の落ちている方などですが、健康な大人でも油断せず、呼吸状態の悪化など重症化のサインがないか注意しましょう。
大人がプール熱にかかったときの対処法
大人がプール熱にかかった際は会社を休むべきですか?
はい。プール熱はとても感染力が強いウイルス 感染症であり、症状がある間は他者へうつす可能性が高いです。学校保健安全法では咽頭結膜熱と診断された児童生徒について、主要症状(発熱、咽頭炎、結膜炎など)が消えた後2日を経過するまで出席停止(登校禁止)と定められています。会社勤めの大人の場合は法律での規定こそありませんが、多くの職場がこの基準に準じて出勤停止 の対応を取っています。したがって、大人でもプール熱にかかったら無理をせず休暇を取り安静に過ごす ことが望ましいです。職場には医師の診断結果を報告し、復帰時期は、解熱し喉の痛みや結膜炎が治まってから最低2日ほど経過していることを目安に相談して決めましょう。
大人のプール熱による目の症状が現れたときの診療科目を教えてください
プール熱は発熱や喉の症状も伴うため、まずは内科や耳鼻咽喉科 を受診しても診断・治療を受けることができます。しかし目の症状が強い場合 は、眼科 を受診することをおすすめします。アデノウイルスによる結膜炎は放置すると角膜が濁ることもあり、重症の場合は眼科点眼薬の処方などが必要になることがあるためです。他科を受診している場合でも、目の症状が悪化するようならあらためて眼科医に相談しましょう。
大人がプール熱による咽頭炎で飲食ができないときはどうすればよいですか?
喉の痛みが強いと、水を飲むのもつらく感じることがあります。まずは脱水症状を防ぐことが最も重要ですので、少量ずつ頻回に水分補給 を行ってください。また、食事が固形物で飲み込みづらい場合は、無理に固形物を食べずに喉ごしのよいもの でカロリーや栄養を補いましょう。例えば、ゼリーやヨーグルトなど冷たくて滑らかな食品は喉に刺激が少なく食べやすいでしょう。味付けは酸味や香辛料、塩分の強い刺激物は避け、薄味で温かすぎない料理 (スープやおかゆなど)がおすすめです。
大人がプール熱にかからないための感染対策
子どものプール熱による家庭内感染を防ぐ方法を教えてください
家族内にプール熱の子どもがいる場合、徹底した衛生管理で二次感染を防ぎましょう。
具体的には、手洗いの励行とタオルの共有禁止 が基本です。ウイルスは目やになどの眼の分泌物にも含まれ感染源となります。目の周りを拭く際はハンカチやタオルではなく
ティッシュなど で優しく拭き取り、使用後はすぐビニール袋に密封して捨てましょう。家庭内では患者さんと
タオル類を分けて使用 するのが鉄則です。患者さんの使用したタオルや衣類はほかの家族のものと一緒に洗わず分けて洗濯するようにしましょう。また、入浴も
最後の順番 にするようにしましょう。有効です。
咳やくしゃみによる
飛沫感染 も起こりますので、看病する家族も
マスクの着用 や咳エチケットを心がけ、できるだけほかの家族との密接な接触を避けて過ごしましょう。なお、アデノウイルスは
アルコール消毒では効果が不十分 な場合があります。手指の消毒には速乾性よりも石けんと流水での手洗いが推奨されます。拭き掃除には塩素系の除菌剤(次亜塩素酸ナトリウム)や熱湯消毒が有効です。
大人がプール熱にかかりにくくするために気を付けることはありますか?
大人であっても基本的な感染対策 は子どもと同様です。まず日頃から手洗い・うがいを習慣づけ、特に夏場に子どもの間でプール熱が流行している時期には念入りに実施しましょう。タオルの共用や飲食物の回し飲みなどは避け、家族や職場で体調不良の方がいる場合はマスクを着用するなど接触・飛沫感染の予防 に努めます。特に、子どもと接する機会が多い方や保育・医療関係者は警戒が必要です。以上のような基本的対策を心がけることで、大人自身がプール熱に感染するリスクを下げることができます。
編集部まとめ
子どもの夏風邪の一種として知られるプール熱ですが、大人でも油断はできません。大人が感染した場合も高熱・喉の激しい痛み・結膜炎による充血などの症状が数日間続き、仕事や日常生活に支障を来すことがあります。幸い多くは対症療法と安静で自然に治る病気ですが、まれに肺炎など重い合併症につながるケースも報告されています。治療の特効薬はないため、症状を和らげる対症療法が中心です。感染力が強いため、発症したら学校や会社を休んで療養し、家庭内でも二次感染を防ぐ対策を徹底しましょう。また、日頃から手洗い・咳エチケットの励行や疲労をためない規則正しい生活によって、プール熱を含むさまざまな感染症にかかりにくい身体作りを心がけてください。
栗原 大智 医師
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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。