「糖尿病の合併症」はご存知ですか?合併症による症状も解説!【医師監修】
公開日:2025/08/19

糖尿病は、初期には自覚症状が少ないものの、放置するとさまざまな合併症を引き起こします。 昏睡に至る急性の合併症や、失明や腎臓病につながる慢性の合併症など、その影響は全身におよびます。合併症の重症化を防ぐには、予防と日常的な管理が欠かせません。この記事では、糖尿病による主な合併症、その予防法や治療法をわかりやすく解説します。

監修医師:
江口 瑠衣子(医師)
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2009年長崎大学医学部卒業。大学病院での初期臨床研修終了後、10年以上にわたり地域の基幹病院で腎臓内科の診療に従事。患者さん一人ひとりに寄り添った医療を心がけており、現在は内科・精神科の診療を行っている。腎臓専門医。総合内科専門医。
目次 -INDEX-
糖尿病の合併症について
糖尿病にはどのような合併症がありますか?
糖尿病の合併症は、緊急で対応が必要とされる急性の合併症と、血糖値の高い状態が続くことで引き起こされる慢性の合併症の大きく二つに分けられます。
急性合併症は、短期間で生命に関わる状態となる合併症で、代表的なものに糖尿病性昏睡があります。糖尿病性昏睡には、糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖症候群があり、いずれも緊急での治療が必要です。一方、慢性合併症は高血糖が長期間続くことにより徐々に進行する合併症です。主に血管の障害により引き起こされます。
糖尿病により合併症が生じる理由を教えてください
糖尿病は、血液中のブドウ糖の量が増え、血糖値が慢性的に高くなってしまう病気です。インスリンと呼ばれるホルモンは、血液の中のブドウ糖を細胞の中へ移動させるのを助け、血糖値が上がりすぎないようにする働きがあります。インスリンの分泌が減ったり、分泌はされるのに効果を発揮できなかったりする場合、血液中にブドウ糖が増えすぎてしまいます。
急性の合併症は、このインスリンが不足したり、相対的に不足したりした場合に起こります。具体的には以下のようなものがあります。
- インスリン注射を使用している方がインスリンを減らしたり中止したりする
- ソフトドリンクなどたくさんの糖質を摂取する(相対的不足)
- 手術や感染症などにより高血糖になる(相対的不足)
糖尿病合併症|糖尿病性昏睡の症状と予防法、治療法
糖尿病性昏睡とはどのような状態ですか?
糖尿病性昏睡は、極度の高血糖により昏睡状態となる、命に関わる急性合併症です。主なものとして、糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧高血糖状態の二つがあります。
インスリンが不足すると、細胞がブドウ糖をエネルギー源として利用できなくなり、代わりに脂肪の分解が増えます。そうすると次のようなことが起こります。
- 脂肪が分解されると、最終的にケトン体という物質ができる
- ケトン体が著しく増加すると、血液が酸性に傾いてしまう
- のどが渇く
- たくさん尿が出る
- たくさん水分をとる
- 全身のだるさを認める
- 腹痛や吐き気がみられる
糖尿病性昏睡の予防法を教えてください
糖尿病性昏睡は、感染症やインスリン注射の中断、高度の脱水などがきっかけで起こるため、日頃から体調管理と自己血糖測定をしっかり行うことが重要です。のどが渇く、多尿、倦怠感、体重減少などの高血糖の兆候がある場合は血糖値の自己測定を行い、水分をしっかりと補給しましょう。また、清涼飲料水を多量に飲んだりすることはやめましょう。なお、異常を感じた場合は早めに病院への相談を検討しましょう。
糖尿病性昏睡はどのように治療しますか?
糖尿病性昏睡は緊急の治療が必要です。入院のうえ、大量の点滴(輸液)と、インスリンの投与が行われます。糖尿病性ケトアシドーシスでは輸液を行い高度の脱水を補正し、インスリン投与によって高血糖とケトアシドーシスを改善させます。一方、高浸透圧高血糖状態の治療は、基本的にケトアシドーシスの治療と同様ですが、脱水が高度なため輸液による脱水の補正が最も重要です。
糖尿病による慢性合併症の症状と予防法、治療法
糖尿病の慢性合併症にはどのような種類がありますか?
糖尿病の慢性合併症は、障害される血管の大きさにより、細い血管が障害される細小血管合併症と、太い血管が障害される大血管合併症に分類されます。特に、細小血管症には糖尿病の三大合併症と呼ばれる糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症があります。
大血管症では、動脈硬化の進行によって脳梗塞、心筋梗塞、足の動脈の狭窄や閉塞(末梢動脈疾患)などが引き起こされます。これは糖尿病だけに起こるわけではありませんが、糖尿病があるとより進行しやすいといわれています。
また、これら以外の糖尿病による慢性合併症には、感染症、足の病変、認知症などが知られています。
糖尿病による慢性合併症の種類別に症状や身体への影響を教えてください
まずは細い血管の合併症である細小血管合併症を順にみていきましょう。糖尿病性神経障害は、末梢神経障害と自律神経障害に分けられます。末梢神経障害では、足の裏に紙を貼ったような違和感、手袋や靴下をはいたような異常な感覚、手先や足先のしびれがみられることがあります。自律神経障害では、立ちくらみ(起立性低血圧)、便秘、下痢、排尿障害、性機能障害などがみられることがあります。
糖尿病性網膜症は、目の一番内側にある網膜と呼ばれる部分に異常をきたす合併症です。視力低下などの症状が現れ、最終的には失明に至る可能性のある重大な合併症です。
糖尿病性腎症は、腎臓の機能が低下してしまう病気です。腎臓の機能が低下すると身体に過剰な水分がたまり、むくみや胸水として現れる場合があります。血圧が上昇したり、貧血を認めたりすることもあります。また、病状が進行してくると尿中に排泄されるはずであった老廃物がたまり、頭痛や吐き気、意識障害などを引き起こします。
大血管合併症では、脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈疾患(足の血管が細くなったり詰まったりする病気)などが引き起こされます。これらは重大な後遺症を残したり、命に関わる状態になったりすることがあります。
糖尿病の慢性合併症は予防することができますか?
糖尿病による慢性合併症は、日々の血糖値を安定させることに加えて、血圧やコレステロールの管理、生活習慣などを総合的に見直すことで予防することができます。
最も重要な予防策は血糖のコントロールです。血糖値を適切な値に管理し、糖尿病の治療を決して中断しないようにしましょう。血圧や脂質の管理、定期的な検査による早期発見も重要な予防策です。
また、生活習慣の改善も合併症予防に効果的です。
- 食事療法
- 運動療法
- 適切な体重管理
- 禁煙
糖尿病による慢性合併症の治療法を教えてください
糖尿病による慢性合併症の治療法の基本となるのは、適正な血糖値の維持です。いずれの合併症も、初期の段階であれば血糖値のコントロールをよくすると改善することがあるとされています。これに加えてそれぞれの病態に対して治療が行われるため、解説します。
糖尿病性神経障害の治療では、それぞれの症状に対して症状を和らげる目的で薬物治療が行われることがあります。糖尿病性網膜症の治療では、病状に応じてレーザー光凝固術などが行われます。また、血糖値、血圧、脂質のコントロールは網膜症の進行抑制に有効な可能性があるとされており、併せて行っていくことが大切です。糖尿病性腎症の治療では、ARBと呼ばれる血圧を下げる薬や、SGLT2阻害薬という糖尿病の薬の腎保護効果も確認されており、必要に応じて使用されることがあります。糖尿病性腎症が進行してしまうと透析治療が必要になる可能性があります。
大血管合併症の治療でも、血糖値、血圧、脂質のコントロールが基本となります。ただし心筋梗塞や脳梗塞などが発症した場合は、それらに対する専門的な治療や薬物療法などが必要です。治療が終わった後は、引き続きその後の再発を予防するために血糖値などのコントロールを厳格に行います。多くは再発予防のための薬物療法も併せて行われます。
編集部まとめ
糖尿病の合併症には、糖尿病性昏睡などの急性合併症と、血管が障害される慢性合併症があります。どちらもそれぞれ命に関わる可能性があり、予防と適切な対処が重要です。治療をきちんと継続し血糖値を適正にコントロールすること、血圧や脂質の管理、食事や運動などの生活習慣の改善、そして定期的な受診が、合併症の発症や進行を防ぐために大切です。症状が出る前から予防の意識をもち、しっかりと取り組んでいきましょう。




