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「高齢者が腸閉塞」になったときの「余命」はご存知ですか?【医師監修】

 公開日:2025/11/29
「高齢者が腸閉塞」になったときの「余命」はご存知ですか?【医師監修】

腸閉塞は腸管に何らかの原因で詰まりが起こり、消化管内容物が流れなくなる病気です。高齢者の場合、腸管の動きが衰えたり、過去の手術による癒着(腸同士がくっつくこと)や大腸がんなどが原因となることが多いため発症リスクが高まります。腸閉塞は放置すると生命に関わる場合もありますが、適切に治療すれば回復も可能です。本記事では高齢者の腸閉塞に関する基礎知識、リスク、治療法、余命などについて、わかりやすくQ&A形式で解説します。

高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

高齢者の腸閉塞|リスクと余命

高齢者の腸閉塞|リスクと余命

高齢者の腸閉塞は命に関わる病気ですか?

はい、腸閉塞は放置すると生命に関わることがあります。特に腸管が完全に詰まって血流が途絶える「絞扼性腸閉塞」では、緊急手術が必要になります。この場合、血行障害が強いと放置してすぐに腸管壊死(壊死した腸管から菌が血液に入り感染症を起こす)となり、治療せずに放置すればほぼ100%死亡するとされています。一方で、早期に手術など適切な治療を行えば致命率は大幅に下がるとされています。

高齢者の腸閉塞を治療しないとどうなりますか?

治療をしないまま腸閉塞を放置すると、時間とともに腸管が腫れて血流が悪くなり、数日以内に腸管の壊死や穿孔(腸が破れる)が起こりえます。壊死した腸管から内容物や細菌が腹腔内や血流に漏出すると、敗血症や腹膜炎という深刻な合併症を引き起こし、死に至ることがあります。特に絞扼性腸閉塞の場合は、放置すればほぼ100%死亡する危険な状態となるため、発症後は速やかに医療機関を受診し、治療を受ける必要があります。

高齢者が腸閉塞になった場合の余命を治療法別に教えてください

高齢者の腸閉塞における余命(予後)は原因疾患や治療法によって大きく変わります。一般論として、適切な治療が行われれば多くは元の生活に戻れますが、再発リスクや基礎疾患に左右されます。以下に概説します。

緊急手術による治療 腸閉塞で血流障害が強い場合は緊急手術が必要です。手術で原因を取り除けば治癒率は高いですが、手術自体のリスクもあります。特に高齢・全身状態不良・心肺疾患を合併しているほどリスクは上がります。

保存的治療(手術なし、胃管などの処置) 軽度の腸閉塞の場合、絶食・点滴・胃管で腸管内容物を減らして経過観察する方法があります。高齢者では手術リスクを避けるために選択されることがあります。ただし根本的な原因を除去しないため、腸閉塞の再発率は高く、再度閉塞したときには症状が悪化してから治療となるリスクがあります。保存的治療で改善できた場合でも、原疾患(例えば腸管のがんなど)がある場合は、その進行度合いによって余命が左右されます。

悪性腸閉塞の場合 大腸がんやそのほかのがんが原因で腸閉塞となった場合は、がんの進行度が最も予後を左右します。進行がん(ステージ4など)の患者さんでは、腸閉塞を繰り返したり緩和的手術になることが多く、平均生存期間は数ヶ月程度と短くなることがあります。

高齢者が腸閉塞になりやすい理由

高齢者が腸閉塞になりやすい理由

腸閉塞は高齢者に多い病気ですか?

腸閉塞は全年齢で起こりえる病気ですが、原因には年齢と関係のあるものがあります。特に高齢者では大腸がん過去の腹部手術による癒着が腸閉塞の原因として多く、若い世代より発症する傾向があります。実際、「高齢者における大腸閉塞は大腸がんによるものが最多」との報告もあり、加齢に伴ってがんの発生率が上がることが影響しています。

高齢者の腸閉塞に多い理由を教えてください

高齢者で腸閉塞を起こしやすい主な理由は次のとおりです。

腸管腫瘍(がん) 高齢になるほど大腸がんの罹患率が上がります。大腸がんが進行して腸管をふさぐ「閉塞性大腸がん」になると腸閉塞を引き起こします。実際、腸閉塞の原因の多くは高齢者では大腸がんです。

腹部手術後の癒着 過去に虫垂炎や帝王切開、腸の手術を受けた方は、術後に腸同士が線維でくっつく癒着が生じ、腸閉塞の原因になります。癒着性腸閉塞は一度起こると再発しやすく、高齢者ではこれが何度も繰り返されることがあります。

嚢腫・ヘルニア 女性では子宮筋腫・卵巣嚢腫や高齢によるヘルニア(脱腸)も腸閉塞の原因になります。高齢者は筋力低下でヘルニアも起こりやすいため、腸閉塞のリスク因子になります。

腸管運動低下・便秘 高齢になると腸の蠕動運動が弱くなり、慢性的な便秘になりやすくなります。便秘状態で薬剤や食事で無理に排便しようとすると腸管内圧が急上昇し、腸閉塞を誘発することがあります。

腸閉塞になりやすい高齢者に特徴はありますか?

腸閉塞になりやすい高齢者の特徴として、次の点が挙げられます。

  • 腹部手術歴がある方
  • がんの既往がある方
  • 高齢女性
  • 栄養状態が悪い方
  • 薬剤の影響:便秘になりやすい薬(鎮痛剤、向精神薬、制酸剤など)

腸閉塞の治療法と再発防止法

腸閉塞の治療法と再発防止法

高齢者が腸閉塞になったときはどのような治療法が選択されますか?

治療法は腸閉塞の原因・重症度によって異なりますが、高齢者には一般に以下のような選択肢があります。

保存的治療 軽度の腸閉塞(特に小腸が部分的に詰まった場合)では、絶食・点滴・補助具(胃管など)で腸管内の圧を下げ、自然に通過を促す方法があります。高齢者では手術リスク回避のためにまず保存的治療を試みる場合が多く、場合によってはこれで改善することもあります。ただし、すぐに改善しない場合は手術が必要になります。

緊急手術 腸の血流障害(絞扼)やがんによる閉塞、大量の癒着による完全閉塞など重症例では、外科的に原因を取り除く手術が選択されます。手術では閉塞部位を切開・解剖したり、壊死した腸管を切除・吻合する場合があります。高齢者の場合、麻酔や手術による合併症リスクも高いため、可能であれば低侵襲な腹腔鏡手術を行うことも検討されます。

ステント留置やバイパス 大腸がんなどで腸が塞がっている場合、外科手術が難しいケースには腸管内にステント(筒状の金属具)を留置して通過路を確保したり、腸管バイパス手術を行う場合があります。

緩和治療 予後不良な末期がんによる腸閉塞では、手術が患者さんの負担を大きくし逆効果となることがあります。その場合は輸液・鎮痛・点滴などで痛みや不快感を和らげる緩和ケアに切り替えることがあります。

高齢者が腸閉塞の手術を受けるリスクを教えてください

高齢者が緊急手術を受ける場合、若年者に比べて以下のようなリスクが高まります。

手術死亡率の上昇 高齢になるほど手術中・術後の死亡リスクは上がります。例えば、75歳以上の群では手術後の入院中死亡率が18.2%であったのに対し、40~74歳群では8.9%と半分以下だったと報告されています。さらに、10歳増えるごとに術後30日以内の死亡リスクが約30%増加するとのデータもあります。

合併症リスク 高齢者は心臓病、肺疾患、糖尿病などの慢性疾患を抱えていることが多く、術後に肺炎や心不全、腎不全などを起こしやすいです。また、術後の創傷治癒が遅れる、認知機能が悪化する(術後せん妄など)など、高齢者特有の合併症もあります。

高齢者の腸閉塞は治療後も再発することがありますか?

はい、腸閉塞は治療後も再発することがあります。特に癒着性の腸閉塞慢性的な腸管運動不全では再発率が高くなります。健康長寿ネットの解説によれば、腹部手術後の癒着による腸閉塞はおおよそ3割の高い頻度で再発するとされています。つまり、一度腸閉塞になった高齢者は、しばらくして再び同様の症状を起こす可能性が高く注意が必要です。また、大腸がんなどの悪性閉塞で手術後に残存病変がある場合も、再び閉塞が起こることがあります。

腸閉塞の再発を防止する方法を教えてください

腸閉塞再発の予防には、原因に応じた対策と日常生活上の注意が重要です。以下の方法が有効です。

食事の工夫 高繊維食を一度に大量に摂ると腸管内容が詰まりやすくなります。1回の食事量を控えめにし、回数を増やすようにしましょう。また、よく噛んで飲み込むことで腸への負担を減らします。食物繊維は適度に必要ですが、極端に多いと便のかたまりができやすいので注意が必要です。

便秘予防 日頃から便秘をしないよう心がけましょう。適度な運動、水分補給、食物繊維の摂取は便秘予防になります。薬剤の影響で便秘しやすい場合は担当医に相談し、緩下薬を使用するなど対策をとります。

早期受診 腹痛や吐き気、排便・排ガス困難など腸閉塞の前兆症状を感じたら、すぐに病院を受診することが大切です。早期治療により腸管へのダメージが少なく、結果として再発のリスクも低減できます。

手術後のリハビリ 手術後は無理のない範囲で腹部を動かす体操や軽い歩行などを行い、腸管運動を促進します。横になる時間が長いと腸管の蠕動運動が低下し再閉塞のリスクが高まるため、可能な限り活動量を維持します。

定期検診 大腸がんなど悪性疾患が原因の場合は、定期的な内視鏡検査や画像検査で再発・再閉塞の兆候を早期に発見することが重要です。悪性疾患の治療後は主治医の指示に従い、定期診察を受けましょう。

編集部まとめ

編集部まとめ

腸閉塞は高齢者にとって決して珍しくない緊急疾患であり、重症化すれば命に関わります。高齢者本人や家族は、腸閉塞の症状を知り、普段から予防と早期発見に努めましょう。

参考文献

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