「腸閉塞の手術方法」はご存知ですか?合併症や入院期間も解説!【医師監修】
公開日:2025/12/02

腸閉塞は、腸の中の内容物(食べ物や消化液など)が途中で詰まって先に進めなくなった状態です。お腹がひどく張ったり痛んだり、吐き気や嘔吐、便やおならが出なくなるといった症状が現れます。腸閉塞はまず絶食や点滴、チューブによる減圧などの内科的治療(保存治療)で様子を見るのが基本ですが、それでもよくならない場合や腸の血流が途絶えるような重症例では、外科手術が検討されます。本記事では、腸閉塞に対する手術を解説します。

監修医師:
高宮 新之介(医師)
プロフィールをもっと見る
昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。
目次 -INDEX-
腸閉塞|手術の基礎知識
腸閉塞ではどのようなときに手術が選択されますか?
腸閉塞の治療ではまず内科的な保存治療(絶食して腸を休める、点滴で水分や栄養補給、鼻から管を入れて胃腸の内容物を吸い出すなど)を行い経過をみます。多くの場合、こうした処置で一時的に症状が改善しますが、症状が改善しない場合や腸閉塞を繰り返す場合には手術が検討されます。特に、腸が締め付けられて血流まで悪くなる絞扼性(こうやくせい)イレウスでは放置すると腸管の壊死や腹膜炎につながり命に関わるため、できるだけ早期に手術することが望まれます。絞扼性イレウスの場合は緊急で壊死した腸を取り除く手術が必要になります。
腸閉塞手術の種類を教えてください
腸閉塞に対する手術には目的や方法の違いによっていくつかの種類があります。大きく分けると、腸閉塞の原因を取り除く手術と、腸の通り道を新しく作る手術があります。具体的には以下のような術式が行われます。
- 癒着剥離術
- 腸管切除術
- バイパス手術
- ストーマ造設(一時的または永久的人工肛門の手術)
腸閉塞の腹腔鏡手術
腸閉塞の腹腔鏡手術はどのような手術ですか?
腹腔鏡手術とは、お腹に数か所の小さい穴を開けて、そこから内視鏡カメラと手術器具を入れて行う低侵襲な手術方法です。お腹の中を炭酸ガスで膨らませて空間を作り、カメラで内部を映しながら、外から細長い器具を操作して目的の処置を行います。腸閉塞に対する腹腔鏡手術の場合、狭くなった腸の箇所までカメラで観察しつつ、原因となっている癒着を慎重に剥がしたり、必要に応じて腸を切除して縫い合わせたりします。
腹腔鏡手術の大きな利点は、傷が小さいぶん術後の回復が早く日常生活への復帰もスムーズなことです。実際に腹腔鏡で腸閉塞の手術を行った患者さんは、開腹手術よりも早く食事を再開できたり、入院期間が短くて済んだりするケースが多いです。また、傷が小さいことで術後に新たな癒着が生じにくいという報告もあり、将来の腸閉塞再発リスクを低減できる可能性があります。
腸閉塞の腹腔鏡手術のリスクや合併症を教えてください
腹腔鏡手術は低侵襲とはいえ外科手術である以上、リスクや合併症がまったくないわけではありません。考えられる主なリスク・合併症には以下のようなものがあります。
手術中の合併症
腹腔鏡手術ではカメラで見える範囲で作業しますが、腸閉塞患者さんの場合は腸管が膨張して視野が悪かったり、癒着で臓器がくっついていたりするため、腸管やほかの臓器を傷つけてしまう危険があります。特に癒着を剥がす際に腸壁を損傷して穴を開けてしまうリスクや、腸の膜(腸間膜)にある血管を傷つけて出血するリスクがあります。
手術後の合併症
手術後には感染症や縫合不全などの一般的な外科合併症の可能性があります。腹腔鏡手術では開腹手術より傷が小さいため、傷口の感染(創部感染)は少ない傾向にあります。一方で腸を切ってつなぐ処置を行った場合、そのつなぎ目がうまくくっつかずに腸の内容物が漏れてしまう縫合不全といった重い合併症のリスクは、開腹か腹腔鏡かに関わらず一定の確率で起こりえます。
そのほかのリスク
腹腔鏡手術では手術中にお腹に二酸化炭素ガスを入れるため、血管にガスが入る空気塞栓症や、横隔膜を押し上げることによる一時的な呼吸・心肺機能への負荷が考えられます。また長時間の手術や術後安静によって血栓(血のかたまり)ができ、肺に詰まる肺塞栓症のリスクもわずかにありますが、予防策(弾性ストッキングや早期離床など)を行い注意します。
腸閉塞の腹腔鏡手術が選択されるのはどのようなケースですか?
腸閉塞に対する腹腔鏡手術はすべてのケースで可能というわけではありません。一般的に、次のようなケースで腹腔鏡での手術が選択肢に上がります。
- 癒着が重度ではない場合
- 全身状態が安定している場合
- 再発予防の目的がある場合
腸閉塞の開腹手術
腸閉塞の開腹手術の概要を教えてください
開腹手術とは、文字どおりお腹を大きく切り開いて行う従来型の手術です。腸閉塞の開腹手術では、一般的にみぞおちから下腹部にかけて縦に切開してお腹の中にアクセスします。直接手で腸を触れながら全体を確認し、閉塞の原因となっている箇所を探し出して処置します。処置の内容自体は先に述べた癒着剥離や腸管切除、バイパスなどで、開腹手術でも腹腔鏡手術でも最終的にやること(癒着をはがす、腸を切るなど)は基本的に同じです。違いはアプローチ方法で、開腹手術では広い視野で直接臓器を見渡せるため、複雑な病態にも対応しやすいという利点があります。
腸閉塞の開腹手術にはどのようなリスクや合併症がありますか?
開腹手術は侵襲が大きいため、腹腔鏡手術と比べていくつか注意すべきリスク・合併症があります。主なものを挙げます。
- 傷に関する合併症
- 癒着のリスク
- 全身への影響(術後麻痺性イレウス含む)
腸閉塞の開腹手術が選択されるケースを教えてください
腹腔鏡手術の項でも触れましたが、以下のようなケースでは開腹手術が選択される、あるいは結果的に開腹になることが多いです。
- 重度の癒着や複雑な病態の場合
- 緊急を要する場合
- 腹腔鏡設備や技術が不十分な場合
腸閉塞の術後経過
腸閉塞の手術後はどのように回復していきますか?
術後しばらくは腸が手術の影響で動きが鈍くなっているため、絶食して胃腸を休めます。手術翌日から数日は点滴で水分や栄養を補いながら、徐々に腸の動きが戻ってくるのを待ちます。お腹の手術後は腸が目覚めるまで通常2~3日かかり、まずお腹の中のガスが動き出してオナラが出るようになります。医師や看護師は聴診器で腸の音(蠕動音)が聞こえるか確認したり、患者さんにオナラや便の有無を尋ねたりして腸の目覚めをチェックします。腸管が再び動き出せば、少量の水やおもゆ(薄いおかゆ)から食事再開となります。
食事は流動食→軟らかい食事→普通食と、一段階ずつ進めていきます。これは、いきなり普通の食事をとって消化管に負担がかかると、また腸閉塞を起こしたり吐いてしまったりするおそれがあるためです。段階を踏むことで腸に慣らしていきます。順調なら手術から5日前後で軟食や全粥といったほぼ通常に近い食事が取れるようになります。固形物もしっかり消化でき、排便も問題なければ退院の許可が出ます。
腸閉塞手術の入院期間を教えてください
入院期間は、手術の内容や患者さんの回復具合によって大きく変わりますが、目安をお伝えします。一般的に、腸閉塞で保存的治療のみの場合は入院約1週間、手術治療を行う場合は入院2〜3週間程度になることが多いです。腹腔鏡なら短く、開腹なら長めになりがちです。入院中は焦らず治療とリハビリに専念し、退院のタイミングは医師と相談して決めましょう。普通のご飯が食べられるようになったら退院が一つの目安になります。
腸閉塞の手術後に再発することはありますか?
結論からいうと、腸閉塞は手術後に再発してしまう可能性があります。特に、腸閉塞の原因が術後癒着である場合、手術でいったん癒着をはがしても新たな癒着がまた生じてしまい、今後再発ゼロとは言い切れません。しかしながら、手術を行うことで再発リスクは大きく減少するともいわれています。
編集部まとめ
腸閉塞の手術について、基礎から腹腔鏡・開腹それぞれの特徴、術後の流れや再発の可能性まで幅広く解説しました。個別に状況が異なりますので実際の治療に関しては主治医とよく相談の上すすめてください。
参考文献
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 麻痺性イレウス」(2008年)
- 北里大学北里研究所病院 腸閉塞外来「腸閉塞外来 基本情報」
- 『急性腹症診療ガイドライン』第2版(2021年)
- 日本消化器外科学会・日本外科学会合同『イレウス診療指針』




