ワキガ(腋臭症)は、腋の下から強い体臭が発生する症状で、重度の場合には日常生活に支障をきたすこともあります。成人の男女でワキガ手術を検討している方にとって、治療法の種類や費用、保険適用の可否は重要なポイントです。本記事では、ワキガ手術の概要と費用について、保険診療と自費診療の違いを踏まえながらQ&A形式で解説します。
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山梨大学卒業。昭和大学藤が丘病院 形成外科、群馬県立小児医療センター 形成外科、聖マリア病院 形成外科、山梨県立中央病院 形成外科などで経歴を積む。現在は昭和大学病院 形成外科に勤務。日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会実施医師。
ワキガ手術の概要
ワキガ手術にはどのような種類がありますか?
ワキガ(腋臭症)の治療には、従来の手術療法から新しい機器を用いた方法までさまざまな種類があります。代表的なものとして、
剪除法(せんじょほう)があります。剪除法は腋の下を数cm切開し、皮膚を反転させて直接アポクリン汗腺(臭いの原因となる汗腺)を目視下で切除する方法で、根本的で効果の高い治療法です。
これに対し、皮膚を大きく切らずに臭いの原因に対処する低侵襲の治療法もいくつか存在します。例えば、
脂肪吸引の要領で汗腺を掻爬・吸引除去する方法、特殊なレーザーや高周波エネルギーを照射して汗腺を破壊する
機器治療、
A型ボツリヌス毒素注射によって発汗を一時的に抑える方法などがあります。各治療法で効果の持続期間や身体への負担は異なりますが、症状の程度やライフスタイルに合わせて選択肢が用意されています。
ワキガ手術が保険診療になる場合と自費診療になる場合の違いを教えてください
ワキガ治療において
保険診療が適用されるか否かは、症状の重さと治療法によって決まります。まず、症状の程度については、
悪臭が著しく日常生活や仕事に支障をきたす程度であると診断された場合、治療が必要な腋臭症として保険適用の対象になります。
次に
治療法については、保険が認められているのは基本的に
剪除法による手術だけです。一方、自費診療になる場合は、
症状が軽度で保険適用基準に満たない場合や、
ミラドライ・ビューホット・A型ボツリヌス毒素注射など保険適用外の治療法を選択する場合です。自費診療では治療費は全額自己負担となり、保険診療に比べて患者さんの費用負担が大きく異なります。
自費診療のワキガ手術にかかる費用相場
自費診療のワキガ手術にはどのようなものがありますか?
自費診療で行われるワキガ治療には、先述のとおりメスを使わない方法や低侵襲の手術法が中心となります。具体的には、下記のとおりです。
- ミラドライ:皮膚を切開せずマイクロ波エネルギーで汗腺を破壊する治療法
- ビューホット:高周波のラジオ波を細い針から照射して汗腺を凝固させる治療法
- レーザー照射による汗腺破壊
- 超音波吸引法:超音波で汗腺組織を乳化・吸引除去する方法
これらはいずれも皮膚を大きく切らずに済むため、剪除法に比べて傷跡がほとんど残らず
ダウンタイム(術後の安静期間)が短いのが特徴です。自費診療の治療法は選択肢が多い分、それぞれ効果や持続期間、リスクが異なるため、医師と十分に相談して決めることが大切です。
自費診療のワキガ手術の費用相場を教えてください
自費診療で行われるワキガ治療の費用相場は
治療方法によって大きく異なります。一般的な目安としては、A型ボツリヌス毒素注射が1回あたり約2~7万円、メスを使わない機器治療のミラドライは1回あたり20~30万円程度、レーザーや高周波機器を用いた治療は1回あたり5~10万円程度とされています。そのほか、クリニック独自の吸引法・超音波法なども含めると数万円~数十万円と幅広く、治療法や施術回数によって費用はさまざまです。
このように自費診療の場合、治療内容に応じて患者さんの費用負担は大きく変動します。実際の費用は施術を受ける医療機関ごとに設定されていますので、カウンセリング時に見積もりを出してもらい、費用明細を確認するとよいでしょう。
手術費用以外にかかる費用はありますか?
はい、ワキガ手術では
手術そのものの費用以外にもいくつかの費用項目があります。まず
初診料・再診料です。保険適用で手術を受ける場合でも、手術前の診察や術後の経過観察の診察には所定の診療費が発生します。自費診療の場合も、初回のカウンセリング料や麻酔代、薬代などが手術費用と別に請求されることがあります。ただしクリニックによっては、自費治療の費用を
パッケージ価格として提示し、そのなかに初診料・術前検査代・薬代・アフターケア費用などをすべて含めている場合もあります。
保険診療であれば術後の通院費用も一部負担で済み安価なことが多いですが、自費診療の場合は通院の度に費用がかかることもあるため注意が必要です。手術費用以外にどのような料金が生じるか、初回カウンセリング時に明細を確認し、不明な点は事前に質問しておくと安心です。
保険診療のワキガ手術にかかる費用相場
保険診療のワキガ手術の内容を教えてください
健康保険が適用されるワキガ手術は前述のとおり
剪除法のみとなります。剪除法では、腋の下の皮膚を約3~5cm切開し、皮下組織を剥離して露出させたうえで、臭いの原因となるアポクリン汗腺を医師が直視で一つずつ丁寧に除去します。保険適用で行う剪除法は、重度の腋臭症に対して効果が認められており、高い完治率と再発リスクの低さがメリットです。また汗の元であるエクリン汗腺も同時に一部取り除くため、臭いの軽減だけでなく発汗量自体も減る効果が期待できます。
手術は通常日帰りの局所麻酔下で行われ、両脇の施術時間は合計で1時間程度です。術後はガーゼや包帯で脇を圧迫固定し、数日間は腫れや内出血、痛みが出ることがあります。抜糸まで1~2週間程度かかり、その間は腕を激しく動かさない、入浴を控えるといった安静が必要です。以上が保険診療で行われるワキガ手術(剪除法)の大まかな流れになります。
保険診療でのワキガ手術はどの程度費用がかかりますか?
保険適用でワキガ手術(剪除法)を受ける場合、患者さんの自己負担額は一般的な健常成人の場合、通常手術費用の3割です。両脇の剪除法手術費用は自己負担額が約5万円、入院の場合は別途費用がかかります。このように数万円台で手術を受けられる点は、自費診療と比べて保険診療の大きなメリットです。ただし、初診料や検査代・薬代などが別途かかる点には留意が必要です。最終的な支払い額は手術を受ける医療機関で事前に説明されますので、不安な場合は見積もりを確認するとよいでしょう。
保険診療で手術前、手術後の通院にかかる費用を教えてください
保険診療でワキガ手術を受ける際は、手術以外の通院にもそれぞれ費用が発生します。ただし保険適用の場合、一般成人であれば診察料や処置料の3割負担のみで済むため一回あたりの負担は軽くなります。まず手術前では、初診の診察料や術前検査(血液検査など)に数百円~数千円程度の自己負担がかかります。術後は通常、数回の通院が必要です。術後の再診料や処置料も保険適用となるため、各回あたり千円前後の負担で済む場合がほとんどです。また、傷口の処置に使う軟膏は保険適用となり、その額は通常数十円〜数百円程度とわずかです。包帯やガーゼなどは自己負担となり、数百円程度かかることがあります。したがって、手術当日から抜糸までの通院にかかる自己負担費用はトータルでも数千円程度と見込まれます。なお、術後に合併症が生じて通院回数や治療が増えればその分費用も増えますが、異常がなければ定められた経過観察の通院のみで追加費用は最小限です。
ワキガ手術の費用負担を軽減する方法
ワキガ手術を受けたら医療保険の手術給付金は受け取れますか?
民間の医療保険や生命保険の手術給付金は、契約内容によってワキガ手術にも適用される場合があります。一般的に、保険診療で行われた腋臭症の手術であれば、多くの保険商品で給付金支払い対象の手術として定められていることが多いようです。一方、自費診療で行ったワキガ治療は保険会社によって扱いが異なるため、給付対象外となる場合もあります。実際に給付金が受け取れるかどうかは契約している保険の商品内容によりますので、事前にご自身の保険約款や保険会社への問い合わせでご確認ください。
ワキガ手術の費用は医療費控除の対象になりますか?
はい、ワキガ手術にかかった費用は条件を満たせば所得税の医療費控除の対象となります。たとえ保険適用外の自費診療であっても、その年のほかの医療費と合算して10万円を超えれば控除を申告することが可能です。控除を受けるには、手術費用を含む医療費の領収書を保管し、確定申告の際に所定の医療費控除の明細書を提出して申告を行います。医療費控除を適用することで所得税の還付や住民税の軽減につながりますので、ワキガ手術でまとまった出費をした年は忘れずに申告するとよいでしょう。
編集部まとめ
重度のワキガ(腋臭症)で日常生活に支障が出る場合、保険適用の剪除法手術を受ければ少ない自己負担で根治を目指すことができます。一方、自費診療の治療法にはメスを使わない新しい機器による治療など多くの選択肢があり、傷跡が残りにくいメリットがある反面、費用は数十万円と高額になりがちです。ご自身の症状の程度や経済的事情、希望する治療法を踏まえて慎重に検討することが重要です。費用面で不安がある場合には、高額療養費制度や民間保険の給付金、さらには医療費控除といった公的・私的な補助制度を最大限活用しましょう。術後に経済的負担が残らないよう事前に情報収集し、納得のいく形で治療に臨んでください。